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5 - 喧嘩/🟦と🏺

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2024年06月19日

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夏日。照り付ける太陽は理性を焦がし、人をダメにする。いうなればみんな沸点が低かった。普段から煽り交じりの会話をする二人は特にダメだった。

「今日こそ許せねえっすねアオセン!」

「なーにが許せない? 急に発火するよねつぼ浦さぁ。脈絡がなさすぎるんじゃない?」

「俺の中では道理が通ってるんすよ頭の固い31歳にはわかんねえっすかねえ」

「ぷっつーん。はいキレちゃった殺しまーす。脳無し一人殺して町の治安に貢献するわ」

「やってみろよ出来るもんならよぉ!」

大阪にいそうな顔でメンチを切るつぼ浦に、正面からすごみ張り合う青井。横にいたキャップはアイスを食べながら、「らだおくん対つぼつぼでガチ喧嘩やるぜ。賭けに参加するやつは駐車場集合ー」と言ってTwixにも書き込んだ。

キャップの無線に、少しのざわめきと興奮したような参加を宣言する声が上がる。今のところは青井勝利の掛け金が多いが、ギャングにまで話が通ったらどうなるか。特殊刑事課の厄介さは広く認知されている。特に、今回は拳銃を抜くほどの喧嘩ではない。これで五分五分までいくか、いかないか。

どのみち胴元が儲かる仕組みである。キャップはつぼ浦への掛け金を1増やしてやった。餞別みたいなもんである。さて、試合はどうなるか。


つぼ浦が背負ったバットを構える。大振りだが重い一撃は脅威に他ならない。警察らしくよく鍛えた体ならなおさら、 予測不可能なつぼ浦が使えば、その脅威は何倍にも跳ね上がる。

対する青井は刀を構えた。掠るだけでも皮膚を切り裂きダメージを与える鋭い刃先が、銀にきらめいて血を求めている。

キャップがカーン、とゴングを鳴らした。

先手は青井。つぼ浦が振りかぶった瞬間、正面から距離を詰めて胸を狙う。突きだ。つぼ浦はフルスイングを一瞬の判断で変更し、バントの形で防御する。火花が散った。青井は即座に刀を手放しスライディングの要領でつぼ浦の足の間を抜ける。地面に転がった青井の頭を潰そうと付きたてられたバットは、紙一重で当たらない。

青井は立ち上がることなく、獣のように身を低くし構える。刀はつぼ浦の右に転がっている。つぼ浦もそれをわかっていて、刀と青井の直線状に立ちふさがった。じりじりと青井へ距離を詰めていく。刀を拾わせず、押し込むように勝つ気だろう。重たい緊張に意識が狭く、集中していくのを感じる。速さは青井に軍配が上がる。青井の速さを殺す一瞬の隙を狙うつぼ浦と、つぼ浦の初動を見極めようとする青井による静かな時間が流れた。息をのむ。汗が垂れる。

風が吹いた。

一閃。つぼ浦のバットが金色にきらめく。弧を描き大きく風をまとうそれが横向きに青井の腕を強打した。左腕がめきゃりとひしゃげる。歯を食いしばって、しかしそれは青井の作戦通りだ。ガードした左腕をバットに滑らせるように肉薄、つぼ浦の襟首をつかむ。瞬時に背を向け、お辞儀をするようにつぼ浦の身体を宙に持ち上げる。一本背負い。西瓜の割れるような、水音交じりの衝撃音。コンクリートに頭を打ち付け、つぼ浦はダラダラ血を流していた。

「は、ハハハ! アハハハハハ! アオセェン!」

刀を拾い、構えれば形勢が均衡に戻る。青井の左腕はぷらんと垂れ下がったままだが、つぼ浦も負傷している。勝率は依然5分だ。

ふらついたまま、遠心力でバットを振り回したつぼ浦が迫る。膂力では敵わない。右腕一本で斜めに刀を構え、肩も使って火花を散らしながら受け流す。今度は防がせない。つぼ浦の首をざっくりと切る。大きな血管を傷つけたのだろう、地面にべちゃべちゃと垂れるほど血がこぼれている。が、まだ浅い。即座に勝負が決まるほどではない。つぼ浦はひるまない。バットを手放し、即座に青井の頭をひっつかんで膝にたたきつけた。ヘルメットが割れる。刀がめちゃくちゃに振り回されるがヘルメットの角をぐっとつかんで、視界をぐるりと回すように地面にたたきつける。刀が落ちる。空気が吐き出だされる音がする。

青井はとっさにヘルメットを脱いだ。このままだと頭を蹴り飛ばされていたので正しい。顔面は鼻血でぐちゃぐちゃになっていた。だが楽しい。まだ負けていない。

「つぼ浦ァ゛!」

こうなれば素手の取っ組みあいだ。青井はつぼ浦の足、サンダルからのぞく小指を思い切り殴った。続けてすね、膝裏と人間が鍛えきれない箇所を肘でぶん殴る。たまらずしゃがみこんだつぼ浦を、青井は返礼とでもいうように髪をつかんで膝にたたきつける。ブツと髪が何本が抜ける感触がしたが、左腕が使えない分軽い。

つぼ浦はそのまま青井に全体重で突っ込んだ。青井は片足を上げていたこともあり簡単に地面に転がる。蛇のように青井の首に腕を回し、前腕と上腕で圧迫する。スリーパーホールドだ。

速やかに目の前がブラックアウトしかけ、青井はとっさにつぼ浦の顔、サングラスの奥に爪を立てる。「ぎゃっ」と絶叫が響く。締め付けが緩む。血圧が急速に回復したほてりを感じながら、青井はつぼ浦に向き直った。

左目を真っ赤に充血させたつぼ浦は、幽鬼のようにふらつきながらファイティングポーズをとった。

互いに限界だ。

次で決まる。決めないと、負ける。

踏み込みは一瞬。つぼ浦は青井の刀を拾い、青井はつぼ浦のバットを拾った。

拮抗。刹那、つぼ浦は武器を捨てる。目を見開いた青井のみぞおちを、正面からこぶしで殴りぬいた。

二歩、青井は悔しそうに後ずさり。どさりと気絶した。

つぼ浦はそれを見届けてから、あおむけに倒れたのである。



待機していた救急隊が、迅速に二人を手当てした。ついてきただけの赤兎(青井に賭けていて負けた)が足を延ばしてのんびり、「なぁんで喧嘩したの~」と聞いた。

「なんででしたっけアオセン」

「お前が始めたんだよ。クレープ食べたいって言ったら急に怒り出して」

「あ? ……あー! そうだ、そうだった。アオセンに煽られたんすよぉ!」

「クレープ食べたいって煽りなの?」

「え? 知らないで言ってたんすか」

「何をよ」

「俺の今日のTwix見たんじゃないんすか」

「いや何も知らんけど」

「エッ、ただ気が合ってた、だけ……?」

「うん。謝れーッ! 謝れ! ぼこぼこにされた俺に謝れーーーー!」

「ア、アッ、すいませんでした……」

「特殊刑事課がよォ」

「ごめんなさい……」


仲良しである。


夏の暑さは人を狂わせる。

諸兄姉においては、気温28度以上においては熱中症を警戒し、35度を超えた場合には速やかに涼しい室内でアクエリアスとか飲みながらかき氷を食べることを推奨する。さもなくば、この二人みたいになるので。

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