テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
雨。冷たい雨の日で、私は傘をささずに夜の街を歩いていた。
「た、たす、たすけ…」
「ん?、あ」
私は唸り声を上げて、血を流している青年を見つけて裏路地に入った。
「う”、うぅ”、」
私は、青年を壁際に寄せて左手を差し出す
「待っててね。治癒をするから」
左手の皮膚の下から白い花の紋様が滲み出る。心臓の脈が進むたびに、その紋様は広がっていった。
どんどん青年の傷が治っていく。
それとは反対に、傷が塞がるたびに胸の奥を針で抉られる痛みが伝わっていく。
息が浅くなっていく。
指先が震えている。
「ありがとうございます。あなたは私のヒーローです。」
震えている手を隠しながら、 スズランはニコッと笑う
「ありがと。聞けてとても嬉しいよ」
青年は治った腕を見て、安堵した。
だが次の瞬間、スズランの左手に浮かぶ白い紋様を見て、表情が引き攣った。
青年は怯え、慄き急いで裏路地から脱していった。
「どうしたんだろ、」
自分の手を見る。花の紋様が手に浮き出ていた。
「…。 ヒーローか。」
その言葉がずっと頭の中に残って、反響する。
壁に手をつく
「ん”、お”ぇ、」
白い花の紋様が胸元に広がっている。
「はぁ…」
「なんで、私の方が痛みを感じているんだろ」
そんなことを言っている一方で、路地裏の監視カメラの赤い光が、点滅していた。
「ふぅ〜。いい朝だねぇ。」
朝、私は朝食の準備などをして、過ごしていた。
ふとすると、何か手紙が来ていることに気づく。
拝啓 スズラン様
花ノ衆の全員集合を命令する。
×月×日×曜日。××時××分××本部前に集合しなさい
××本部
「はぁ。最悪だ、」
食べる気のなくなった、朝食を流し台へと流していく。
作ってちょっとおいた味噌汁から、白く細い湯気が上がっていった。
「…最悪。」
私はそう言い、制服の裾を引っ張った。
電車に乗っているとき、ふとテレビのニュースを見てしまった。
『昨夜未明、能力者による暴走事件を庭園管理局が鎮圧ー』
電車内のモニターで白い装甲服の団員たちが映る。
子供が言う。
「ローズマターだぁ」
「かっこいい」
スズランはふと目を逸らして、俯いてしまった。
本部前に集合する
着いた瞬間に怒られる。
「おいスズラン、5分遅刻だ。 」
男性が言う。
「ごめん、久しぶりに来たものだから迷っちゃって。」
「あと申し訳ないんだけど、名前を覚えていなくて、名前なんだったっけ?」
「あぁ、月桂樹だ。それよりなんでーーーー」
月桂樹に小言を言われながら、周りを見渡す。
壁際。
長身の男が、無言でナイフを指先で回していた。
床には、植物の蔓が無意識に這っている。
赤い目の女と視線があった。
誰とも話さず窓の外を見ていた。
鼻の奥に焼けた匂いが入り込む。
聞いたこともない子供の泣き声が、耳の奥でした。
「……っ」
目を逸らす
次に目線をやったときは、 女はもう窓の外を見ていた。
ふと見ると、さっきの男性の近くに誰かいる。
「え、なにそれ。ちょっとカッコよくない?」
少年がふざけたように構える。
構えて真似した姿は、彼の姿と瓜二つだった。
「まぁ、さておいて」
「……久しぶりだね、みんな」
月桂樹は笑っていた。
その声は明るかったのに、 月桂樹の指先は震えていた
「早速だけど、本部にやって欲しいことを聞いているから、移動しながら説明するね。」
聞いたことを要約すると、庭園管理局の強化に伴い、花ノ衆も強化するため、協力体制をとるとのことらしい。
戦闘訓練、、、。久しぶりすぎて、なんも覚えていない。
資料を配られた。正直資料を配られただけでは全くわからない。
「回復役は前に出るな」
真面目そうな男性は資料から目を離さずにいった。
「ごめん。 」
「謝罪じゃない。事実だ」
発した声は、心配より先に合理性があった
「死なれたら、一番困る」
冷徹な男性はそう言って、一瞬だけスズランの手を見た。
「さて、戦闘訓練場所に向かおうか。」
高校生たちが笑いながら私たちの横を通り過ぎていく。
制服、コンビニ袋、他愛もない言葉。
「いいなぁ。」
気づけば口から漏れていた
「…」
誰も反応しなかった。
聞こえていないわけじゃない。
ただ、
返す言葉を誰も持っていなかった。
車の走行音だけが、妙に耳に残った。
「行くよ…」
月桂樹が先に歩き出す
誰かについていくとかもなく、全員が適当な距離を空けて歩き始めた
それは、
『協力』ではなく、
『ただ同じ場所に向かっているだけ』の様だった。
私は少しだけ後ろを歩く。
ふと、隣から声がした。
「羨ましい?」
振り向く。
赤い目の女が周りの景色を見ながら言った。
「え? 」
「普通の子供達 。」
女の人の声は静かだった。
「別に…」
そう答えた瞬間、女の人が小さく笑う。
「嘘」
その瞬間。視界の端が赤く染まった。
知らない女の人が泣いている。
燃える部屋。子供の叫び声。
胸が苦しくなる。
「…っ 」
瞬きをすると、全部消えていた。
「やめろ彼岸花。」
低い声で言っていた。
さっきの冷徹な男性だった。
「なによ、菊」
「移動中に使うな」
「使ってないわよ」
彼岸花は少し笑う。
「少し漏れただけよ」
菊は舌打ちした。
「最悪だな」
「別に、あなたほどじゃない」
