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「その、毒使いの男って、名前、何て言うの?年齢とか、分かったりする?」
「ちょっとー質問攻めにしないでよ」
わざとらしく、声を上げたラヴァインに対し、多少いらつきはしたものの、私は、冷静に彼を見ていた。記憶を取り戻し、尚且つ味方になった彼は、アルベド以上、とは言わずともかなりの戦力になる。勿論、利用できるとかそういう考えではなくて、味方にいてくれると心強いとかそう思っているだけで。
「でも、エトワール知ってどうするの?」
「え?」
「だから知ってどうするの?そいつが何処にいるとか、分かんないじゃん。それに、そこに兄さんがいたら、エトワールでも辛いんじゃない?」
「確かに、そうだけど……でも」
しっ、とラヴァインは私の口に人差し指を立てた。冷静だと自分は思っていたが、かなり感情が高ぶっていたみたいだ。有益な情報が得られると分かった途端、私は早くその情報が欲しいと、気持ちが焦っていた。
焦ったところで何も変わらないと思うし、それでアルベドが助けられるなら良いけれど、今のところ有益な情報も、救えるって言う確証もない。
自分の無力さに苛立っていたのだ、私は。
ギュッと拳を握って、取り敢えず冷静に、心を落ち着かせることにした。焦ってもどうにもならない。それは分かっているんだけど。
そん私を見てか、ラヴァインはふうと息を吐いた。
「まあ、気持ちは分かるよ。俺もショック受けたし。兄さんがああなってるって。俺は、兄さんに負けて記憶喪失になってて、それから記憶戻って、ようやくヘウンデウン教の事分かったし」
「てか、アンタは何で、ヘウンデウン教にはいってたのよ」
「暇つぶし」
「それが本当だったら、殴るわよ?」
暇つぶしで、人の命を軽く扱う教団に入っていたとか正気の沙汰では無いと思った。どんな教育をすれば、ラヴァインみたいなのができあがるのか分からない。
ラヴァインは、その敬意や、理由については教えてくれなかったが、さっき言ったのは嘘だったようで、そこはひとまず安心した。まあ、あんな危ない教団に入信していた時点で、安心できる奴ではないけれど。
彼が過去にやった罪が消えるわけでも、ヘウンデウン教が美化されるわけでも、正当化され許されるわけでもないのに。
「憎い?」
「何のこと。ヘウンデウン教のこと?」
「それしかないじゃん。彼奴らが、まあ、俺もその一部なんだろうけど、やってきたことが許されないことだって分かってる。だから、エトワールが俺を受け入れてくれたのが、今でも信じられないぐらい」
そういって、また悲しそうなかおをするので、私は、それ以上は何も言わなかった。
彼も、責任を感じているのだろう。前の彼だったら許さなかったかも知れないけれど、彼を知ってしまったあとの私は、ラヴァインを全否定して責めることは出来ない。
「アンタの罪がなくなるわけじゃないけど、今のアンタが好きだから」
「恋愛的に?」
「……」
「ごめんって」
「今度言ったら、本気で追い出すから、覚悟しなさい」
私がそう睨めば、はいはい、と全く信用のならない言葉を返してきた。まあ、此奴はこういう奴だと、私は割り切って話を戻す。
「それで、その毒使いの男。教えて欲しいの。情報は共有していた方が何かと良いでしょ?」
「そりゃ勿論」
「だから、教えて」
「せっかちだなあ」
一回一回、何各地を挟まないと死んでしまう病気にかかっているのかっていうぐらい、何か言ってくる。そのたび、イライラゲージがたまる気がして、このイライラは誰にぶつけようかと思ってしまうくらいだ。勿論、ぶつける相手は、イライラを貯めた相手である。
言い渋る理由が分からない。本当は知らないのではないかと疑ってしまったが、ラヴァインとて、幹部だったわけだし、知っているって言っていたら、今更知りませんでしたっていう落ちはないだろう。
「ラアル・ギフト」
「ラアル・ギフト?」
「その、毒使いの男の名前。爵位で言えば、伯爵。ラアル・ギフト伯爵。兄さんよりも一つ上」
と、ラヴァインは言うと、何処か苦々しそうに舌打ちをした。どうやら、そのラアル・ギフトという男が嫌いらしい。
伯爵と言っていたから、ルクスや、ルフレ達と同じか……何て、ぼんやり考えつつ、ヘウンデウン教にはいっていると言うことは、やはり闇魔法の家門なのだろうか、と私は思った。その疑問は、すぐにラヴァインが解消してくれることとなって、予想通り、闇魔法の家門らしい。通りで知らない訳だ。
