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目黒side
――休憩時間の、どうしようもない感情
収録の合間。
セットの端で、目黒は立ったままペットボトルの水を飲んでいた。
「目黒くんって、本当にクールですよね」
女優が一歩距離を詰めてくる。
慣れている。こういう視線も、声のトーンも。
「いや、全然ですよ」
曖昧に笑う。
角度だけ整えた、仕事用の表情。
「今日もかっこいいですし」
「ありがとうございます」
それ以上は踏み込まない。
踏み込む気もない。
——それでも、視界の端が気になった。
少し離れたところで、佐久間がスタッフと話している。
いつものように身振りが大きくて、よく笑っている。
(……楽しそうだな)
胸の奥が、じわりと重くなる。
「佐久間さん、ほんと優しいですよね」
スタッフの声が聞こえた気がして、
目黒の視線が一瞬、強くなる。
——あいつ、絶対佐久間くん狙ってる
女優が何か話しているけれど、半分も入ってこない。
佐久間の笑顔ばかりが、頭に残る。
(ダントツでモテるって、言ってたな)
スタッフから聞いた言葉を思い出す。
冗談みたいに言われたけど、否定できなかった。
実際、ああやって人を惹きつけている。
「……」
目黒は無意識にペットボトルを握りしめる。
力が入って、ペコリと音がした。
「大丈夫ですか?」
「え? あ、はい」
慌てて力を抜く。
——大丈夫なわけがない。
佐久間がこちらに気づいて、軽く手を振った。
何も知らない顔で。
「蓮ー、あとちょっとだって!」
「わかった」
それだけの会話。
それだけなのに、胸が少しだけ楽になる。
——俺がこんなふうになる理由、
佐久間くんは一生気づかないんだろうな。
目黒は、女優から一歩距離を取る。
自然に、無意識に。
視線は、もう佐久間から離れなかった。
佐久間side
一方で、佐久間は何も知らない。
(蓮、モテるよなぁ)
遠目に見て、そう思うだけ。
(女優さんに囲まれてるし。さすがだわ)
それよりも、隣のスタッフが妙に距離が近いことのほうが気になる。
「佐久間さんって、ほんと話しやすいです」
「え、ほんと? 嬉しいな」
無邪気に笑う。
——その瞬間、視線を感じた。
振り返ると、目黒がこちらを見ていた。
表情は変わらない。でも、なぜか強い。
「……?」
首を傾げる佐久間に、目黒はすぐ視線を逸らす。
(なんだ? 今の)
理由は分からない。
分からないまま、収録再開の声がかかる。
目黒は歩きながら、静かに思う。
——触れない。言わない。奪わない。
それでも、
他の誰かのものになるのだけは、耐えられない。
その感情を、
誰にも気づかれないように、
今日も胸の奥に沈めたまま。
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