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#山中柔太朗
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「山中さん、救急の採血ヘルプ!」「佐野先生、小児科から緊急問診要請です!」
朝から院内PHSが鳴り響き、勇斗と柔太朗、舜太の3人は怒涛の勢いで救急外来へと駆り出されていった。
「……はぁ。あっちも相当混乱してるね」
残された静かな診察室で、仁人が電子カルテを開く。
だが、静かだったのも束の間。他科で溢れかえった「原因不明の急患」や「予約外の患者」が、一気にこの総合診療科の外来へと雪崩れ込んできたのだ。
「……嘘でしょ。この人数を僕と太智だけで診るの……?」
普段なら「これ売店の新商品〜」とヘラヘラおやつを食べてサボっている太智の顔が思い浮かび、仁人は一瞬で胃が痛くなった。
自分が診察も処置も手配も全部一人で回さなければいけないのか、と冷や汗が流れたその時——。
「吉田先生、ぼーっとしてんと外来開けるで! 1番診察室、誘導完了しとるよ!」
「……え?」
仁人が弾かれたように顔を上げると、そこにはいつものふざけた空気感を一瞬で消し去った太智が立っていた。
カーディガンの袖をテキパキと捲り上げ、手には整理されたカルテと処置端末。
「2番の患者さんは先に血圧と脈診て起立性テスト完了済み。3番のおばあちゃんは耳が遠いから問診票に大きめの文字で主訴まとめておいたで。吉田先生は診察と鑑別に集中して!」
「あ……うん……」
戸惑う仁人を置き去りに、太智の動きはまさに神業だった。
診察室に入ってくる患者さんの緊張を一瞬でほぐす明るい声かけ。
医師が次に指示を出す前に処置セットや検査オーダーの画面を用意し、採血もルート確保も一発で仕留める寸分の狂いもない手技。
混雑する待合室の患者一人ひとりに気を配り、優先度(トリアージ)を脳内で素早く組み替えて流していく。
いまの太智は“手際が良すぎる”。この一言に尽きた。
いつもは自由気ままにフラフラしている男が、いま目の前で完璧すぎるプロの看護師として外来ラインを無駄なく支配している。
仁人は二度見どころか、二度見したまま固まりそうになるのを必死で抑え、猛スピードで鑑別診断を下していった。
太智が完璧なパスを出し、仁人が即座に打ち返す。
二人しかいないはずの診察室は、まるで熟練のオペチームのように恐ろしい速度で患者を診ていった。
「……ふぅ! 午前外来、全員終了〜っ!」
最後の患者さんを見送り、診察室の扉が閉まった瞬間、太智がいつもの笑顔に戻ってソファーにドカッと倒れ込んだ。
「あ〜疲れた! 吉田先生、俺めっちゃ頑張ったやろ〜! 褒めて褒めてー!」
さっきまでのキリッとした“しごできナース”の顔はどこへやら、いつもの甘えモード全開の太智に戻っている。
仁人は呆然と太智を見つめたあと、眼鏡のフチをゆっくり押し上げた。
「……ねぇ、太智」
「なに〜?」
「……お前、普段どれだけサボってんの?」
「そこ!? 感謝じゃなくてお小言!? 酷ない!?」
ガバッと起き上がって抗議する太智に、仁人はふっと力を抜いて、デスクの引き出しから冷えた高級栄養ドリンクを取り出して差し出した。
「……うそ。助かったよ。一人だったら完全にパンクしてた」
「へへ、分かればよろしい!」
「言い方がムカつくな、」
受け取ったドリンクを嬉しそうに飲む太智を見て、仁人はお茶をすすりながら口元をゆるめた。
普段はどれだけ適当に見えても、いざという時は誰よりも頼りになる。
新たな発見のある一日だった。