瓶には、好きな香水を量り売りで入れたり、お客さんが自分でブレンドしたオリジナルの香水を入れることもできた。
「これに詰める香りは、どんなのがよく出ているの?」
「そうですね……」と、女性スタッフが考えるように店内を見回す。
「やっぱり季節柄、フラワーベースがよく出てますね……スズランの香りとかは、人気があります」
「スズランね」春先の今は、華やかなフローラル系の香りが出るのは、いつものことだった。
他にも何か真新しい口コミとかはないかなと思っていると、
「あっ、そういえば、」と、スタッフさんが思い出したように切り出した。
「猫好きだというお客さまが、猫型の瓶に猫の香りを入れられたらって、おっしゃられていて」
「猫の香り?」と、興味を持って訊き返す。
「ええ、たとえば陽だまりにまどろむ猫の毛並みの匂いとかって……ちょっと抽象的ですが」
「……面白そうね、それは。ちょっと試しに作ってみたいかも」
いいアイデアを聞かせてもらい、今後に繋げることが出来て、私はお礼を言いお店を出た──。
時間は夕方近くで、会社には直帰を伝えていたこともあり、帰りがけにちょっとお茶でもしていこうかなと思った。
カフェを探して歩いていると、後ろから、「君は、カッチェのお嬢さんか……」と、ふいに呼びかけられた。
この呼び方は──と、頭を振り返らせる。
「やっぱり……あなたは」
そこには、あの久我 貴仁さんの姿があった。
「久しいな、元気だったろうか?」
「ええ、元気ですが……」
こないだ女性と歩いているところを目撃してしまったこともあり、にわかに緊張が走る。
「……もし時間があるなら、カフェにでも行かないか?」
確かにお茶でもとは思っていたけれど、あんな場面を見てしまった後では、あえて彼の誘いには乗りたくないような気持ちもあった。
それに何より、そろそろ忘れかけていた頃だったのに、まるで当たり前かのように向こうから誘ってくるだなんて……。
一体、彼は何を考えていて──。