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干し柿が完成して2週間後。
11月の終わり、白山市河内村はもう本格的な冬の気配が漂っていた。朝の縁側に霜が降りて、白山の山頂が薄く雪化粧をしている。
私はスマホのカレンダーを何度も確認しながら、ドキドキが止まらない。今日、拓也さんが「二人で出かけよう」って言ってくれた日。じいちゃん抜きで、初めての本気のデート。
朝9時。
拓也さんの軽トラが坂を上がってきて、クラクションを軽く鳴らす。私はコートを羽織って飛び出る。拓也さんは運転席から降りてきて、いつもの白衣じゃなく、ダークグレーのダウンジャケットにマフラー。長い髪を耳にかけて、少し照れた笑顔。
「おはよう、里奈。寒いから、ちゃんと着込んでこいよ」
「はい……! 拓也さんも、暖かそうでよかったです」
軽トラの助手席に座ると、ヒーターが効いていて、車内がポカポカ。拓也さんがシートベルトを締めながら、静かに言う。
「今日は、小松までドライブ。加賀温泉郷の近くの小さな温泉街に、いい店があるんだ。昼はそこの蕎麦屋で、夜は……ゆっくり温泉入ろうかと思って」
「え……温泉!?」
「日帰りでいいよ。混浴じゃないから安心して」
顔が一気に熱くなる。
拓也さんがくすっと笑って、アクセルを踏む。軽トラが細い山道を下り、国道に出る。車窓に広がるのは、紅葉が散り始めた山々と、時々見える白山のシルエット。ラジオから流れる懐かしいJ-POPが、車内を優しく満たす。
「里奈、最近のネットセラピスト、どう?」
「予約がどんどん増えてて……嬉しいけど、ちょっと忙しいです。でも、拓也さんがシフト調整してくれたおかげで続けられてます」
「無理はするなよ。俺がいるから、いつでも相談して」
その言葉に、胸がぎゅっと締まる。
私は助手席で膝の上の手を握りしめて、勇気を出して言う。
「拓也さん……今日、楽しみにしてました。じいちゃん抜きで、二人きりで出かけるの、初めてだから」
「……俺もだよ」
拓也さんの声が少し低くなる。信号で止まった時、拓也さんが私の手を取って、軽く握る。
「里奈、俺……ずっと言えなかったけど」
「はい……?」
「好きだよ。里奈のこと」
心臓が止まりそうになる。拓也さんが赤信号のまま、私の方を向く。目が真剣で、でも優しくて、いつもの冷たい笑顔じゃなく、照れたような、温かい笑顔。
「村に来てから、毎日里奈の笑顔を見てて……クリニックで患者さんに寄り添う姿、YouTubeで誰かを励ます声、縁側で干し柿食べてる時の顔……全部、好きになった。逃げてきた俺が、こんなに誰かを想うなんて思わなかった。でも、里奈なら……ずっと隣にいてほしい」
涙がぽろっと落ちる。
私は拓也さんの手を握り返して、震える声で言う。
「私も……拓也さんのことが好きです。クリニックで『助かったよ』って言ってくれる時、カメムシの餃子作ってくれる時、頭撫でてくれる時……全部、ドキドキしてました。社畜の頃は、恋なんて夢物語だったけど、今は違う。拓也さんと一緒にいると、毎日が本当に楽しいんです」
信号が青に変わるけど、拓也さんは動かない。代わりに、私の頰にそっと手を添えて、額にキスをする。軽くて、優しくて、温かい。
雫石しま
「じゃあ……これから、ちゃんと付き合おう」
「はい……!」
軽トラがゆっくり動き出す。車内は静かで、でも幸せでいっぱい。小松に向かう道中、拓也さんが私の手を握ったまま運転する。加賀温泉郷の小さな温泉街に着くと、雪がちらつく中、手を繋いで歩く。昼は二人で温かい蕎麦を食べて、夜は日帰り温泉で別々に浸かって、上がった後に露天風呂の縁側で待ってる拓也さんに会う。
「里奈、寒くないか?」
「大丈夫です……拓也さんと一緒だから、温かい」
拓也さんが私の肩を抱き寄せて、マフラーを共有する。雪が静かに降る中、白山のシルエットがぼんやり浮かぶ。干し柿の甘い記憶、カンロ飴の甘さ、ネットセラピストとしての癒し……全部が、この瞬間に繋がってる。
最高じゃん。
本当に、楽しいんですけど、もう言葉にならないくらい幸せ。これが、私の勝ち組の続き。