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──いざ当日になると、焦燥感に駆られ早くに目が覚めてしまった私は、さすがに二度寝をするような気にもなれずに、ベッドからもそもそと起き出すと時間もあるためお風呂を沸かした。
お風呂が沸いたことを知らせる自動音声に脱衣室へ向かい、そうしてふと覗いた鏡の中の自分にハッとして目を疑った。
「む、むくんでるー」
眠りの浅かったその顔は、すっかり腫れぼったくなっていた。
「どうしようーああもう……」
初顔合わせが、こんなむくみ顔でいいわけもないからと、時間をかけてゆっくりとお湯に浸かり、熱いシャワーを頭からかぶって、平手でパンパンと何度も頬を叩いた。
「叩きすぎて、痛い……かも」
お風呂を出て、再び鏡に映してみると、何度も叩いたかいがあってか、血色が良くなってむくみはだいぶ落ち着いてきたようにも見えた。
「よかった……。あんな顔が第一印象とか、あり得ないもの」
ランジェリー姿で、クローゼットを開け、服はどうしようかと考える。
最初はやっぱりスタンダードな感じが無難でいいかなと、ボウタイ付きの白のブラウスにブラウンの膝下丈のスカートを合わせ、黒の太ベルトを締めてまとめた。
「うん、いい感じ」
全身を映す鏡で確かめた後、ドレッサーの前に座ると、なるべく派手目にはならないようナチュラルメイクに仕上げた。
これならきっと好印象なはず……って、私ってば何を舞い上がっているんだろう……。
昨日の電話の様子からしても、相手の彼はいかにも仕方なしに会うような、そんな雰囲気だったのに……。
仕方なしに……だから必要以上に気分を上げていったって、きっとしょうがないんだよね……。
そう考えたら、途端に虚しくも思えてきた。
向こうは、どういうつもりで私に会うんだろう? やっぱりお父様から口添えをされたからだけなのかな。
……そうじゃなければいいのに。
自分も父親に話を持ちかけられた当初は、ちっとも乗り気じゃなかったのに、写真の彼が思いのほか素敵に見えてちょっとばかり舞い上がっていたところへ、いざ連絡をしてみて気のないような素振りを取られたからって、今度は少しでも気に入られたらと思うだなんて、我ながら報われない感じがした。
「そうじゃなかったら、いいのにな」
もう一度、心の中だけじゃなく声に出して言ってみて、私は短くハァーとため息をついた……。