「毒の魔法を使う奴がいるのか。厄介だな」
「でしょ?ああ、でも、直接喰らったわけじゃないけど、ほら、ゲームとかで状態異常系の攻撃って結構危ないって言うじゃん」
「まあ、そうだな」
「けど、実際あったわけじゃないし、他にもヤバい奴とかいっぱいいるだろうから、まだまだ、油断できないって言うか」
ラヴァインから得た情報をリースに伝え、リースは、悩ましげに、唸っていた。色々言ったら、彼をさらに悩ましてしまうかも知れないと分かっていたが、情報の共有は大切だと思ったから。
実際に、毒の魔法は見たことが無いけれど、私の勝手な想像で、状態異常系じゃ無いかと思った。でも、毒……万能薬でリュシオルの毒を取っ払ったっていう前例があるから、万能薬がないと治らない、何てことになったら大変だと思った。
魔法で、治癒出来るのにも限界があるし、魔法で治せるのは外面が多いわけで、内面の異常状態とかは直しきれないんじゃないかと思った。
聖女の治癒魔法がどうかは知らないけど、直せないと思ったら、本当に不味い。
「ごめん、色々立て込んでいるだろうに」
「気にするな、エトワール。それよりも、厄介なことが増えていくな。災厄は去ったというのに」
「本当に……そう」
厄介なのは、人間の思想の方だろうと、私は思った。
災厄は、具体的に何があって、こうなってという過程があったけど、今回のは、そう言うのじゃなくて、人間の欲というか、思想が引き起こしているものに違いない。敵対すべきは人間。それは、この間の災厄よりも厄介で、心身共にダメージが来る奴だと思う。
だって、災厄の元凶である混沌は人間でも何でもなかったから、少しばかり罪悪感はなかったけど、相手が人間となるとそうはいっていられない。人と人が争う、血を流す。考えただけで辛かった。
そして、今回の敵がエトワールではないかという事実もまた、この最悪の事態を加速させている原因なのでは無いかと思った。
「どうやら、式を挙げるのはさきになりそうだな」
「え、ああ、うん。うん?」
「結婚式の……」
「いや、分かってる。分かってるんだけど、一人で決めないでね?お願いだから」
私は、慌ててリースにそういえば、当たり前だろ、と言わんばかりにリースはフッと微笑んだ。まあ、もう、昔のリースじゃないし、勝手に物事を進めることはないだろうけど。それでも、皇太子と聖女の結婚式だから、それはもう盛大に行われるんだろうなあ……とか、想像して、気が遠くなった。注目されるのは苦手だからである。それは、リースも分かっているだろう。けど、それでも、仕方がないことだって、流さないといけない。
(まあ、それは後々考えるとして、今は目の前の事よね……)
ラヴァインは、家には戻らないって言っていたし、暫くはアルベドが戻るまでは、聖女殿に入り浸っているだろうし、一人護衛が増えたと思えば良い。グランツはまだ目覚める様子はないし。
聖女殿がまた、襲撃されたらと思うと怖いので、ラヴァインがいてくれるのはありがたい。まあ、それでも怖いので、聖女殿の強化もしようと考えている。
「お前も気をつけろよ、エトワール」
「うん」
「不安は多いと思うが……俺がずっと側にいてやることが出来れば良いんだが」
「そ、それは大丈夫。ああ、いや、嫌って言う意味じゃなくてね。えっと、ほら、忙しいのに、これ以上忙しくさせたくないって言うか……ね。リースにはやすんで欲しいって思ってるの。倒れられる方が心配で」
「そうか……相変わらずエトワールは優しいな」
「う、あ、ありがとう」
久しぶりに誉められた気がして、私はたじろいでしまう。恋人になっても変わらないと思っていた。でも、意識し始めたらし始めたで、これはこれで不味いんじゃと思ってる。だって、自覚してリースが好きって思っちゃってる訳じゃん。だから、リースとまともに顔が合わせられなかった。
(わ、わ、私ってこんな乙女だったっけ?)
