返答に困って黙り込んでいると、
「……すまない、私とカフェに行くのは嫌だろうか……」
彼の方から、憂いを含んだ表情で問いかけられた。
「あっ、と……嫌なわけじゃ……」
そんな顔を見せられては断るわけにもいかなくて、「では、少しでしたら……」と応じた。
近くのセルフカフェに入り、オーダーしたアイスコーヒーを手にテーブル席に座ったけれど、彼は以前と同じように自分から喋ることもなく、声をかけてきたのにどうしてといういぶかしい思いだけが募った。
やがて沈黙に押しつぶされそうにもなって、「あの、」とこちらから口を開いた瞬間、彼の方も軽く咳払いをして、
「なぜ今日は私を引き留められたんですか?」
「なぜ今日まで私に連絡をしてくれなかったんだ?」
ほとんど同時に、全く真逆とも取れる問いかけをしていた──。
そうして、また二人同時に、「「えっ?」」と、声を上げた。
いや……あんな別れ方をしていて、どうして私の方から連絡をしてくると思うんだろう……。私だって、もし会えればとは思いはしたけれど、それは今日みたいに偶然そういうことがあればぐらいの気持ちだったのに……。
彼の方は、そんなこと思ってもいなかったのだとしたら……。もしかして、女性関係には疎くてということも……?
「えーっと……」どう話していいのかを迷って、言いよどむ。
「……私への連絡は、したくなかったんだろうか?」
アイスコーヒーを一口含んで訊いてくるのに、またそんな訴えかけるような眼差しで見つめてくるだなんて、伏し目加減で翳りを帯びた端正なマスクには、正直勝てる気もしなくて、答えに窮してしまう。
「そういうわけでも……」弱り切った顔で口にした後で、彼の方からあくまでストレートに尋ねてくるのなら、こちらもいっそのこと思い切って直球で問い返してみようかと考えた。
「あの、連絡というか……そちらには、既に彼女がいらっしゃるのでは?」
実際、こないだ見かけた女性とお付き合いがあるのなら、私と連絡を取り合う必要などはないように思えた。
コメント
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そうね、疑問にある事は聞いた方がいいよね。 見た女の人とは何もないかも知れないもの。 誤解は解いた方がいいよ。ね