相良がタバコ休憩に、喫煙所に一人でいると、誰かが中に入ってきた。同僚の
近藤だ。
近藤は「よっ」と軽く挨拶して、相良の隣に立った。胸ポケットから煙草とライターを取り出して、火をつける。煙を深く吸うと、近藤は言った。
「そういえば、笏本が死んだって聞いたか?」
相良が首を横に振る。笏本とは、つい数か月前に転職していった二人の元同僚だ。
「あいつ、煙草で死んだらしいぞ」近藤が言った。
「へえ」俺は、興味ないというふうに相良が相槌を打つ。しかしその態度は、相良に限ったことではない。本という男は多くの社員から嫌われていたからだ。
近藤も相良ほどではないが、笏本を嫌っていた。しかも煙草に依存している者同士。
近藤は白い煙が肺いっぱいに広がるのを楽しみつつ、煙と共に吐いた。
「だからってやめられないよな。この一本のために生きていると言ってもいい」
「ああ」
「・・・・・・まあでも、俺たちも気を付けないとな」
「そうだな」
ねたばこだった。たった一本の煙草が命を奪った。本は寝煙草による火災で火傷を負って死んだの
だ。
「奥さんに怪我は?」
相良が近藤に聞いた。灰皿に吸い殻を落として、近藤は答えた。
「大丈夫だそうだ。火事の時、家にいなかったらしい」
「そうか…・・・・」
「運がよかったんだな」
近藤が二本目の煙草を取り出す。相良は一度大きく吸い込むと、魂を吐き出すようにゆっくりと煙を吐き出した。
コメント
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笏本の死を知らないと答えた相良ですが、笏本の奥さんの安否を確認していることから、死因が「煙草の不始末による火災」であると見抜いているようです。 近藤は煙草が死因であることは伝えていましたが、火災であることは伝えていません。普通であれば「肺がん」や「動脈硬化による心筋梗塞」、「呼吸器疾患」などが死因であると想像するのではないでしょうか? ということで真相は、相良が本を裏煙草を装って放火して殺害した。