恋は無縁だと思っていたが為に、リースを好きって自覚してから、空まわってしまっている気がする。こんなの私じゃない。いつも通りしていれば良いのに、其れができないから辛い。
「どうした?」
「あ、えー、ああ、うん。何でもないの」
明らかな挙動不審。
リースは、不思議そうに私を見て首を傾げていた。まあ、私がこんな状態じゃ、操舵よねって、自分でも自覚している。
まるで、初めて推しと、此の世界でリースに会ったときのような感覚だった。胸が締め付けられるぐらい痛くて、甘くて。リースの声一つで、どきってしてしまう。日常生活に支障が出そうだ、何て私は考えつつ、報告がすんだことなので、外に出ようとした。すると、リースに呼び止められる。
「な、何……ぴぎゃ!」
振返れば、正面から抱きしめられ、思わず変な声が出てしまう。
「ふへ!?どど、どうしたの!?」
「充電だ」
「そんなの、フィクションでしか見ないって!」
「だが、ハグするといいらしいぞ?」
と、リースは、優しく私を抱きしめる。恋人充電みたいな、補給みたいなのはよく聞くけど、現実でその台詞を言うな、と私は思った。でもリースだから似合うというか許せるというか。まあ、イケメンなら許せるんですけどねって言うのはあった。けれど、私の身体が持たない。
(だから、意識しちゃってるから、ダメなんだって!)
緊張と、恥ずかしさのあまり、腰が抜けそうだった。そうなっても、リースが支えてくれるって言う確証はあったけど、倒れるのも恥ずかしい。これからはなれていかないといけないのに。
「も、もういい?」
「もう少しダメか?」
「私の心臓が持たないのでやめてください!」
そう言ったら、リースは、少し不満そうにしながらも私から離れていった。私は一気に脱力感に見舞われ、息を切らす。リースは、何がそんなに不満なのか、こちらをずっと見てる。
「何よ」
「また、俺を、お前の推しとして見ているんじゃ無いかと思ってな」
何それ、なわけないじゃん。と、はっきり言えなかったのは申し訳なかった。そりゃ、二次元の推しはずっと推しな訳だし、リース推しは変わらないけど。でも、私が、何で顔赤くしているか、気づいて欲しかった。いや、まあ自意識過剰になられても嫌だから、これでいいのかも知れないけど。
リースは、どうなんだ、と言うように圧をかけてくる。言わざる終えない雰囲気を作られ、私は視線を漂わせた。言ったら、調子に乗りそうだから。
「もし、そうだったら悲しい」
「私が、リースをリースとしてじゃなくて、推しの顔がいいとか、そうやって見られることが?」
「それしかないだろう」
と、リースは私の気持ちなんて気づいていないように言った。まあ、昔の私を知っているからこそ、そういう風に考えられても仕方ないと思った。でも、違うって今は言える。そりゃ、顔が良いのは事実だけど。
「わ、私が、今顔赤いのは……アンタを、恋人として意識、してるから」
「エトワール?」
「もう、察してよ!言いたくない、馬鹿馬鹿馬鹿!」
「ま、待ってくれエトワール」
恥ずかしくて、その場にいられなくなって、私はリースの部屋から飛び出した。用事は終わったし、いつ帰ってもよかったから、問題ないだろうけど。すれ違った、巡回の騎士達には変な目で見られてしまった。リースが追いかけてくる様子はなかったが、声色からして、かなり嬉しそうだった。
あーだからいやだったのに。
(う~もう、ほんと最悪)
意識すればするほど、リースが格好良く見えて、彼の隣にどんな顔していれば良いのか分からなくなってきた。こんな甘くて、これからどうしようって考えながら、私は今ある問題にもう一度目を向けることにした。そしたら、自然と、甘い雰囲気とかほてりとかなくなって、スンッと感情が戻ってくる。
(そうよ、今考えるべき所はそこじゃない)
勿論、リースだって大切だけど。
私は、聖女殿に少し早足で帰ることにした。
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