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「それ俺の餅や!!」
新年一発目の怒鳴り声は、宮家の居間に響いた。
「はぁ? 名前書いてへんやろ!」
「一個しか残ってへん時点で察せや!」
「察するかボケ! 正月は弱肉強食や!」
侑が箸を伸ばした瞬間、治の箸がぶつかる。
カチン、と乾いた音。
「離せやツム!!」
「嫌や!! 俺が先に見つけてん!」
母の「ええ加減にし!」という怒声が飛ぶと同時に、餅は真っ二つになり、二人の皿へと分配された。
「……ちっ」
「……ちっ」
同時に舌打ち。
新年早々、相変わらずだった。
夕食後、二人は並んでベランダに出た。
吐く息は白く、遠くの空がゆっくり明るくなっていく。
「さっきの餅、ちっさすぎやろ」
「文句言うな。半分もろただけありがたい思え」
侑は手すりにもたれ、空を見上げる。
「もう高三やな」
「せやな」
侑は当たり前みたいに言う。
「最後の春高や。絶対一緒に行こな」
「……当たり前やろ」
治はそう返しながら、空を見上げた。
嘘はついていない。ただ、続きを言っていないだけだ。
侑は続ける。
「高三終わってもさ、なんだかんだ一緒にバレーしとる気するわ」
「……お前、楽観的すぎや」
「なんでやねん。事実やろ。」
迷いのない声。
治は思わず笑ってしまった。
「せやな」
その一言に、全部を押し込めた。
バレーを続けるか。
続けないか。
まだ決めきれない将来を、侑は何も知らない。
東の空が白み、初日の出が顔を出す。
「うわ、今年も眩し」
「毎年言うてるで、それ」
二人の影が、ベランダに長く伸びる。
ぴたりと並んで、同じ方向を向いている。
侑は前を見る。
治は、その横顔を見る。
あと一年。
同じコートに立てる時間。
それが「最後かもしれない」と思っているのは
この中で、治だけだった。
「今年も餅の取り合いは負けへん」
「知らんがな」
侑は笑って、拳を握る。
未来を疑わないその背中を、治は静かに目に焼き付けた。
騒がしい正月は、いつも通り始まった。
何も変わらないように見える、その裏で。