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第15話「わたしの夢」/料金:取扱終了
古山ミドリ(ふるやま・みどり)、16歳。
短めの黒髪、イヤホンを片耳だけ差し、いつも一歩引いているような雰囲気。
制服の着こなしは無難そのもの。目立つことは苦手で、SNSもほとんど更新しない。
でも、彼は《メイセキム。》のアカウントを持っていなかった。
学校では、“夢の話”が日常的に交わされている。
「あの人気夢見た?」「昨日の夢マジで泣けた」
「課題のストレス、夢で解消してるわ」
クラスのほとんどが、毎晩のように明晰夢を“借りて”過ごしていた。
ミドリだけが、まだ一度も夢を“借りたことがなかった”。
ある日、学校の帰り道。
ふと立ち寄った古本屋の端末に、こんな表示があった。
【期間限定・一度限り体験】 【夢名:わたしの夢】 【提供者なし/再生1件/料金:取扱終了】
販売元も、ジャンルも、なぜか“空欄”。
「……お試しみたいなものか」
そんな気持ちで、アオイは夢をダウンロードした。
その夜。
明晰夢用のヘッドセットも、アプリも通さずに、彼はただ自然に夢に落ちていった。
導入音も、光もない。
気づけば、ミドリは誰もいない世界に立っていた。
空も、地面も、光も、何もいない。
そして、そこにひとり、少女がいた。
背中までの長い髪、ベージュのワンピース、素足。
静かに本を読んでいるが、なぜかそのページは空白だった。
ミドリは、おそるおそる話しかける。
「ここは……誰の夢?」
少女は本を閉じて、顔を上げた。
「きみのだよ」
ミドリは、自分が“夢を借りた”はずなのに、
この場所が“最初から自分のものだった”ような気がしていた。
少女はゆっくり歩いてきて、目を見つめて言った。
「誰かの夢を見てるだけじゃ、ずっと“借り物の願い”しか持てないままだよ」
「でもね、きみには、“まだ何も見たことがない”っていう夢がある」
目覚めたのは、午前5時。
ベッドのそばに、スマホが落ちていた。
《メイセキム。》のアプリには、通知がひとつだけ届いていた
【あなたの夢を登録しますか?】
【夢名:わたしの夢】
【提供者:ミドリ】
【ジャンル:未分類】
ミドリはしばらく迷ったあと、「はい」を押した。
その日から、世界でただひとつ、
**“誰の影響も受けていない夢”**が、公開された。
《メイセキム。》注釈:
「わたしの夢」は、購入・体験履歴のないユーザーのみが閲覧可能です
他人の夢を見ることに慣れすぎた現代、
自分の夢がどんなものかを“知る”ことも価値ある体験とされています
あなた自身が、まだ見ぬ“物語”のはじまりです