「とうま〜!はやく飲み行こ、みんな待ってるよ!」
「ちょ、ちょっと待って、今行くから!」
今年で二十六歳になる『速水 柊真(はやみ とうま)』は、ごくごく普通のサラリーマンだ。しかし産まれてこの方彼女や女性やという異性との関わりは全く持っていなかった。いや、持てなかった。それもそのはず、安いマンションで一日三食カップラーメンの貧困生活をしている上に、職場では変な人、病気を患っている人と言われている。
そして最近、その職場ではおかしな事が起きており、会社員の男性が倉庫で見つかり体に多数殴られた跡が残っていたり、複数社員のPCや資料がボロボロにされたりという現象が多数起きている。ついには会議の時に犯人は柊真だという奴もいた。先輩社員と揉めているのを見たや最近ずっとピリピリしているからなどと根も葉もない事を喚き散らすのだ。もちろん柊真自身にその記憶はない。それどころかココ最近は普通に生活し、成績も維持、なんなら上がっているばかりだ。
証拠もないのにどうして俺だと言えるんだ?そう俺を犯人と言っている君が犯人なのではないのか?
そんな話をしていると酷くイライラしたので何も考えず会議を離脱してしまった。後日社長に呼ばれ、もちろんお叱りを受けたが、事件や会議の事について深く探ってこなかったのが救いだった。
だがそんな中、幼い頃からずっと仲良しの親友達がいた。同じ職場、同じ地域住み、幼稚園の頃から友達のいなかった柊真に寄り添ってくれた親友三人と今日はいつもの居酒屋に飲みに行くのだ。家が近く、何をするにしてもいつも一緒の『佐藤 正樹(さとう まさき)』と一緒に居酒屋へ向かう。自分たちが到着した頃には、もう二人は来ていた。
「遅せぇよダボ、帰るとこだったわ。」
と言ったのは短気だが喋ると結構楽しい『上里 翼(あがり つばさ)』。
「まぁまぁ、みんな集まれて良かったじゃん。今日も楽しも〜」
とのんびりした声で翼を落ち着かせたのはおっとりしていていつも眠そうな『葉山 暁人(はやま あきと)』。
「よし、みんな揃ったね。じゃあ行こっか」
いつも通り正樹が会話を進め居酒屋へ入っていく。いらっしゃいという店主の声を流し、四人席へ座る。
「最近仕事大変だねぇ。変な事件多いし〜…」
前に座る暁人が眠たそうな声で喋り始める。
「あぁ、会議の時は大変だったよ。あのクソッタレぜってぇ殺す。」
と暁人の横に座りながら言う翼。わざわざ気を使ってくれたのかと少し感心した。
「そんな事言わないでよぉ〜、翼くん怖い〜。」
「うるせぇ。大体お前は寝てたくせに…」
わちゃわちゃしていると失礼しますと店員さんがビールを四つとツマミを持ってきた。
「柊真も大変だったね。お疲れ様。」
「とまくんお疲れぇ〜」
隣に座る正樹と向かいの暁人が優しく声をかけてくれて泣きそうになった。改めていい友達を持ったと感じる。
「…てかさぁ、最近お前ん所の先輩どうなんよ。まだ変な噂してんのか?」
「そうなんだよねぇ。何か俺の事病人だとか頭おかしい人とかコソコソ話してる。いい歳して確かでもない嘘を噂するって、汚れてんなぁ世の中。」
「まぁ、確かに柊真だけ変な目で見られてるよね。仕事はちゃんとしてるはずだし、普通に俺らと話してるだけなのに…」
「人って怖いねぇ〜。でもあんまり気にしなくていいんだよぉ、僕達がいるからねぇ。」
「ありがとう…。」
親友達に慰められ、今までのストレスと共に涙が溢れてくる。その後も愚痴や世間話を交わしあっていると、突然スマホの着信音鳴った。画面を見ると課長と表示されていた。出てくるよと気だるげに言い真冬の風が吹く夜の路地裏へ入る。
「はい、柊真です。」
『柊真君、少し話があるんだ。単刀直入に言おう。君にはうちの会社を辞めてもらう。』
「…え?」
一瞬課長が何を言っているのか分からなかった。長年働き続け、成績も積み上げ人間関係はイマイチだったが、それなりにやれる仕事はやってきた。それなのに…。
気づけば仲間達のことも忘れ、息を荒くしながら無我夢中で走っていた。自分が泣いているのか笑っているのかすらも分からなかった。
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「…あら?柊真さん、仕事クビになったんじゃなかったの?」
「なったらしいのだけれど、今日も来ているのよね…独り言多いし、ほんっと気味が悪いわ。」
「誰もいないのに誰かと会話してるような口ぶりで、居酒屋に行ってもビールを四つ注文しているらしいわよ。」
「怖いわぁ…一体何を見ているのかしら?」
「俗に言う、イマジナリーフレンドってやつかしらね。」
そう話す社員達の視線の先には、誰もいない空間に向かって、光のない笑顔で喋っている柊真の姿があった。
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