「ねぇねぇ、どうなの? はっきり言っちゃいなよ?」
「……もう、そういうのやめてってば。彼とは、本当になんでもないんだから…」
仕方なく口を開いて、これ以上のつっ込みをやんわりと避けようとしたけれど、
「今はなんでもなくても、これからどうにかなるかもしれないんでしょ?」
そうまた、花梨は話を蒸し返してきた。
「とうとう理沙にも、彼氏ができるんだー。理沙はモテるのに、全然男を寄せ付けないんだから、こんな風に男の人といっしょにいるだけでも、だいぶ進歩だと思うんだよねぇー」
正直、大きなお世話だと思った。
人の話もまるで聞かないで、自分勝手な言い分ばかりを押し付けてくる彼女が、本気でうっとうしくも感じられた……。
「がんばんなよ~理沙! 理沙なら、絶対にイケるって!」
「ああ…うん…」
なんだかもう否定する気も失せてきていた。これでまた私に彼氏が出来たとかいう噂を広められて、周りからいろいろと詮索をされてしまうんだろうなと思うと、気落ちするしかなかった。
すると、押され気味だった会話に、それまで黙っていた銀河が、急に口をはさんできた。
「…なぁ、あんたさ、理沙の話ちっとも聞いてないだろ?」
「何よ?」
突然に話しかけられて、花梨が怪訝な顔を彼へ向ける。
「話聞いてねぇよな、全然。自分のことばっかで」
誰もがおしゃべり好きな花梨には感じていたことだったけれど、誰ひとり彼女自身には言わなかったであろう言葉が、銀河の口から浴びせかけられた──。
「何よ…その言い方、ちょっと感じ悪くない?」
花梨がさも不機嫌そうに銀河を睨む。
「俺は、本当のことを言ってるだけだろ」
「ちょっと…。もういいから、やめなよ…」
明からさまなしかめっ面をする花梨を前にしても、一歩も引かない銀河に、その場を取り繕って話を切り上げようとした。
──と、
「おまえのために、言ってんだろ」
意外なことを銀河が口にして、「…へっ?」と、思わず間の抜けた声が漏れた。
「理沙は、このまま言われたい放題でもいいのかよ? 勝手に決め付けられて学校中で言いふらされでもしたら、どうすんだよ?」
「……。それは、そうだけど……」
目の前に突きつけられた正論と、自分をかばってくれたまさかの嬉しさとで、どんな顔をしていいのかがわからなくなって、とっさには口の中でぼそぼそとしか言えずに、頬を両手で挟んで黙り込むと、
「ねぇ、理沙?」と、すかさず花梨が横から口を出してきた。
「こんなエラそうな男と、付き合うのやめなよ? ホントやな奴……理沙には、ちっとも似合わないから」
銀河をじっと睨みつけながら、面白くなさそうな時のいつもの癖で、花梨が巻き髪を指でいじりながらぶつぶつと喋った。
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