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何故、目の前の狐娘を助けたのか。K=慧にもわからなかった。
時間は少し巻き戻る。
リアナが、周囲を取り囲むギャングから矢を浴びせられた。
彼女が倒れ、意識を失うのとは別に、左胸を吹き飛ばされた慧は地面に横たわりながら、近づいてくる『敵』の気配を感じた。
「殺人人形が。Kを仕留めやがったか」
男の声。
「ご苦労さん、と言いたいところだが、てめえには個人的にアニキの仇があるからな、メス狐。てめえも死ね!」
ぞろぞろとやってくるギャング。慧の視界に、戦闘服姿の男たちがやってきて、こちらを覗きこんでいる。
「こいつが、本当にKなんですかい?」
「まだガキじゃねえか」
ギャングたちは怪訝な顔をする。リーダー格らしい声がした。
「てめえらも見ただろう。このメス狐と互角以上に戦うところを。あんな化け物じみた動きをする奴だ、Kに間違いねえよ」
だが、それも死んだ――男の声に、周囲から笑い声がさざ波のように広がる。
「あの噂に名高いKを仕留めたとありゃ、オレたちの株も上がるってもんだ!」
「でも、ヴィッシュさん」
手下が片方の眉を吊り上げた。
「Kの姿って誰も見たことないですよね。このガキの死体持ち帰っても、信じてもらえないじゃないですかねぇ?」
「そいつは困るな」
ヴィッシュと呼ばれたリーダー格が言った。
次の瞬間、慧の目が動いた。
「心配ない。死体は持ち帰れないから」
すくっと、左胸がない少女の身体が起き上がる。
「お前らがここで全員くたばるから」
「ひぇっ!?」
ギャングたちは、どう見ても死んでいるはずのKが動き出したことにビビった。
慧の両腕が伸びる。近くにいた二人のギャングが胴を貫かれ絶命した。
失ったはずの胸のまわりが再生し、慧は元の姿へ。
「あれで生きてやがるのか!?」
ヴィッシュ――角ばった顎に無精ひげを生やした四十代ほどの男が唸った。
化け物――周囲の声を他所に、慧は右腕を横薙ぎに振るう。
腕の振りに沿って撒き散らされるのは黒い塊が無数。それらは漆黒のダガーとなってギャングたちの身体を突き刺さった。
慧は跳ぶ。手にした斧が、次々にギャングたちを仕留めていく。
ヴィッシュがクロスボウを放った。それは慧の首を狙い――しかし慧は首を傾けて避けると、その視線をギャングのリーダーに向けた。
「うああああぁっ!」
叫び声を上げて、ヴィッシュが逃げにかかった。だが振り返った瞬間、彼は飛来した斧――先の戦いでリアナに切り落とされた右手が変化したものに首を跳ね飛ばされた。
ギャングらは全滅した。
慧は一息つくと、倒れている狐娘のもとへ向かった。すっと膝をついて、手を伸ばして脈を確認。心臓に矢を喰らったのだ。おそらく生きて……た。
だが弱い。その命は消えかかっている。
このままでは死ぬ。
そう思った時、慧は彼女の胸に刺さっている矢を自らの身体に取り込むと、さらに腕を同化させてリアナの身体の中へ侵入させる。
傷によって傷ついた肉体、臓器をその場で変換、再生する。シェイプシフターの身体を、彼女の細胞、彼女の血液、臓器、肉へと『変身』することで、傷など存在しない、正常だと騙すのだ。変身したシェイプシフター体はそのまま彼女の身体の一部となる――と慧の中での理屈ではそうなる。
問題は、実は今まで成功したことがないということ。……成功すれば儲け、失敗したら……ごめんなさいよ。
数分後、リアナは息を吹き返した。試してみて、初の成功例となった。
何故、助けたか――そういわれると返答に困ってしまうのが、その時の慧の本音だった。
ちょうど怪我で死に掛けていたから。
「まあ、ついでだ」
そうとしか言えなかった。リアナは、ふむ、と自身の傷があった箇所に触れる。
「死んだと思った」
「実質、もう少し遅ければ死んでた」
