テラーノベル
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医師の言葉は、ノアの耳をすり抜けていった。
「……時間は、あまり長くない」
それが「余命」だと理解するまで、少し時間がかかった。
病室に戻ると、窓の外で雨が降っていた。
ノアは、ベッドの横のカレンダーを見る。
丸がついている日が、ひとつだけあった。
――来月の遠足。
親友のミツキが、楽しそうに言っていた日だ。
その日、ミツキはいつも通り病室に来た。
「なあ、遠足さ」
ノアは言った。
「オレ、行けないかも」
ミツキは一瞬黙って、それから笑った。
「じゃあさ、今日行こう」
「は?」
ミツキはリュックを背負い直す。
「遠足って、どこ行くかじゃないだろ。
一緒に過ごす日、ってことで」
病院の屋上。
コンビニのパンと、紙パックのジュース。
それだけなのに、なぜか楽しかった。
「明日は?」
ノアが聞く。
ミツキは答える。
「明日じゃなくていい」
それが、合言葉になった。
日がたつにつれて、ノアは起きていられる時間が短くなった。
「ミツキ」
ある日、ノアは小さな声で言った。
「オレさ、いなくなってもさ」
ミツキは首を振る。
「その話も、明日でいい」
ノアは、少し笑った。
最後の日。
ノアは、もう目を開けるのが大変だった。
ミツキの声だけが、そばにあった。
「今日もさ、遠足な」
「うん……」
「ちゃんと、一緒だったから」
ノアは、うなずいた。
ノアがいなくなったあと、
ミツキはカレンダーを見た。
丸のついた日を、そっと消す。
「明日じゃなくていい」
そう言って、外へ出た。
ノアと過ごした日々は、
全部、遠足だったから。
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