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テラーノベル(Teller Novel)
回る輪の中で

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15

第15話 代役

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2022年08月12日

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『はい。僕はハートの女王様の手下です』

「手下のくせに帽子屋さんのお茶会にいたんですね」

『えぇっと……僕がここにいるのは女王様に命令されたからでして、その命令内容は秘密ってことになってまして……』

「そうなんですかぁ~」

『あのぅ、あんまり興味なさそうにしてますけど……もっと驚いてくれても……』

「だってわたしはもう知ってましたし……でもどうして帽子屋のお茶会で働いてたんですか? それも秘密なんでしょうか?」

『いえっ! そういうわけじゃないんですよ! えーっと……実はですね、帽子屋さんたちがアリスを探しているっていう噂を聞きまして、それでボクもちょっと探してるんです』

「そうなの?」

『はい。だからこうして聞いて回ってるって感じですかね!』

ふむふむ、なるほどね~♪……ん? あれれ? でもそれじゃぁなんでここにいるの? 帽子屋の人たちが探してたんじゃなかったっけ?

『ああ、それはもういいんです。あの人らホントに勝手だし、それにどうせアリスなんて見つからないし……』

「えっ!?」

思わず耳としっぽを出してしまいそうになる女の子。慌ててしまって、つい余計なことを口にしてしまう。

「あっ! いえ、私は違うんですよ!」

「どうしました?」

ペーターの声で我に返ったミケは、少し慌てる様子を見せるも、すぐにいつも通りの無表情に戻る。

そんな彼女に、ペーターは微笑みかけたまま話を続ける。

「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど」

「えぇ、平気よ。ありがとう」

「無理しなくて良いんですよ?疲れた時は言ってくださいね。僕が癒してあげますから!」

「えぇ!?わたし元気よ!!」

ぶんぶんと両手を振る彼女だが、ペーターはさらに心配そうな顔をしてこう言う。

「じゃあお茶にしましょう!!僕、お茶を入れますね!!」

パタパタと走って行くペーターを見送って、ミケはポツリと言った。

「もう、大丈夫なのに……」

―――ミケがこの場所に来た時、すでに周りにいた人たちは全員歪んでいた。

それでも彼女は自分の役割を思い出し、頑張ろうと決めた。

だから今更弱音を吐くなんて許されないし、するつもりもなかった。

だけどやっぱり少し寂しいと思うのは仕方ないことだと思う。

「みんなどうして歪むのかしら?なんのために歪むのかしら?」

「それはもちろん、幸せになるためです」

突然の声に振り返るとそこには帽子屋がいた。

いつの間に現れたのだろうか。まったく気配を感じなかった。

思わずビクリとしたミケだったが、なんとか笑顔を浮かべた。

「こんにちは」

ペコリと挨拶をする彼女に帽子屋もまた微笑み返す。

「はい、ごきげんよう」

優雅な仕草で帽子屋の口元を覆うマスクを外す彼。

露になる素顔を見て、アリスはその美しさに見惚れてしまった。

(綺麗……)

男であるはずなのに、女性と見間違うほどの美貌を持つ彼。

そんな彼に見惚れていたのか、頬を少しばかり紅潮させながらも、少女は彼の話を聞き入っていた。

「――アリス」

不意に名前を呼ばれて、少女はビクリと肩を震わせる。

恐る恐る振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。

黒い髪に漆黒の瞳をした、黒兎を連想させる男性。

その出で立ちを見ただけで、少女はこの国の王だと理解した。

彼がゆっくりと歩み寄ってくる度に、心臓が高鳴っていく。

やがて目の前に立った彼は、少女に向かって手を差し伸べた。

どうしたら良いのか分からず困惑していると、優しい笑みを浮かべながら口を開く。

「ようこそ、ワンダーランドへ。歓迎しますよ、アリス」

差し出された手に自分のそれを重ねれば、優しく握り返された。

そのまま引き寄せられて、抱き締められる形になる。

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