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猫塚ルイ

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彼は、ゆっくりと顔を上げて、母を見た。
「賭けに負けたら、賭けたお詫びに毎日寝る前に生まれてきた彼にキスをします。毎日、愛してると言います」
負けることはありませんが、と彼は言う。
「良いでしょう」
母との勝負はその一瞬だった。
「私が負けたら、彼女の七五三には特注の着物を用意しましょう」
ツンツンそう言うと、席を立った。
美鈴に『10分後に練習を再開しますよ』と伝えて。
呆然とする私とデイビットさんに、美鈴がクスクスと笑いだす。
「七五三って。お母さん、そんな先まで考えてるんだ」
あんなに興味ないふりしてと、とうとうお腹を抱えて笑いだす。
私も、これは許しを得たのだとやっと理解して、へなへなと身体中から力が抜けていった。
「美麗、着いてきて」
デイビットさんは笑わず、私に手を差し出すと歩き出す。
その後ろを美鈴も着いてきた。
月が、齧られたように欠けて浮かぶ夜だった。
私の泣き場所だった桜の木の下で、母が袖で目元を拭いていた。
月明かりでしか見えなかったけど。
母のその姿を見て、自分がどれだけ不幸だと嘆き周りが見えていなかったのだと分かったか。
あの場所は私の泣き場所だ。
じゃあ、私に泣き場所を奪われていた母は、何処で泣いていたのだろうか。
父が居なくなっても、一人で頑張っていた母に、私は自分の不満しかぶつけてこなかった。
今、月明かりの下泣いている母を、母を一人の女性だとやっと今、見れた。
やっと今、理解できた。
10分で日常へ戻るために、静かに泣く母の背中は凛々しくて、そしていて儚げで。
靴も履かず、私と美鈴は庭へ降り立つと、そのまま母の背中へ抱きついた。
「泣くなら一緒に泣きましょう」
私がそう言うと、母は振り返らなかったけど、代わりに美鈴が母の背中に顔を押し付けて泣いた。
すれ違っていた時間の分だけ泣いて、涙で潤せばいい。
月が隠してくれるから。