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「アック様、大丈夫なんですか~?」
「問題ないぞ。ルティは彼女を守ってやってくれ!」
「はいっっ!」
「アックさん、無理しないでください。ルティちゃん同様にあなたに何かあったら大変なんですから」
「平気ですよ。とにかく湖から離れて――っ!?」
突然何かに両足を掴まれた感覚――の直後、いつの間にかその場に転ばされていた。
「アック様っ!? どうしたのですか~!?」
「や、やっぱり私たちもそこにいた方が……」
「なぁに、転んだだけで全然大したことはありま……う? うっ、うぅっ……何かに引っ張られ――」
ここから湖面までは数メートル以上の距離がある。それにもかかわらず、強い力がおれを引っ張り続けているようだ。ルティたちはおれから離れていて問題ない。
だが――海ほどではないが湖も深いところがある。そう考えれば出来るだけルティをここに近づけさせたくない。そう思って退かせていたが裏目に出たようだ。
「あっあぁぁぁぁっ――!! アック様ぁぁぁぁ!」
ルティの甲高い声が聞こえる。だが、この時すでにおれは水中に引きずり込まれていた。
(ん? 息ができる……溺れてもいないのか?)
視界は暗闇だが、手足に支障はない。そうなるとどこかの空間にでも連れ込まれたか。
「オマエ、思い出してココに来たか?」
どこからか声がする。声の主は見えないが、問いに答えたら姿を見せるはずだ。
そう思いながらダメもとで返事をしてみる。
「お前がここに呼んでくれたのだろう?」
湖に魔物が棲んでいることは話に聞いていた。冒険者たちが湖を避けて通ることも含めてだ。水辺のある場所は人間たちからすれば忘れ去られる場所。かく言うおれも思い出した場所というわけではない。
「……そこに行く。そこで待て」
「あぁ、待っておく」
状況的にどうなるか分からないが、今頃ルティとアクセリナはおれを探して湖でも覗いているのだろうか。浮かんでも来なければ心配が過ぎてしまうかもしれないが、アクセリナを信用するしかなさそうだ。
声の主が近づいてきているせいなのか、視界が急に明るくなる。別の空間かと思っていたが、透き通った湖底のようにも。視界をあやふやにしていたのは魔法の仕業のようだ。
そして――
碧の髪色に瞳、人間よりも手足が長い女の子が目の前に現れた。水棲の主とすればスキュラのように軟体生物だろうか。
「オマエの腰衣……トラウザー。返しに来たのか?」
「……ん? トラウザー? これはおれが元々着ているものだ」
レアガチャで出した装備を何故知っているのか。
(”忘れ去られたトラウザー”だったか?)
「忘れ去られたラールンカの湖。思い出してここに来たのならトラウザーとラーナを預ける。違わないのか?」
「……あー、間違いではないな」
「それなら、認める。ラーナはオマエにテイムされてやる」
「なに? テイムだって……?」
ガチャで何か不明なものをテイマー出来る。というのが現れていたのを思い出す。シーニャのように仲間にならなくてもいいのだが、味方が増えるのはありがたい。
「オマエの魔石を寄越せ」
「魔石?」
「ラーナ、魔石に刻む。オマエを知ること出来る。寄越せ」
なるほど、魔石のことまで知っているようだ。レアガチャで出た装備のことを言っている時点で魔石を知っていて当然か。名を刻むだとか知るだとか意味が分からないが、そろそろ上に戻らないとまずいはず。
ここは素直に言うことを聞いておこう。魔石を手渡すと、何かするでもなく石の表面に手を押し付けている。
「返す。受け取れ」
「え、あ、ああ」
魔石を受け取ると、すぐに手の平から魔法の文字が浮かぶ。
【水棲のラーナ 水属性特化 カエルパンチ Lv.主に依存】
「主、アック・イスティ……ラーナ、オマエの盾」
「ラーナ? ……名前か。というか君はカエル? そうか、だから……」
「トラウザー、一度返せ。再生、再生」
「こ、ここで脱ぐのか?」
「早く返せ」
よりにもよって下衣とは。このまま地上に戻ったら何て言われるか想像したくないな。湖底から上を見上げると、湖面を覗くルティの顔があった。泳げないのに入ろうとしているのだろうか。トラウザーを受け取ったラーナは何をしているでもない。
だが何も言わずにおれの後を付いてくる。
「……地上に戻るぞ? いいんだよな?」
「ラーナ、アックにつく。トラウザー、もうすぐ再生」
「再生か。ボロボロな状態から綺麗になるってことなんだろうけど、早くして欲しかったな……」