テラーノベル
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ずっと消えてしまいたかった
自分なんている意味ないとそう思ってた
でも、君がくれた約束が俺の生きる意味をくれた
ねえ、いつかふたりでライブに行こうよ
君が教えてくれた嫁でも見にさ
だからその日まで、俺の隣で笑ってて
誰かとじゃない
俺は、君と生きていたいんだ
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こぽ、と音を立てて、口から空気が溢れ出す。
教室にいるはずなのに、まるで水の中みたいに息が苦しくて、上手く呼吸が出来なくなる。
ここは本当に俺の居場所なのだろうか。
だとしたら、どうしてこんなにも息苦しいのだろう。
両足で立っているはずなのに、足元からぐらついてくる。
なんで俺はここにいるんだろう。
なんで俺が、生きているんだろう。
「そんでさ、そんとき先生盛大に転んで──」
「はあ!?そんなおもろい事あったの知らないんだけど。な、佐久間」
息を吸っても肺の中が満たされない。
苦しくて溺れてしまいそうだ。
「佐久間?」
友達の深澤辰哉は怪訝そうに顔を覗き込むと、俺の顔の前で手をヒラヒラとさせた。
隣にいた渡辺翔太もアホ面でこっちを見ていたから、急いで意識を引き戻す。
そうだよ、ここは水中じゃない。
俺が通う、素乃玉学園高校2年9組の教室だ。
耳に流していた会話を必死に思い出すと、俺は取り繕うように笑った。
「マジ笑っちまうよな〜笑」
「今寝てただろぉ!」
「寝てねえよ、嫁のグッズを買うための貯金計画を考えてたんだよ!笑」
「何考えてんだよ笑」
周りの笑い声に合わせて俺も笑う。
笑えてるはずだ。
なのに、心の中はどうしようもなく空っぽで、虚しい。
「佐久間くん、先生が呼んでたよ!」
「マジ?今行く!」
教室の入り口から声をかけられて、俺は立ち上がった。
「ごめん、ちょっと行ってくるわ」
「佐久間何したんだよ わら」
「えー、真面目すぎとかじゃね?笑」
「なんだそれ わら」
「10秒で帰ってこいよ?笑」
「任せろ笑」
無理な命令を出してきた翔太に返事を返し、教えてくれた女子にお礼を言って教室を出た。
「……はぁ」
ひとりになると、少しだけ呼吸が楽になる気がする。
少し落ち着いてから歩き出すと、前から歩き出してきたクラスメイトと目が合った。
「あれ?佐久間、どこ行くの?もうすぐ授業始まるよ?」
「先生に呼ばれちゃってさ。職員室行ってくる」
「そっか、いってらっしゃい」
笑みを浮かべて、手を振り返す。
誰にでも笑顔を向けているあの人は、きっとこんなふうに鬱々とした気持ちなんて抱かないのだろう。
友達に囲まれていつだって笑っていて楽しそうで嬉しそうで。
どうしたらそんなふうに生きられるのか俺には分からない。
あんなふうに生きられたら幸せだろうと思う反面、内心ああは生きられないのが俺なのだと分かっている。
いくら上辺だけ見せかけても、心の中までは変われない。
人当たりが良くて、友達もいて、ダンスが得意。
それが他人から見た俺、佐久間大介だ。
家族仲だって悪くない。
心配しつつも俺の好きな物を認めてくれている両親がいて、たまに鬱陶しいけど信頼できる兄弟だっている。
なのに。
「あ──、しんどっ」
恵まれていることくらい分かっている。
だから他の人からしたら、なんて贅沢な悩みなんだと言われるかもしれない。
でも、たまにどうしようもなく消えたくなる。
心の中が空っぽで、真っ暗な闇に吸い込まれてしまいそうになる。
「……ははっ」
廊下の窓ガラスに反射して映る自分の顔がよく分からない。
笑っている?それとも、泣いている?
見えているはずなのに、自分自身のことのはずなのに、俺が一番分からない。
「失礼しました」
職員室のドアを閉めて、ふうと息を吐く。
先生に呼び出しは本当に大したことじゃなかった。
先日出した書類に一箇所、保護者の印鑑が抜けているから貰ってくるように、とかそういう内容だった。
授業中寝るなの注意もおまけされて。
そんなこと帰りのホームルームで言ってくれればいいのにと思いつつ、教室から出られたからまあいいかと思う。
ようやく戻ってきた教室の前で、少しだけ足を止めて深呼吸をする。
家も、学校も、友達と一緒にいても、どこか居心地の悪さを感じていたんた。
そっと教室のドアを開ける。
けれど、ガラッという音が妙に響いてしまった。
その瞬間、クラスメイトの視線がわずかにこちらに向けられ、興味を失ったように逸らされる。
妙に注目されてしまった気まずさを誤魔化すために見回した教室の中で、一人の男子が目に留まった。
声が大きくて、関西弁で他の友達にツッコミをいれてる。
そんな姿に、中学時代の友達を重ねてしまいそうになる。
あいつもよくあんなふうに───。
「……ッ」
記憶の中に引きずられてしまいそうになって、慌ててその姿から目を逸らし、俺は自分の席についた。
思い出したくなくても、思い出してしまう。
親友というほど仲がよかったわけでもない。
でもただのクラスメイトと言ってしまえるほど他人でもない。
そんな彼が、中二のある日、突然自殺した。
いや、突然じゃない。
あいつにとっては、ずっと悩んだ末の決断だったのだろう。
原因はいじめだった。
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