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ふうはや(Reno@背後だよ)
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〜前回の続きです〜
カチャリ、と重々しい鍵の音が響き、明那は冷たい
大理石の床へと掘り出された。
そこは、あの五人が住まう壮大で薄暗い屋敷の
広間だった。
妖力を封じる鎖のせいで、明那の頭上からは、赤み
がかかった茶色の猫耳が力なく垂れ下がっている。
細い二本の尻尾も、床に伏せたまま微動だに しない。
化け猫としての誇りも、野生警戒心すらも、
今の明那には残っていなかった。
「……」
痛い。苦しい。怖い。
そんな人間や普通の妖怪が抱く感情のスイッチ は、
とっくの昔に壊れている。ただ、
「からっぽの器」として、明那は床に這いつくばったまま、
じっと前だけを見つめていた。
「よしよし、やっとじっくり見える。
…ねぇ、ちょっと触ってもいい?」
最初に近づいて来たのは叶だった。
微笑みを浮かばたまま床に膝をつき、明那の垂れ
た猫耳にそっと白い指先を伸ばす。
普通の化け猫から、威嚇して爪を立てるか、恐怖で
身を縮めるはずの行為。
しかし、明那は瞳の焦点を合わせることなく、ただ触られる
がままになっていた。ピクリとも震えない耳を見て、
叶の目はふっと細目られる。
「あはは、本当に何も感じないの?面白いねぇ」
「どれ、俺にも見せろよ」
ソファに倒れ込んでいた葛葉が、気だるげに身を
起こして覗き込んでくる。
「チッ、化け猫っつーからもっと威勢よく鳴くか
と思ったのに。これじゃただの剥製じゃん。おい、
お前、怖くねぇの?」
葛葉が放つ圧倒的な上位妖怪の圧。並の妖怪なら
気絶するほどの威圧感の中、明那はただ(……)と無言
のまま、水底のような瞳で葛葉を見つめ返した。
その瞳には、葛葉の姿すら映っていないようだった。
「まぁまぁ葛葉、そう焦んなって」
不破湊が低く笑いながら、明那は顎を指先で
クイ、と持ち上げる。
「時間かけて、じっくりこの「からっぽ」を
満たしていけばええねん。…なぁ、お前は何をされたら
泣いてくれるん?」
ゾクゾクするような愛撫の裏にある狂気。それでも、
明那の体温は冷たいままだった。
「おい、あんまり道具にしすぎるなよ。一応、
高値で買った貴重な「器」なんだからな」
イブラヒムが呆れたように煙草の灰を落としながら、
明那の手枷に繋がれた鎖の端を、自分の指にしっかりと
巻きつける。逃がす気など毛頭ないという意思表示だ。
「つってもさぁ、これだけ何も反応ないと、逆に
どうにしても「声」聞きたくなんね?」
ローレンが低く笑いながら、明那の二本の尻尾の
付け根を、わざと少し強めに踏みにじる。
「……」
それでも、明那は声を上げなかった。
ただ、感情の消えた瞳で、静かに床を見つめている。
喉を鳴らすことも、牙を剥くことも忘れた化け猫。
そのまま無言の抵抗が、五人の歪んだ独占欲に、
さらに深く火を点けていくことにすら気づかずに。
コメント
1件
うわあ…重厚なダークファンタジー、じっくり染みました。五人の妖怪たちがそれぞれ違う歪み方で明那に触れてくるのが、一層不気味さを引き立ててますね。特に「何をされたら泣いてくれるん?」って不破湊のセリフ、甘やかす口調だからこそ狂気が滲んで鳥肌立ちました。からっぽの器という設定、ここからどう「満たされていく」のか…続きがめちゃくちゃ気になります。伏線の配置も上手いなあ、と思いながら読み終えました。りりさん、素敵な世界観をありがとうございます!