テラーノベル
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ヴォルガム領の港町から離れた海岸で、背中から5人を下ろしたリヴァレー。
『それじゃ、ボクはここまでだな』
「うん。ありがとう」
エラリスの感謝の言葉を聞くや否や、青い光に包まれながらいつもの小さな姿へ戻ると、そのまま海の中へと消えていってしまった。
「さて、それじゃ俺らも行きますかね」
全員が軽く伸びをした後、王都ヴォルガムへ向けて出発。海岸線からしばらく歩き、海からだいぶ離れた辺りで、大きな道と合流する。
「なんか見覚えのある道ね」
「そうか?」
「多分もう少し先じゃないかしら?」
「確かにそうでしたね」
ニティアの言葉に、隣を歩いていたアルテアもくすりと笑う。
「?」
なんのことか分からずに、首を傾げるフィニス。
「紅炎龍に襲われたところだよ」
「戦ったって言ってたけど、ここで襲われたの?」
「いや、正確には紅炎龍の巣立ち前の飛行練習中に俺らのいた馬車に墜落してきてな。そんで、その子供を追って母親が襲ってきたって感じ」
「よく無事だったね」
それを聞いて周りを見渡すフィニス。確かに見覚えがあるような気もするが……変わり映えのないただの街道である。
「たしかここらへんで……」
アルテアがそう言葉を漏らし、辺りを見回した次の瞬間……どこからとも無く聞こえてくる風切り音。
「そうそう。たしかこんな音が聞こえたのよね」
ケタケタと笑うニティアに対し、青ざめるルシオ。
「おい……なんでこの音が今聞こえるんだ……」
「へ……?」
笑顔のまま固まるニティア。
風切り音がどんどん大きくなると共に、遥か向こう側から見えていた影も徐々に近づいてきている。
「あれってもしかして……」
「私は初めて見るけど……あの見た目と大きさからして間違いないだろうね」
剣を構えるフィニスと、目を細めながら近づいてくる影を見るエラリス。
その影はまっすぐフィニス達に近づき……
バサァッ!
ドーン!!
目の前で着地をした。
『グルルル……』
前回戦った母親の紅炎龍よりは一回り程小さい個体ではあるが、それでも十分大きな個体である。
「もう巣立ちの時期は終わってるだろ……勘弁してくれ……」
ルシオが今にも消えそうな声で嘆きながら盾を構える。それに合わせるようにニティアとエラリスも武器を構える。
目の前で人間が武器を構えているのにも関わらず、攻撃をするそぶりすら見せずに動かない紅炎龍。
『グルル……』
「……?」
フィニス達がジリジリと距離を詰めても、小さな唸り声をあげるだけ。じーっとアルテアを見つめている紅炎龍。
「……あ!」
その瞳をじっと見つめ返していたアルテアが、小さな声を上げて紅炎龍へ近づいていく。
「アルテア!あぶないって!!離れろ!!」
ルシオが大声で叫ぶ。
しかし、アルテアはさらに近づいていき……スリスリと頭を下げた紅炎龍の鼻先を優しく撫でる。
「多分この子……以前ケガを治療した子供の紅炎龍だと思います」
ルシオの盾の後ろから、全員が顔を覗かせた。
「「「はぁ?!」」」
「随分大きな子供なんだね」
⸻
『グルル……』
アルテアのすぐ隣で身体を伏せて撫でられている紅炎龍。そのすぐ隣にいるアルテアとは異なり、他のみんなは少し距離を持って座っていた。
「紅炎龍も……気持ちがいいと喉を鳴らすのな……」
「って言うか鳴らしているのは喉なのかしら……」
気持ちよさそうに目を細めている紅炎龍。時折グォっ!と言う声と共に、少しだけ口から炎が漏れていた。
「気持ちいいんだろうな……口から火が漏れてるぞ……まさにお漏ら火だな!」
「……それにしても、この大きな紅炎龍があのちっちゃい子って言うのが信じられないわね」
フィニスの言葉をスルーすることを決めたニティア。純粋な疑問を投げかけ、少しずつ紅炎龍へ近づこうと距離を縮める。
「えぇ。紅炎龍は巣立ちをした途端に一気に身体が大きくなります。おそらくあの後すぐに巣立ちしたのでしょうね」
『グルルッ』
「成長速度えげつないわね」
アルテアのすぐ隣まで近づいたニティアが、そっと紅炎龍へ手を伸ばす。
『グウッ!!』
