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昨夜の、駅の改札前。
「結衣さん」
初めて名前で呼ばれた瞬間の、凪さんの柔らかい声。
髪に触れた指先の、微かな熱。
一晩明けても、その感覚は消えるどころか、思い出すたびに私の心拍数を跳ね上げていた。
(……落ち着け、私。今日は仕事なんだから)
月曜日の朝。
私はいつもの「鉄仮面」を被り、広告代理店のオフィスに向かった。
けれど、エレベーターの鏡に映る自分の表情は、どこか昨日までとは違っている気がして、私はわざと視線を外した。
デスクに座り、パソコンを立ち上げる。
メールボックスの一番上に届いていたのは、――御子柴凪からのメールだった。
『おはようございます。昨夜はありがとうございました』
その一行を見ただけで、胸がギュッとなる。
『例のカラーチャートの件で、少し確認したいことがあります。お昼休みに、屋上のテラスでお会いできませんか?』
「……仕事の、確認だよね」
自分に言い聞かせながら、私は「承知いたしました」とだけ返信をした。