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「そうじゃありませんっ。一緒に二人でクリニックに行って検査を…」
なんとか軌道修正を試みた。
「ふざけるなっ!! 気分悪いっ。飯はもういいっ!!」
不機嫌をまき散らし、美晴を怒鳴りつけて幹雄は家を出て行ってしまった。勇気を振り絞って訴えたのに、話し合いもさせてもらえない。仕方なく朝食を下げ、洗い物をする。
(どうして話を聞いてくれないの?)
勢いよく流れ落ちる水を止め、再びスポンジでゴシゴシと汚れをこする。日常的に使っているとフライパンの底がどうしても焦げてくる。そのコゲを必死に落とす。綺麗じゃないと認めてもらえない。愛してもらえない――なにかに取り憑かれたように美晴はフライパンをこすっていると、その手の上に溢れた涙が零れ落ちた。
綺麗になったフライパンを片づけ、ベッドルームを整えて洗濯をする。毎日同じことの繰り返しで、まったく面白味のない人生を歩んでいた。しかし、この人生を辞めるわけにはいかない。行く当てのない美晴は、松本家で世話になり続けるしかないのだ。
夫と二人暮らしの広い自宅マンションを丁寧に掃除している最中だった。突然、インターフォンが連打された。応対しようとモニターを見ると、鬼の形相をした義母だった。彼女が家に突撃してきたのだ。これは二時間は帰らないだろう。午前中の家事はもうできない。
「ちょっと、美晴さんッ!!」
部屋に招き入れた途端、義母の和子(かずこ)は美晴の顔に唾を飛ばす勢いでまくしたてた。
「あなた幹雄ちゃんに『子供ができないのはあなたのせい』って言ったんですって!?」
どうやら義母に湾曲して今朝の話が伝わっているようだ。早速幹雄が義母に告げ口をしたのだろう。
「誤解です! そんなこと言っていません!」
「おだまりッ。あんたみたいな孤児を引き取ってやったのに、そんな暴言を吐かれるなんて心外よぉッ!!」
だから結婚は反対だったのよ、と怒りに任せて酷い言葉の暴力を美晴に対して浴びせてくる。「そんなつもりはない」と何度も説明するが、和子には届かない。
「次、幹雄ちゃんにそんなことを言ったら、ただじゃおかないよッ!!」
義母は言いたいことだけ言って去っていった。今日は一時間で済んだのでまだいい方だったが、心労で動悸が激しくなり、午前中は使い物にならなかった。
それでも夫のために買い物に行き、食事を作ってじっと息を潜めて待たなければならない。夜まで夫のための食事作りに精を出し、風呂を沸かし、帰宅を待つだけの毎日。ここに子供がいてくれたら、もっと幸せになれるのに、と美晴は信じていた。
だから、罵られるのも自分のせいだと思っていた。子供ができないのは、自分自身に問題があるのだ、と――