いや、全ての貴族を知っているわけではないが、やはり、闇魔法の貴族は知れ渡っていないというか、アルベドとラヴァインのレイ公爵家は、公爵ってつくぐらいだから、闇魔法でもかなり名が知れていたけれど。そうじゃない、闇魔法の家門はあまり世に姿を現さないというか。
「馴れ馴れしかったんだよね、その男。俺達よりも下のくせに」
「でも、同じ幹部だったんでしょ?」
「それも気にくわなかった」
うわ、滅茶苦茶我儘というか、横暴というか。まあ、自分よりも暗いが下の人に見下されたり、ウザからみされたりしたら嫌だろうけど、公爵と伯爵ではかなり差があると思う。ルクスとルフレの所は富豪だから、論外として、伯爵という地位だけで見れば、圧倒的にラヴァインの方が上だっただろう。年上ムーヴを噛ましたかったのか何だか分からないけれど、ラヴァインがここまで毛嫌いする男と、これから戦っていくと考えると、先が思いやられた。
「ねえ、これまだ話さなきゃダメ?」
と、もう飽きた、話したくないオーラ全開にラヴァインは私を見てくる。
名前と爵位だけ分かっただけでも大きな収穫だが、もっと聞きたいことは一杯あった。こざかしいとか思われそうだけど、敵と戦う前って大体下調べするじゃん? と言うことにして、私は、ラヴァインに続けて、とせがむ。
ラヴァインは、嫌そうに私を見ている。
「エトワールって案外酷いね。俺嫌だって言ってるのに」
「それでも、今後のために」
「……元々、木の魔法を極めていった先に、毒の魔法ってつかえるようになるの。まあ、彼奴のは、ユニーク魔法に近いけど、そこまで便利なものじゃないし。まあ、毒を量産できるって言うのは、一つ彼奴の怖いところでもあるかもだけど」
「因みに、ラヴァインはつかえるの?」
「ううん、俺は使えない。俺は、風の魔法だしね」
使えないわけではないだろうが、その血族にあったものって言うのもあるだろうし、イメージのその先に、派生魔法があると考えたら、全部を極めると言うことは難しいことだろう。
私が聖女で、光魔法に特化しているように、ラヴァインやアルベドは風の魔法に特化していて。
「ありがとう、ラヴィ」
「あれ、もう良いの?」
「アンタ、話すのいや走だし。これ以上無理言えないなあって思って」
そう? と、ラヴァインは拍子抜けしたように言った。まあ、私もそこまで鬼じゃないし、と自分で思いながら、毒の魔法って厄介だよなあ、と思考を転換させた。
ラアルっていう男がどんな奴かまだ分からない事だらけだけど、ヘウンデウン教はまだ生きているって事だし、何をしようとしているのか、これから探っていかなきゃいけない。
やることが増えれば増えるほど、自由な時間って言うのは取れなくなる訳だし。それでも、アルベドを取り戻して行っていう気持ちがあるから。
「……そういえばさ、ラヴィ」
「何?改まっちゃって」
そこまで、改まったつもりはなかったけれど、声色が自分でも変わったなあていうのは分かったので、そう捉えられたのだろう。
ここまで、話を聞いて、そしてラヴァインが素直に話してくれて、この間も助けてくれて、彼に感謝しなきゃいけない事は山ほどあった。借りが一杯出来てしまったというのもあるけれど、私が言いたいのは、そうじゃなくて。
「アンタが、約束守ってくれたから」
「約束……ああ、裏切らないって言う」
「そう」
私がラヴァインのことを信用出来ずに言ってしまった言葉だったけど、それを彼は律儀に守ってくれた。もし、記憶を取り戻したら、私達の的に戻ってしまうんじゃないかって不安があった。でも、ラヴァインは裏切らず、そして味方でいてくれると宣言した。それが何よりも嬉しかったんだ。
「本当にありがとう、ラヴィ」
「……っ、えと、わーる」
言葉を詰まらせながら、頬を赤くしてラヴァインが私の方を見る。何で、ラヴァインの方が顔が赤くなっているのか理解できなかった。そんな顔されたら、こっちが恥ずかしいと。
「ちょ、何で、アンタが顔赤くしてるのよ」
「してないし!エトワールの見間違いだって。俺が、そんな」
と、さらに言葉を詰まらせて、視線を泳がせた。
もしかして、ありがとうって言われるのに慣れていないんじゃないかと私は、仮説を立てた。確かに此奴は、ありがとうって言われるようなこと、してこなかったんじゃないかなあって。それと同じぐらい誉められることもしなかったんじゃないかって。
ラヴァインにとって、きっとそれは欲しかった言葉なんだろう。
私は、そんならヴァインを見て、クスッと笑い、もう一度彼にありがとうと、伝える。
ラヴァインは、頬をかきながら恥ずかしそうにボソッとつぶやいた。
「はいはい、どーいたしまして」