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教育熱心は親は、この世の中では珍しくはないだろう。
ある人は、子供の成長のためにと。またある人は、子供の将来のためにと。
[子供のために]という言葉、それが子供にとっては呪縛のようなものなのである。
子供は大人の空気を読むことが、幼いにも関わらず得意であることが多い。
ある子は、親の機嫌を損ねないようにと。またある子は、親のステータスを上げるためにと。
今の時代、子供は親にとって、道具として扱われてきているという悲しい現実が、実現されてきている。
これはそのような出来事によって心が壊れてしまった子供達を救う、1つの事務所の物語。
1.向けられない自由
「助けてほしい?それって喧嘩とか、そういう?」
探偵のマリアは依頼人kの隣に座り、優しくその言葉の真意を聞こうとした。
__僕を、僕をあの家から、助け出して欲しいんです!!
それがkから言われた、今回の依頼内容。
助手の花音は、マリアとkとの会話や状況などを、赤色のメモ帳で記録していた。
それが、花音としての助手の務めだから。
「喧嘩とか、そういうのじゃないんです。ただ……家には戻りたくなくて」
「家に戻りたくない?つまり、家出ってことですか?」
「まぁ何も知らない私たちが勝手に決めつけるのもあれだし、ちゃんとkくんの口で説明してもらいましょう。アイス持ってきたから、よかったら食べましょう」
ここへ向かう途中に寄ったコンビニで買った3つのアイス。それを持っていた花音は、マリアとkに1つずつ渡す。青色の涼しげなアイスを頬張りながら、kは今までのことを話し始めた。
kの家は、いわゆる教育熱心な家庭だった。
母は医者、父は数学の教師として働いており、兄弟などもいない3人家族。
kが幼稚園の頃から、英会話塾や算数クラブに通わせ、勉強を習慣づけさせた。
小学校に入ってからは本格的な学習塾、それもエリートクラスに入れるなど様々なことをしてきた。
もちろんただ勉強させるだけではなく、習い事としてピアノや絵画、そろばんを習った。
それによってkの学力はどんどん上がり、小学生の時点でクラス1位の成績になった。
kの両親は近所の人から尊敬の眼差しで見られ、家庭教師として呼ばれることも少なくなかった。
もちろん、それで得られたお金も全て、勉強代にあてた。
それほどkの家族は、勉強に対して強い執着があったのである。
__しかし、中学校へ上がったkはやりたいことができた。
それは、歌い手である。
歌い手とは、自分の好きな曲などを自分で歌い、それをWeb上でアップする人たちのことを指す。
親から与えられたスマホで自分の好きなように、自由に歌っている人々が、kを自由へとかりだしたのだ。
だが、親はもちろんkには医者などの道に進んで欲しいと考えていたため、歌い手になりたいと言っても全く聞く耳を持たなかった。
中学校に入ってもクラス上位にいることが功を奏したのか、その時には特に何もなかった。
kは歌い手になりたい、という夢をどうしても諦めきれず、両親がいない夕方の1時間だけ歌い手活動をするようになったのだ。
道具などを揃えると両親にばれてしまうので、付属の有線イヤホンで全て事を済ませていた。
そんな生活が続いて1ヶ月、kは両親に呼び出された。
「ねぇk、あなた何か私たちに隠している事ない?」
「えっ?」
「さっき母の方にママ友から連絡が行ったらしくてな」
両親の顔にいつもの優しい面影は一切なく、見限るような顔つきをしていた。
「お前の声に似ている人が、歌い手活動という物をしている、と」
その時、kは思わず言葉を失った。
Webにあげたということは、誰でもそれを見ることができるということ。
しかし裏を返せば、それは誰か知っている知人などにも知られてしまう可能性がある、ということだ。
「私は、そんなことないって思ってその動画を見たんだけど……やっぱり何度聞いてもあなたの声にしか聞こえないのよ」
その時母は冷たく、こう言った。