触れられる直前、紅炎龍はニティアを威嚇するかのように睨みつけ、ニティアも思わず手を引っ込めた。
「ひ……!」
アルテアがそんな紅炎龍の顔をペシペシと軽く叩く。
「ダメですよそんな事したら。仲良くしてください」
『……グゥ』
言葉が通じたのだろうか……紅炎龍は再び頭を元の位置に戻し、ニティアが触れようと再び手を伸ばしても微動だにせずにニティアの手を受け入れていた。
「紅炎龍に言うことを聞かせるとかすげぇな……まさにドラゴンを使役する女神みたいだ……」
久しぶりに動物に受け入れられた感激からなのだろう。嬉しさのあまり無我夢中で撫でくりまわすニティア。
「でもこの子、なんでわざわざ来たのかしら?」
「確かに……完全に巣立ちは終わっているでしょうから、わざわざ人間が行き来するような場所を飛ぶ理由なんてないとは思うんですけれど……」
「アルテアにずっとお礼を言いたくてこの辺をうろうろしてたとかね」
「まさか……」
紅炎龍を撫でながら話す2人の会話を聞いていたのか、ゆっくりと顔を持ち上げた紅炎龍が小さく声を上げる。
『ガウッ……グルルッ』
背中の方へ向けて何度も顔を向ける紅炎龍。
「どうしたのかしら?そこに何か……あ」
ニティアが紅炎龍の背中へ視線を送る。全身を覆う大きく立派な鱗が綺麗に並んでいる中、1枚の鱗が流れに逆らって捲れ上がっていた。
「あそこの鱗。なんか剥がれそう?」
ニティアの指差す方に視線を向けるフィニス。
「脱皮?そもそもドラゴンって脱皮するのか知らんけど」
「脱皮しますよ。でも、普通はその脱皮した鱗でさえすごい魔力が籠っているんです。通常は自分や仲間同士で脱皮した皮膚を食べ、魔力の回収をする……といった習性があったはずですけど……」
鱗をまじまじとみながらアルテアの言葉に耳を傾けるルシオ。
「脱皮の一部でさえ、防具に流用されるほど貴重なものなんだぜ?それが脱皮した鱗じゃなくて、脱皮前の鱗となればもう……売れば一生遊んで暮らせるし、武具に流用できれば、かなりの魔法耐性を持った武具が作れるだろうな」
「痒いとかそう言うのもなさそうだよね。でも気にしてる感じだし」
アルテアを見つめながら背中の鱗をチラチラと見る紅炎龍。
「あの鱗……剥がして欲しいんですか?」
優しい口調で話しかけるアルテアに、紅炎龍は小さく頷き、身体をより低く倒して背中を向ける。
「それでは……失礼しますね」
ゆっくりと剥がれそうな鱗に手を伸ばすアルテア。
「すごい大きい……それに……熱いです」
ペリペリ
ゆっくり鱗を剥がすアルテア。
まだ皮膚に引っかかっているのか、少しだけ力が必要であったが、大きな鱗が1枚。綺麗に剥がすことができた。
「剥がれましたよ。少し肌を痛めてしまったかもしれないので、回復しておきますね」
鱗を剥がした箇所に回復魔法を当てるアルテア。回復を終えると、その鱗を紅炎龍の口元へ差し出した。
食べて魔力の再利用。それが普通の紅炎龍の習性だ。
しかし、この紅炎龍は目の前に差し出された鱗に目も向けず、ゆっくりと身体を起こすと……
『グォッガウッ』
アルテアへ向けて小さく唸る。そして次の瞬間……
バサァ!
その場で大きく翼を広げ……
「きゃっ!」
空高く飛び上がると、そのまま空の彼方へと飛び去っていってしまった。
「行ってしまいました……」
「何だったのかしら……」
紅炎龍が飛び去った方をじっと見つめるニティアとアルテア。
「アレだろきっと。アルテアに助けてもらったお礼。龍の恩返し的なやつ」
フィニスが後ろでふっと笑う。
手元に残る鱗を見つめるアルテア。
「わざわざ……ありがとうございました」
そう呟いたアルテアは、空の彼方へ向けて優しく微笑んだ。
鱗が発しているその熱は、アルテアの両掌をじんわりと温めていた。
#ドラマ
シュメール
161
羽海汐遠
16,054
コメント
1件
ああもう…このお話、すごくよかったよ🥀 前の紅炎龍の子供が大きくなって、ちゃんと恩返しに来るなんて…。 アルテアが優しく撫でてるシーンとか、警戒してたニティアに「仲良くしてください」って言ってるのとか、もう全部が尊い…。 鱗のぬくもり、すごく伝わってきたよ。読んでてあったかい気持ちになった🤍