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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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────その日の夜、彼女たちはイルフォードを離れて首都へやってきた。アベルたちには留守を任せて家に送り届け、高くそびえる魔塔の前に集まった。






荘厳な外観の巨大な塔は首都の中央にある王城よりも背が高く、周囲を旋回する魔導器が特殊な結界を張り続けて魔塔を包み込んでいる。首都全体を守る結界と繋がっていて、首都に大型の魔物が一定以上の接近を行うと反応し、けたたましい警報を鳴らすのだが、近年では中型以上の接近はないので、静かなものだった。


国で最も重要視される建造物の威圧感に、イーリスが唾を呑んだ。


「どうした、緊張しているのか?」


「えへへ。実は首都に来るのすら初めてで……」


「フッ、なら良い機会だったな」


紅いローブの裾を翻して彼女は歩き出す。


「この際だ、本物の魔導師の戦いを見せてやろう」


「えっ。待って、ヒルデガルド! それどういうこと?」


追いかけるイーリスに、彼女はくすくす笑って「そのままの意味だよ」と返す。カトリナを先に行かせ、魔塔一階の受付でウルゼンを呼び出そうとして、ちょうどそこに同じく彼に会おうとしている者と出会う。


ヒルデガルドにとっては多少の親しみを持てる男だ。


「プリスコット卿。ここで何をしているんだ?」


「……? ああ、これは……名前を呼んでもいいのかな」


「構わない、別人だからな」


「ではヒルデガルド、俺もあなたと目的は同じだ」


明確な言葉は交わさずとも、ウルゼン・マリスが行っている研究についての調査で二人の考えは一致する。受付の魔導師が「ウルゼン様でしたら、今夜は予定がございまして……」と苦笑いで答えるも、ヒルデガルドが前に出た。


「すまない、言い忘れていた。今日の夜に会う予定になっているヒルデガルド・ベルリオーズと、イーリス・ローゼンフェルトだ」


名前を聞いて予定を確認した受付が、にこやかに頷く。


「ああ、冒険者ギルドから来られた魔導師の方々ですね」


「そういうことだ。それから、この男も同席させてやれないか?」


受付が小さく頭を下げる。


「問題ないと思います。他に予定はございませんので、会議が終わるまで少々お待ちいただけますよう──」


そう話している所で、「大丈夫だ、今終わったところだから」と、疲れた老け顔の、細長い身体つきをした男が、茶色い頭を掻きながらやってくる。


「失礼、遅くなりました。わたくしがウルゼン・マリス。魔塔の大賢者代理でございます、以後お見知りおきを、ベルリオーズさん」


「ヒルデガルド・ベルリオーズだ。それから、こっちがイーリス・ローゼンフェルト。こちらこそ、よろしく頼むよ」


ウルゼンは彼女を見てフッ、と笑う。


「お名前が同じだなと思ってはいましたが、見目までそっくりとは。世の中というのは不思議なものですね、苦労されたのではないですか?」


「よく比較されて大変だよ、田舎から出てきたばかりなのに」


あながち嘘ではない。ベルリオーズを名乗るようになってから、ギルドで声を掛けられる度に大賢者イェンネマンの名を口々に聞かされ、『凡人には届かない領域だが』という前置きは嫌になるほど耳に入れたし、いつも都市から離れた自身の所有する森に引きこもっていたので、田舎といえば田舎なのだ。


だからか、彼もそれほど警戒心は抱かなかった。


「そうでしたか。……あ、ところでそちらは」


「アーネストです。数年前にお会いしたきりですね」


「おお、そうでしたか。それは失礼しました」


まったく不愉快だとアーネストは心底から感じていたが、おくびにも出さず、いつもの冷静さを纏った表情で握手に応じる。


「いえ……。ところでこちらの方々と面会とお聞きしたのですが、一緒にお邪魔しても構いませんか? ここのところ魔物の活動が活発でして、魔塔との連携を強めようと大賢者代理のマリス殿とお話をしたいと思っていたので……」


こちらも事実を織り交ぜた話で、ウルゼンも既に国からの伝令を受けて魔物の動向についての調査依頼を受けていると答えた。


「ベルリオーズさんたちが問題なければ、わたくしは構いませんが」


「私たちは平気だ、依頼ならいつでも承っている」


「ははは、心強い。……カトリナさんは何を?」


黙って聞き、ちゃっかりついて行こうとしたカトリナに呆れの視線が向けられる。自分の研究があるだろうとでも言いたげな顔に、彼女は「だってアタシも気になるじゃない」と不満を言うと、彼は心底馬鹿にしながら。


「分かりました、いいですよ。お忙しいのでなければ、私は。ただ話をするだけですので、研究の進展に影響はないかもしれませんがね」


今がもし彼と二人だけだったなら、カトリナは引っ叩いていたことだろう。しかしヒルデガルドの手前、自制心が勝って、悔しそうに「ふん、今に見てなさいよ」と、小声で苛立ちを抑えるに留めた。


「我慢させてすまない、カトリナ」


「気にしないで。今だけよ、今だけ」


どうせ後悔するのはウルゼンのほうだ。事を荒立てる理由もない。カトリナはにっこり笑って、怒りを握りつぶす。


「期待してるわね、大賢者様に」


「任せておけ。さっさと済ませるとしよう」

大賢者ヒルデガルドの気侭な革命譚

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