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「おお、待っておったぞ!」
アマノイワドの戸を開けると、八意は顔を輝かせてこちらに駆けてきた。
「あの……那由多さんから話を聞いていると思うけど」
「聞いておる。凶霊を倒すのに、儂のアプリが必要なんじゃろう?」
いつもはめんどくさがるか、不機嫌な表情を浮かべる八意が、今日ばかりは機嫌が良かった。
典晶のスマホを奪い取るように手に取った八意は、小走りに番台まで駆けて早速作業を始めた。
「怪しいわね」
いつの間にか翼を生やしたハロが、スーッと音もなく八意の方へ近づいていく。典晶はハロの無防備な下半身を見ないようにして、後に続く。
「八意、どうしたの? いつものあなたらしくないけど?」
「なんじゃ、ハロ。儂が典晶達の手助けをすることがそれほど不思議か?」
典晶の方には目もくれず、八意はスマホとPCをつなげてキーボードを叩いている。
「不思議よ、いつもは那由多が頼んだって渋るくせに。一体何があったのよ?」
ハロは八意の後ろに回り込んで彼女の手元を覗き込む。八意は、手を休めることなくハロを見上げた。
「ムフフフ……、実は新しいアプリを開発したのじゃ! 前々から那由多にも言われておってな。この天才、八意思兼良命が少しばかり知恵と時間を使って開発したのじゃ!」
満面の笑みを浮かべる八意。頭の一つ目の帽子も、嬉しそうに目を細めている。
「それで、どんなアプリなの?」
顎に手をやりハロが尋ねる。典晶達も興味がある。凶霊を退治できるのか、美穂子と理亜を救えるのか、その手立てが此処にあるのかも知れない。
「実はの、典晶に渡した幽霊を見るアプリ、ソウルビジョンと組み合わせることでより快適に楽しめ、さらに便利になったのじゃ!」
「楽しめるって……」
イヤな予感しかしない。典晶は文也を見るが、彼も典晶と同感のようで、渋い顔で肩を竦めた。
「ソウルビジョンで見えるようになった不可視なる者達を、このアプリを使って捉えることができるのじゃ!」
「捉えるって、どうやって?」
「ソウルビジョンに映った幽霊にとあるボールをぶつけてゲットするのじゃ!」
「………」
いつか感じたイヤな感じがひしひしとする。そういえば最近、大人気のゲームがスマホのアプリで登場した。確か、そのゲームもカメラ機能やGPSと連動して、モンスターを画面上に映し出し、ボールを投げてゲットという内容だ。話を聞く限り、その内容と似ていなくもない。
「凄いではないか! 八意! それならば、理亜に取り付いた凶霊だけを取り除くことができるのだな!」
何も知らないイナリが、八意の話に食いつく。両手を握りしめ、イナリは瞳を輝かせる。
「その通りじゃ! この完全オリジナルアプリを、儂はこう名付けた! 『ポケコン(魂) GO!』じゃ!」
『完全にパクリじゃねーかよ!』
典晶と文也の声がハモった。その言葉に、八意はキッと目を吊り上げる。
「なんじゃと! 誰がパクリじゃ! リスペクトしていると言え! オマージュじゃ、オマージュ!」
「コイツ、ふてぶてしいな……」
文也は呆れたように呟くが、八意は全く意に介さずといった感じだ。それどころか、八意は勝ち誇ったような満面の笑みを浮かべ、こちらを見上げてくる。
「パクリパクリとお主らは言うが、本当にパクリか試してみるが良い。そもそも、儂が、この神である八意思兼良命が、人が作ったものを本当に丸パクリすると思うか?」
「う~ん……」
典晶は文也を見る。彼はいまいち得心がいかない表情を浮かべていたが、あちら側であるイナリとハロは、「確かに」と、したり顔で頷いている。
「論より証拠じゃ! さっさと行って、凶霊をゲットしてこい!」
「だから、ゲットとか言うな」
八意は典晶の携帯の作動を確かめると、「よし」と呟き、こちらに投げてよこした。
「でも、八意。そのポケコンで凶霊を捕まえたとして、何がどうできるのよ? まさか、アプリで浄化とかできるわけじゃないでしょう?」
ハロがもっともな質問をする。イナリは「そうなのか?」と、心配そうに八意を見やる。
「もちろん、捕まえるだけではないぞ! 捕まえた凶霊などの魂は、他のポケコンのトレーナーと『ヤシロ(社)』という場所で、バトルができるのだ! どうじゃ! 凄いじゃろう?」
「それ以上は止めとけ、完全にパクリだからな。訴えられても知らないぞ」
八意の神経の図太さに半ば呆れながらも、典晶は神様と人間の意識の違いに少しがっかりした。
「凄いではないか! なあ、典晶! このポケコンがあれば、凶霊を封じることもできるし、楽しむことだってできるぞ!」
イナリは目を輝かせて典晶の方を見るが、典晶の表情は対称的に暗かった。
「イナリ、凶霊は存在しちゃいけないんだ。それに、どんな魂だって、遊び道具にしちゃ駄目だろう」
「あっ……、そう、だったな……。すまない、そんなつもりで言ったんじゃないんだ……。ただ、私は美穂子を救う方法が分かったから……つい……」
典晶の落胆を見て取ったイナリは、唇を噛み悄然と項垂れた。
「良いよ、分かってるから……」
イナリとの意識の違いを感じ取っていた典晶は、言葉少なにイナリから八意に視線を移す。八意はイナリを見ていたが、典晶の視線を受け止めると、小さく肩をすくめてお茶を啜った。
「八意の悪のりはともかくとして、このアプリは本当に動くんだろうな?」
「悪のりとはなんじゃ、失礼じゃのう」
「それはそうだろう。人の魂を遊び道具に使ってるんだから。罰が当たるぞ?」
文也の言葉に、八意はニヤリと笑う。
「フフン、神である私に、一体誰が罰を当てるというのじゃ? 天照大神か? ゼウスか? サタンか? オーディーンか?」
言葉に詰まる文也に、さらに八意は畳みかけようとするが、宙に浮いたハロが八意の言葉を遮った。
「那由多じゃないのかしらね? 神様に罰を与えるのって」