空気が悪い。
でも、この空気を止める人はいない。
長い間沈黙が訪れた
「ーーーー着いたよ」
月桂樹が立ち止まる。
巨大な地下訓練場だった。
コンクリートの壁には深い傷跡。床には焼けこげた跡。所々に黒く変色した花ビラが落ちている。
「ここ…」
小さく呟く。
「花織人専用訓練区画」
菊は短く答えた。
「暴走前提で作られている。」
その言葉にスズランは喉が少しだけ詰まった。
“暴走前提で”
まるで、私たちが怪物の様だった。
「さて、誰から始める? 」
月桂樹が言う。
長身の男性が前に出た。
「俺からでいいだろ」
その瞬間、床を這っていたツルが一斉に持ち上がった。
『槍』、『剣』、『斧』
形を変え続ける。
「おぉ…」
さっきの少年が目を輝かせる。
だが、次の瞬間。
槍が、スズランめがけて飛んでいく。
「…ッッ。おい。 止まれ、!」
槍の切っ先が、スズランの喉元すれすれで止まった。
空気が凍る。
長身の男は無表情だった。
「悪い…」
そう言ったが、全く悪いと思っていない目だと感じた。
「一旦、やめようか」
月桂樹は言った。
「…」
空気が重い。
この空気を破ったのは、明るいこの子だった。
「もー、初日から怖すぎ。」
明るい声が響く。
白い耳飾りを揺らしながら、少女がスズランの隣に立った。
「大丈夫?」
自然に差し出された缶コーヒーをしっかりと受け取る。
「あ、ありがと。ごめん、お名前は?」
「私はカスミソウ。よろしくね。」
「ねぇ、顔色悪いよ?」
「…え?」
「無理すると倒れるタイプでしょ。スズランちゃん」
初対面のはずなのに、踏み込んでくる距離が近い。
でも自然と、嫌ではなかった。
「よし、再開しようか。」
ふと、修練場の隅を見る。
壁に爪で引っ掻いた様な痕がある。
その上に何か書いてある。
『もう治さないで』
スズランはジィッと見ていた。
「…?」
「気にするな。」
菊が言う。
「昔のやつだ。」
「そうなのね。」
「よし、みんなの能力をわかったと思うし、もう帰ろうか。」
帰る時にふと、通り道を見渡す。
廊下の壁には、蔓が焼き切られていたような痕が残っていた。
所々、金属板で補強されている。
「…」
事故なのか。わざとなのか。
スズランにはわからなかった。
修練場を出て、 各自バラバラで帰ろうとする。
そこで突然、遠くで爆発音がする。
一般人の悲鳴…
全員、動こうとした体が止まる。
月桂樹が言う。
「……管理局か?」
すると、菊が即座に発言する。
「違う。 」
静かに時間が過ぎていく
次の瞬間、
花の暴走。
遠くのビルの壁面に、巨大な『花の紋様』が咲く。
一般人が逃げ惑う
「…ッ 」
スズランが助け出そうと動き出す
でも、菊が腕を掴む
「待て。」
「でもッ、」
「ここでお前が行けば被害が広がる。」
「…。」
周囲の一般人が、避難しながら言う
「花織人だ!」
「逃げろ、。」
スズランは止まる。
月桂樹が、難しい顔をして言った。
「…今回は、庭園管理局に任せる。」
「…っ、なんで…。」
スズランは息が詰まった。
菊が冷静な顔をして発言をする。
「お前は回復役だ。」
「不用意に行動したら、死ぬぞ。」
白い装甲服。
誰かが近づく。
逃げ惑っていた一般人が、 その人物を見た瞬間、 安心したように泣く。
その横で、 花織人たちは誰も動けない。
そしてテレビに映っていた人が、 遠くからスズランを見る。
一瞬だけ目が合う。
でも敵意に見えない。
“観察”してるように思える。
一般人たちが叫ぶ。
「ローズマターだ。ローズマターが来たぞ! 」
「やった。助かったんだ!」
「「……。」」
その光景を花ノ衆は、するとこなく、ただ見ていた。
本部に帰ろうとする歩き。
ビルの窓に反射するじぶんの顔が、やけに青白かった。
誰も喋らない。
ただ、カスミソウだけが
「今日は大変だったね。」
と、笑っていた。
でもその声は絞り出したような、掠り声だった。
菊は資料を見ている。
まるで、さっきの出来事がなにもなかったように。
スズランは耐えきれず、口を開く。
「助けられたよね…」
「…。」
誰も反応しない
「私たちでも。」
沈黙。気まずい空気だけが残る。
真っ先に口を開いたのは、菊だった。
「助けに行ったら、被害は増えていた。」
「でも…….。 」
「感情で動くな。」
「じゃあ、見捨てろって言うの。」
自分でもびっくりするほど、大きい声だった。
「…見捨てられずに助けに行った時の結果を、私は知っている。」
その声は冷たかった。
まるで、何度もそれを繰り返してきたような、声色だった。
そのあとは、みんな何事もなかったかのように、ひとりでに帰った。
家に帰る。
洗面所に行き、 制服を脱ぐ。
「はぁ、厳しい一日だった。」
ふと、自分の胸元が見えた。
自分の白いはずの花の紋様が、黒ずんでいた。
「…え?」
触れてみる。
痛い。
「…見なかったことにしよう。」
さっきのことを考えないように、テレビをつける。
『本日の能力者災害による死者数は0名でー』
『庭園管理局の迅速な対応によりーーーー』
スズランは黙ったまま、テレビを見つめる。
ゆっくりとソファに座る。
「…助けられなかった。」
窓の外。
さっきまで降っていなかった、小降りの雨が降っている。
黒く染まって散らない花の紋様が、静かに脈打っていた。
93
90
4,503