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第2話:100文字の衝突
空中演習デッキ。ツリーハウスの外周に伸びる透明フロアには、碧素が走る模様が常に脈打っていた。
朝の日差しと、薄く漂う碧光。その中でゲンとタカハシは演習服を着込み、並んで立っていた。
「今日は“100文字演習”。自由コード構築で、模擬戦闘を行うぞ!」
スエハラ先生がホログラム越しに指示を出す。
ゲンは、ダボついた演習上着の袖を片方だけまくり、腕の端末にフラクタルコードを走らせていた。
髪は風になびく茶系の乱れ髪。整っていないが、不思議と目を引く。
「ふっ……今日はちゃんと“100文字”以内に収めたぜ」
「逆に危ないんだよな……お前が“ちゃんとやった”って言うと」
隣のタカハシは、きっちり前ボタンまで留めた制服姿。メガネ越しの目は真面目そのもの。
「演習、開始!」
まずはタカハシ。冷静に《GRAVITY = -2》《SHIELD = TRUE》《ECHO = FALSE》を構築。
彼の周囲にふわりと空気が浮き上がり、シールドが静かに広がる。
「……いいぞ、安定波形だ」
スエハラ先生がうなずく。
その直後――ゲンのコードが発動する。
《BLADE = “フラクタル模様”》《RANGE = 3》《SPIN = CLOCKWISE》《FLASH = TRUE》
「“模様を刃にする”って何!?」
叫ぶタカハシの前で、ゲンの右手に青白い光の刃が生成される。
渦を巻くように模様が回転し、細やかな光線が迸る。
「かっこいいだろ?」
「危ないの間違いだろッ!」
《SPIN = PULSE》《COLOR = “蒼”》――ゲンが書き換えた瞬間、刃がスパイラル状に脈動を始める。
その煌めきはまるで“生きた意志”のように動き、演習場全体がざわめいた。
「ゲンッ! お前、ぶつかるぞっ!」
《SHIELD = REINFORCE》
タカハシがとっさに追加コードを走らせ、バリアの厚みを強化。
刃が激突すると同時に青白い火花のような光が炸裂。観戦していた他の生徒から小さな歓声と悲鳴が漏れる。
演習後、ふたりはベンチに並んで座っていた。
「……いやー、いい感じに爆ぜたね」
「爆ぜるのが良いとか、初めて聞いたわ……」
タカハシは額の汗を拭いながらも、なぜか少し笑っていた。
ゲンがぽつりと呟く。
「でもさ。俺の即興コード、お前のシールドに“共鳴”しただろ?」
「確かに、噛み合った……部分的には。でも俺のコードの読みがなかったら、演習台ごと吹っ飛んでたよ」
「つまり、タカハシが俺を補ってるってことでしょ? いいコンビじゃん」
「そんな軽く言うな!」
空にはまだ、刃の軌跡が残した光の帯が残っていた。
その中に――ふたりの“100文字の衝突”が、確かに刻まれていた。