“100日病”
それは、とある感染症についた名のことである。
『新型100日病ウイルスは類を見ないスピードで感染を拡大しています。み
なさんも手洗いやうがいなど感染症対策を心がけてください。』
「…100日病…」
テレビのニュースで流れてきた名に、冬弥は力なく笑った。
「俺はもう、手遅れだな」
◇◇◇
「もうちょっとで6時か」
ピロン!
律儀に6時ちょうど、着信音を鳴らすスマートフォン。彰人はあいつらしい と笑いつつ、メッセージアプリを開いた。
『彰人、元気か?』
『元気。冬弥は?』
『今はまだ元気だ。そういえば今日ーー』
6時になったら、冬弥と彰人は何があろうと連絡を取り、なんでもない雑談
をする。それは2人の中の決まりで、今までの30日ちょっと、彼らはそれ
を破らずに連絡を取り合っていた。
『面会謝絶というのは、なかなか酷なものだな。暇だ』
『暇てお前…』
面会謝絶。少しだけ、彰人の心が痛む。
『お前、ほんとになんとも無いの?』
『自分でも驚くレベルに、だ。本当に100日病なのか疑いたくなる』
『まあ元気ならいいけどよ』
彰人は、自然と一ヶ月前のことを思い出していた。
◇◇◇
誰もいない教室で、冬弥がしゃがみ込んでいた。
「なぁ冬弥、今日の練習だけど…冬弥っ!?」
「ぅ…彰人…」
「どうした!? 具合悪いのか!?」
「…足…力、入らなくて…少し、めまいがする…」
貧血か、はたまた風邪か。そう思考を巡らせる前に、彰人は冬弥を保健室へ
連れて行こうとした。
「立てるか? って全然立てそうじゃないな。仕方ねぇ、肩、貸してやる」
「……悪い」
その時養護教諭に大型病院を勧められたときから、おかしいと思っていた。
その違和感は、確かなものだった。
「…青柳さんが感染したのは、100日病です」
「100日病…?」
無理やり連れて行った大型病院で、冬弥はそう告げられていた。100日病。
名前すらも知らない病名に首を傾げていると、医者が言った。
「…少し、100日病の説明をしますね」
それをかいつまむと、こういうことだった。
100日病とは皆、貧血のような症状から現れ始め、その後100日経った日、
必ず心臓麻痺で死んでしまう病気。現在治療法は…ない。
それを聞いた瞬間、ざっと血の気が引いた。
「治療法がないって…それってどういう」
「彰人、落ち着け」
「…落ち着いてられっかよ!! お前死ぬかもしれないんだぞ!」
「…それは 」
冬弥が目を伏せて、考えるように何度か瞬きをする。
医者はその一瞬を狙って、こう切り出した。
「治療法がない以上、我々ができることはありません。青柳さんは入院して
もらいます。他の人に感染する可能性があるので、面会謝絶で…」
「…俺はもう、彰人にも会えない、ということですか」
「…残念ですが」
そしてその時、彰人は無意識のうちに冬弥の手を握っていた。
◇◇◇
「…彰人が寂しくないように、毎日6時にメッセージを送ってもいいか?」
「…オレ、に?」
「ああ」
そしてこれは、冬弥の提案だった。
その日から2人は、このやり取りを始めたのだった。
◇◇◇
『じゃあ、また明日連絡する』
『おう。待ってる』
やり取りが一段落ついた頃には、もう6時半を回っていた。もうあと数える
程しかない冬弥との、大切な会話。本当は何時間でもしていたいけど、そう
もいかない。
「…あと、何日なんだろうな」
冬弥があと何日で死ぬか、数えない。それも、冬弥の提案だった。いつ来る
か分からない、だがしかし確実にもうすぐ来る別れ。
それを覚悟して、彰人は…冬弥も、毎日を過ごしていた。
◇◇◇
2話出るまで期間開くかも…(初投稿のくせにネタがない)
コメント
1件
ゆっぺ〜!フォロー遅くなった💦 100日病!?なんて恐ろしいんだ…冬弥くん大丈夫かな……