「いい?私たちがこうやって頑張っているのは全て、あなたのためなのよ?」
「あなたがいい大学に行き、いい職に就くことができれば、あなたの人生は華やかになる」
「そこら辺の勉強もろくにできない人たちに負けていいの?人生の負け組になってもいいの?」
「私たちはあなたを思ってやっているのよ?それを……全てなかったことにする気なの?」
母の初めて見るその迫力に、kは体を震わせた。
父の方を見ても、父にも心配や同情というのはなく呆れている目をしていた。
「これからは毎日塾に行ってもらいましょう」
「朝5時に起きて昨日の復習、バスの中でも単語帳、休み時間は予習、学校終わりは寝るまで復習と受験勉強。これを毎日してもらうから」
「いや、でも……」
流石のkもこの無理のあるスケジュールには驚きを隠せない。
さっきまで冷たく、怖かった両親の顔が優しい顔つきになる。
それはいつのも両親の顔に見えたが、どこか違うような気がした。
「これはあなたの、将来のためなのよ」
「俺たちの自慢の子だろ。なぁ、k」
その両親の言葉が、kにとっては呪縛となった。
そこからが地獄だった。
毎日12時間以上の勉強を強いられ、スマホも没収されてしまった。
部屋で勉強する時も両親のどちらかがkを監視し、見張る。
「あなたがちゃんとした子になれば、私たちも怒らないわ」
それは、僅か13歳の少年の心を、酷く揺さぶった。
それから2年、kは県内トップ高校に合格し、入学することができた。
「これでやっと、スマホも自由も手に入れられる」
__この考えが早くして崩された。
「大学受験?流石に早すぎない?」
高校の入学式が終わり、kは両親に呼び出された。
内容は大学受験に対して。両親が決めた大学は日本でもトップ3校にも入る、名門校だった。
「この春休み、特別に休暇をあげたでしょう?あれでちょうどいいのよ」
「あぁ、きっと今現在、大学受験に向けて勉強をしている奴らが大勢いる」
「今やらなかったきっと……お前は負け犬になるんだぞ?」
どれだけ時が流れても、それは同じだった。
頑張って名門校に入学しても、両親は褒めてくれない。
狂ってしまいそうになっても、自分でなんとなしろと言われる。
そんな両親に対応に、ついにkの心は壊れてしまった。
「誰か、誰か……助けて」
唯一与えられたパソコンで、どうにかできないかと模索していた。
「ん?なんだこれ」
「……子供を救う探偵?」
2.自由を求めて
「なんですか、それ……子供のことをなんだと思ってんですか?」
あまりの事実に、花音は言葉を失っていた。
マリアは手を顎に当て、考えるような仕草をする。
そして1つの答えに辿り着く。
「それは、おそらく教育虐待ってやつね」
「最近話題になっている社会問題ですよね。確かこの間ニュースでやってました」
[教育虐待]とは、簡単に言えば一種の虐待である。
親が子供に圧を与え、過度な勉強を強制させる。それが子供の心を壊す。それによって、より過度な勉強を強いられる。そんな悪循環。
「今までよく耐えてきたね、kくん。でももう大丈夫だから」
「えっ?ってことは……」
マリアの瞳は、怒りに溢れていた。
一体どうしたら、そのような考えに辿り着くのだろうか。子供のことを全く見ていないのだろうか。
ここで、この子を見捨てるという選択肢は、ない。
「依頼料は、あなたの食べているそのアイス代だけでいいわ。ちゃんと依頼は達成してみせるから」
「ちゃっかりしてますね。そのアイスあんまりお高くないのに」
花音はマリアの、不器用な優しさに少々呆れるも、それが彼女らしいなと思った。
「さてと、それじゃあ私たちは調査に行かなきゃね」
「行かなきゃ?それってどこへですか?」
「決まってるでしょ」
そう言って、マリアはスマホを取り出し、1つのポスターの写真を映し出した。
__木下医者:勉学の教えを問う
「講演は明日ね。花音、明日はスーツ姿で行くわよ」
「わかりました。マリアさん」
こうして2人は、明日の用意を始めるため、各々自宅へと戻った。
「「絶対に、kくんを救ってみせる」」
そのように一言呟いてから