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目黒side
俺は、自分が恋愛に困ったことがなかった。
気づけば好意を向けられて、
少し話して、少し笑えば、
相手のほうから距離を詰めてきた。
だから自分は、
「好きになったら攻める側」だと思っていた。
——佐久間くんに出会うまでは。
肩に軽く触れても、
距離を詰めても、
冗談めかして「好きだよ」と言ってみても。
「俺もー!」
返ってくるのは、
曇りのない満面の笑顔。
そこには、
恋愛特有の温度が、ない。
(……違う、そうじゃない)
笑顔のまま返されるほど、
自分の気持ちだけが浮き彫りになる。
——俺は、こんなに好きなのに。
今までなら、
相手が戸惑う顔や、照れた沈黙があった。
佐久間くんには、それがない。
「好き」という言葉が、
軽やかに空を跳ねて、
全部、すり抜けていく。
(何が違う)
考えても、答えは出ない。
強く言えば壊しそうで、
踏み込めば引かれそうで。
——いや、
壊れる以前に、
気づかれてすらいない。
それが、一番苦しい。
俺は、
自分の手がこんなに重くなる感覚を知らなかった。
掴めば掴めるはずなのに、
佐久間くんには、それができない。
言葉にできない。
行動に移せない。
ただ、
近くにいればいるほど、
苦しくなる。
⸻
佐久間side
その変化に、
最初に違和感を覚えたのは佐久間だった。
(……最近の蓮、やっぱり変だ)
前より静かで、
前より距離があって、
目が合うと、すぐ逸らされる。
怒ってるわけじゃない。
冷たいわけでもない。
むしろ——
(我慢してる、みたいな)
理由は分からない。
嫉妬なんて、
思いつきもしない。
ただ、
蓮の笑顔が減ったことだけが、
妙に引っかかる。
「蓮」
声をかけると、
一拍遅れて振り向く。
「なに?」
「……元気?」
一瞬、驚いたような顔をしてから、
目黒は小さく笑った。
「普通だよ」
嘘だ、と分かる。
でも、追及できない。
佐久間は、
胸の奥に生まれたこの感覚を
まだ言葉にできなかった。
ただ一つ、はっきりしているのは——
(蓮が、遠くなってるのが、嫌だ)
理由も、名前も分からないまま。
二人は、
同じ場所に立ちながら、
同じことで苦しんでいることに、
まだ気づいていなかった。