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数ヶ月後、彼女の様子が急変した。
それはほんのり夏の暑さを感じ始めた春の頃だった。
ゲホッ、ゲホ、と青ざめた顔で咳き込みながら吐血する彼女に、僕は不安で仕方がなかった。どうしよう、どうにかしなければ、でも、どうすれば?そんな思考だけが繰り返し僕の頭の中を渦巻く。
そんな中で、あの時、彼から貰った名刺を思い出した。なんとか名刺を見つけ、くしゃくしゃに萎れた名刺を広げてスマホを手に取り、番号を入力して電話をかけた。プルルル、プルルル、と2回コールが鳴ると、もしもし、と声が聞こえて、思わず泣きそうになった。
「もしもし、朧木です。」
「あ、あの、氷室です、覚えていますか」
「氷室さん、ああ、覚えてるッスよ。何かありましたか?」
僕はすぐさま彼女の様態を説明した。
「大体分かりました、貴方は今すぐ救急車を呼んで今のように説明を施してくださいッス。病院に着いたらもう一度連絡を、自分もすぐ向かうッス。」
初めての電話がこんなものなのに対し、動じない彼に、感動すら覚えた。
わかりました、ありがとうございます。そう言って電話を切ると同時に、急いで救急車に電話をかけた。
数十分後、救急隊員が到着し、僕と美幸さんは救急車の中に連れて行かれた。
未だに咳き込む彼女の手にそっと触れると、僕よりも数度低い体温が伝わってきて、思わず強く握りしめた。
美幸さんが悲しそうな目で僕を見ていたような気もしたが、僕にとっては不安、恐怖、焦りなんかでそれどころじゃなかった。
僕は震える手で朧木さんに連絡を取り、病院名を送った。
『氷室です、今救急車の中で美幸さんと居ます。三田塚病院に運ばれると思います。』
『了解ッス、自分も今からタクシーで向かうんで、受付あたりで待っててほしいッス』
文と同時に送られた可愛らしい猫のグッドスタンプに、思わず僕は目頭が熱くなった。