テラーノベル
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⒊
時間がゆっくりと流れていく。敵の彼女はまだ目を閉じたままだけど、その呼吸のリズムは乱れていない。眠っているのか、それとも何か別の目的があって目を閉じているのか、ボクには判断がつかない。
でも、ここで油断するわけにはいかない。東の国の冷たい風がますます強く吹きつけ、ボクの羽根を震わせた。体が冷えていくのを感じながらも、焦りは感じない。むしろ、この静けさの中にこそ、次に起こる出来事の予兆が隠れている気がする。
突然、枝の向こう側から微かな音が聞こえた。葉が揺れる音、それは風の音ではなく、確かに誰かが動いている音だ。ボクはすぐに身を固くし、視線を向けた。
その気配は───敵ではない、仲間の気配だった。東の国の見張りが近づいてきているのを感じた。これで少しは安心できる……いや、まだ油断はできない。
ボクは視線を敵の女の子に戻す。もし彼女が敵ならば、見張りの動きに気づいているはずだ。だが彼女はまったく動じていない。逆に言えば、相当な自信家か、あるいは何か特別な理由でここにいるのかもしれない。
「よし、ここまで来た以上、決着は近いかもしれない」
ボクはそうつぶやき、ゆっくりと羽を広げた。風が再び吹き抜ける中、静かな戦いの幕開けを感じていた。
⒋
ボクは枝の影から静かに視線を向けたまま、周囲の空気を改めて確かめた。東の国の冷気は身体に染み込むが、それと同時に心を引き締めてくれる。敵が近づいているかもしれないという緊張感も、冷たい風が洗い流してくれるようだ。
敵は今、安心しきった様子で大樹に身を委ねている。だが、その無防備さが逆に危険を呼ぶことを私は知っている。油断は命取りになる。
「…ここまで登ってくる人いるんだ」
トワは聞こえない程度に静かに呟く。普段ならこんな高いところまで来る者はそういないはずだ。だが、かなたは違った。何か目的があるのか、それともただの休息か。
冷静に状況を分析しつつ、ボクは自分の位置を少しだけ変えた。死角になるとは限らないが、警戒し続けるにはいい場所だ。もしもの時にはすぐ動けるように、身体の力を抜かずに待つ。
目の前の大樹の葉擦れが風に揺れ、小鳥のさえずりがかすかに聞こえる。静寂の中に潜む緊張感が私を包む。
( 敵か味方か…どちらにせよ、これからが本番だ )
トワは無言でそう決意した。
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コメント
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最高っすね天才ですか?