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「うらめしやぁ~、うらめしやぁ~」


毎夜現れる幽霊に、梨那は正常な心身を保てなくなった。

桜志郎が『海外売春』の話をしても、きちんと聞けない。

「いまは無理」「体調が悪いの」と断る。

まさか「幽霊が出るから」とは言えなかった。


梨那は寝る場所を変えてみた。

でも幽霊は現れる。

ビジネスホテルにもネット・カフェにも現れた。

でも他人には見えない。

「幽霊がいる」といっても信じてもらえない。


深夜2時。

今夜も幽霊は梨那の前に現れた。

どこで寝ても現れるから、自分の部屋に戻っていた。


「うらめしや~」

「もう! いったい何なの!?」

1週間経って、梨那は幽霊に慣れた。直視できるようになった。


颯真は空中から下りて梨那のベッドの横に立った。

ただし、少し浮いている。


「桜志郎と縁を切れ」

「はぁ?」

「プロポーズされてるやろ」


梨那は「結婚して下さい」と申し込まれていた。

風俗店の客だ。

風俗嬢を真剣に愛して結婚したい、という男性は存在する。

梨那の同僚にも、客と結婚して幸せな家庭を築いた風俗嬢がいる。


「あの人はエエ男や。間違いないで」

「え? 知ってるの?」

「幽霊は情報収集が得意なんや」


颯真は梨那を『ネイリスト』と思っていた。

本人がそう言ったし、いつもネイルが綺麗だったからだ。

梨那に復讐するために周辺を調べたら、風俗嬢と知った。

仕事が終わるのを待って、様子を見た。


サラリーマン風の男が、梨奈にプロポーズの返事を求めていた。

梨那は返事を保留した。


(あの男も、梨那を騙してるんか?)


気になった颯真は、男を尾行した。

年齢は35歳。

会計事務所に勤めていた。真面目で仕事も優秀だ。


「優しそうやし、最高やん」

「うん……。いい人なんだ」

「結婚せぇや」

「私を呪い殺しに来たんでしょ」


「復讐しに来た。そやけど、もう終わった


颯真の復讐は、梨那が本気で怖がったところで終わっていた。

あれだけ怖がれば『復讐終了』だ。


ただ、どうしても気になる。

桜志郎が言った『海外売春』の話だ。

浮気とはいえ、関係を持った女だ。

あんな卑劣な男の餌食になるのを見たくない。


「俺は桜志郎に殺されたんや。梨那も殺されるで」

「……」

「目ぇ覚ませや。アイツは最低の男なんや!」

復讐の相棒は成仏できない幽霊夫です。

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