テラーノベル
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翌朝、いつもより少しだけ静かだった。
目が覚めても、昨日の言葉が頭から離れない。
「飽きた」
そんなはずないのに、彼女はそう言った。
スマホを手に取る。
ふと、あることに気づいた。
君の名前が、消えている。
連絡先からも、SNSからも。
ただひとつだけ、残っていた。
——BeReal。
画面に、君の最後の投稿が映る。
いつもと変わらない、何でもない写真。
でも、なぜかそれだけが消されていない。
「……なんで」
小さく呟いて、指が止まる。
嫌な予感がした。
理由なんて分からないのに、胸の奥がざわつく。
何かがおかしい。
何か、大事なことを見落としている気がする。
気づいたときには、家を出ていた。
君の家へ向かう。
いつもと同じ道なのに、今日はやけに遠く感じる。
気づいたときには、君の家の前に立っていた。
呼吸が少しだけ早い。
何度もスマホを確認してしまう。
返信は、ない
インターホンのボタンを見つめる。
指が、わずかに震えていた。
押した。
ピンポーン、と乾いた音が鳴る。
しばらくして、足音が近づいてくる。
ドアが開いた。
出てきたのは、君ではなかった。
「……あの」
声が出ない。
目の前にいる人の顔を見て、胸の奥が冷たくなる。
「どちら様ですか?」
優しい声だった。
でも、その優しさが逆に怖かった。
「あの……娘さん、いますか」
やっとの思いで言葉を絞り出す。
少しの沈黙。
そのあと、返ってきた言葉は、あまりにも静かだった。
「……あの子なら、今は少し難しいの」
その一言で、何かが崩れた。
「少し……?」
聞き返す声が、自分のものじゃないみたいに遠い。
親は、少しだけ目を伏せてから続けた。
「ごめんなさいね。体調が、あまりよくなくて……」
体調。
その言葉が、頭の中でゆっくりと反響する。
——嘘だ。
君は、そんなこと一度も言っていなかった。
何も知らなかった自分に、急に突きつけられた現実。
「あの……僕、連絡……」
言いかけて、言葉が止まる。
君の名前が、口の中でほどけていく。
「……また来てもいいですか」
それが精一杯だった。
親は、少しだけ迷うようにしてから、静かに頷いた。
「ありがとう」
そう言って、その場を離れる。
家から少し離れたところで、立ち止まった。
何かが、決定的に間違っている。
それなのに、どうしていいのか分からない。
スマホを取り出す。
彼女のBeRealを開く。
——そこにいる君は、確かに笑っていた。
その笑顔が、今はひどく遠く感じた
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