慧は立ち上がった。
「別に感謝しろとは言わないけど――」
「なら、しない」
リアナも立ち上がる。そこまではっきり言われると――狐娘の言葉に、慧は複雑な表情を浮かべる。
「これからどうする?」
「戦いの続きを――とは言わない。もう勝てる気がしない」
リアナは淡々と言った。
「あんたにはわたしを口封じする理由があったけど、助けた以上、これ以上やりあう気はないと見る」
「……そうだな、せっかく助かったのに、また殺すとか寝覚めが悪くなりそう」
慧は自身の髪をかいた。リアナは顔を上げた。
「で、あんたはどうするの?」
#戦乙女
「あたし? あたしは、仲間のもとに帰るよ」
「仲間……? あんた、仲間がいたの」
「ああ、一人だと思ったか? これでも本職は殺し屋じゃなくて傭兵なんだけど」
慧は、何気なく言った。
「お前も来るか?」
「いいよ」
てっきり断られると思ったが、リアナは素直にこくりと頷いた。
何故そうなったのか、と言われたら、モノのついで、つい言ってしまった、なりゆき、としか言いようがない。
これが、慧とリアナの出会いの一部始終であり、彼女がハイマト傭兵団に加わるきっかけになった出来事だった。
・ ・ ・
劇的なやりとりもなく、ただその場のなりゆきで一緒になった。あの時かわした言葉が、ひとつでも違えば、またお互いに違う道を進んだかもしれない。
きっかけなんて些細なものだ。
だが今となっては互いに相棒と呼ぶような間柄だ。人生とはわからない。
その相棒――リアナはKとの思い出話をセラたちに言って聞かせている。彼女らしい淡々とした語りで。
そんな慧太のところにキアハがやってきて、小声で言った。
「あの、慧太さん、前からわからなかったんですが」
「ん?」
「犯罪組織の会合で、Kは密輸業者の……えーと」
「ブラド?」
「はい、そのブラドという男に成りすましていたんですよね? でも出る時はどうやって出たんですか? やっぱり、誰か他の人間に化けて……?」
「あー、あれな……」
慧太は、ちらとセラを見やる。この場で唯一、Kと慧太を別と考えている彼女。その銀髪姫は、リアナに注目していて、こちらに気づいていない。
「誰かに化けると、その化けた誰かと鉢合わせする可能性があった。では違う人間の顔に化けるという手もあるが、見たことない奴が奥から出れば見張りに立つ者から呼び止められる可能性がある……」
ギャング連中も下っ端はともかく、上位の警備担当ともなると切れ者も少なくない。
「だから、あの場では影に潜り込むことにした」
「影……?」
要領を得ない顔をするキアハ。慧太はさらに声を落とした。
「死体の影に隠れて、その後、一番近寄り難い準幹部クラスの人間の影に潜り込んで、外へ出るつもりだった。……ただ、最初に寄ってくれたのが幹部ではなく、周囲から近寄り難い空気を発散していた暗殺者だったから、そちらに移ったけどね」
――そう、リアナの影だ。
それぞれのボスのもとへ駆けつける連中の中で、同じくタオザのもとへ近づいた狐娘の影にK=慧太は他の人間の影を経由して入り込んだ。
あとは影に化けることで、悠々と誰にも気づかれずに会場を後にした。殺人人形とあだ名され、不用意に近づくと危ないとされるリアナは、周囲から有名だったから呼び止められることもなかった。
ちなみに、噂の殺人人形さんがどういう人物なのか観察するために、しばらく影に潜み行動を共にした。だから彼女が酒場で赤い天秤の残党に襲われた時、Kは酒場の入り口ではなく店の奥側から現れたのである。……すでに店の中にいたから。
馬車は進む。
リアナが話を終えたことで、再びサイコロが握られた。そんなのどかな昼下がり。
何事もなく、ライガネン王国まで――たどり着ければよかったのだが、アルトヴュー王国を揺るがす大規模な災厄が降りかかりつつあることを、まだ慧太たちは知らなかった。