髪の話
また髪の話してる……
院長の髪
「いんちょーって髪長いですよね。」
お面を外し、唐揚げを頬張る俺を見てとろさんは言う。
「あーそうね。結構長いこと切ってないし。」
「切らないんですか?」
「んーめんどくさくてね…。時間も無いし。」「あぁ…。」
毎日毎日ヘリを飛ばし、街を東奔西走するこの仕事。
昼夜を問わず鳴り止まない負傷者の通知。
そんな中で髪を切りに行く余裕などなく、休憩に入ればまず食事や睡眠を優先してしまう。
「確かに……伸びたな。」
お団子に纏めた髪からひと房落ちているのを摘んで言う。
「じゃあ、切りに行きませんか?」
「え、今から?」「っす!」
「とろろも伸びてきたんで切りたいと思ってたんすよー。」
「あー…じゃあまあ、行くかぁ…。」
「やったぁ!」
熱弁するとろさんの気迫に負けて切りに行くことになってしまった。
俺は別にこのままでも……なんて言ったら睨まれそうなのでやめておく。
「とろろといんちょー髪切りに行ってきます!」
「行ってらっしゃーい。」
「だお切んの!?後で見してねー!」
「えー絶対写真撮って拡散しよ。」「おい。」
幸い今日は起きている医者も多い。
たまにはいいだろう。
「あ、とろさん俺私用の車いまバイクしか無いや。」
「じゃあ後ろ乗っていいすか?」
「残念これ2ケツ出来ないんだ、て事でよいしょ。」「くっはは!れっつごー!」
とろさんを担架で持ち上げる。
愛用のシノビに2ケツ()して散髪屋へ。
「いんちょーどんな髪型にするんすか?」
「どうしようねぇ、バッサリいくか…。」
「髪短いいんちょー楽しみっすね!とろろはあんまり変えずに毛先を整えたいっす。」
「いいね。俺はしばらく切んなくていいようにしたいからな……。」
「定期的に切らなきゃダメっすよぉ!」
雑談をしながら道路をかっ飛ばす。
道交法フル無視で途中パトカーとすれ違ったが、なずちゃんだったので多分大丈夫。
カランカラン
軽快な音をたててドアを開ける。
ナチュラルな店内にナチュラルな見た目のNPC。
「じゃあとろさんまた後で。」
「はいっす!」
隣合う椅子に腰掛け、NPCに注文する。
下ろした髪は余裕で背中に着いている。これ切ったら相当頭が軽くなるな…。
椅子を倒されシャンプー、リンス、ドライヤーと進んでいく。
わあ長い。鏡に映る自分は随分草臥れた顔をしていて、思わず目を背けたくなった。
サクサクと髪にハサミが入っていく。
床に落ちる髪が多くて、ちょっとびっくり。
……最近眠れていないからか、頭を触られているとすぐ眠くなる。
………………。
肩を叩かれる感覚で目を覚ます。
「いんちょー!」
どうやら眠ってしまっていたらしい。
「んん…とろさん、終わった…?」
「いんちょーめちゃくちゃカッコイイっす!」
「はえ?」
鏡を見ると、なるほど。随分切ってもらったな。
襟足はスッキリとしており、前髪は中分け。
「おお……。」
なんというか、そう…。
「若返ったなあ……w」
「いんちょーカッコイイっすよ!写真撮らしてください!」
「ええー、まあ良いけど……。」
にこにことスマホを構えるとろさん。
彼女もさらさらだった髪を更にさらさらにしており、ツヤが増した分、華やかになっている。
「とろさんもかわいいね。」
「うぇっ!?ありがとうございます!」
「……あ、これセクハラ?ごめん、マジそんなつもりじゃ……。」
「セクハラじゃないです!嬉しいっす!」
イマドキ何が炎上の火種になるか分からない。
ましてこんなオジサンに可愛いって言われて…やっぱ嫌だよな。
「いんちょー!写真一緒に撮りましょ!」
とろさんが大丈夫ならいいか。
少し腰を落として目線を合わせる。
「はい、チーズ!」
申し訳程度にピースをして写真を撮った。
「……。」
無言でスマホをいじるとろさん。
ぴこん
「……あ、とろさん?」
「くっ…wスイマセン……ww」
スマホを開くとTwitterに通知。
仲良く並んだ2人の写真に、
“院長と髪切りに来ました!”との文字。
「おーいとろろー?」
「くっはっwすいません!w」
「もーーw」
あーあ。病院に戻ったらきっとイジられる。
とろさんの撮った院長単体の写真は彼女のスマホに大事に保存されています。
コメント
2件
え、まじ大好きなんですが🥹✨💗 まじとろらだてぇてぇ😇 ふつーにハートめちゃ押しました🫶🏻💗 ̖́-