テラーノベル
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リビングには、乾いた金属音が響いていた。
――カチャリ。
チャンスはソファにもたれながら、愛用のフリントロック式ピストルを弄んでいる。
ランプの灯りに銃身を透かし、左右の手でくるくる持ち替える。
両手利きの彼にとって、それは武器というより手癖みたいなものだった。
引き金を引く真似。
回転。
また構える。
まるで退屈しのぎのダンスだ。
「古臭い銃だろ?」
チャンスは笑う。
高級スーツの袖を少しだけ捲り、銃口を天井へ向けた。
「でも好きなんだよ。撃つまでの間が長い」
サングラス越しの目が細くなる。
「待たされるゲームほど、燃えるからな」
毒親みたいな両親。
監視されるだけの豪華な人生。
そんな檻から逃げ出した彼にとって、この旧式拳銃は“自由”そのものだった。
命が近くにある感覚。
いつでも壊せる緊張感。
それがたまらなく好きだった。
「随分と危ない玩具だね」
声が落ちてきた。
気づけば、iTrappedがすぐ後ろに立っていた。
黄色い髪。
青いシャツ。
黄緑のパンツ。
そして、氷の王冠。
その冷光だけで、部屋の温度が数度下がったみたいだった。
iTrappedは静かに近づく。
足音すらほとんどない。
次の瞬間、背中へ冷たい感触が重なった。
「あ……?」
チャンスの身体がわずかに強張る。
iTrappedが後ろから密着していた。
冷え切った胸板。
細い腕。
逃がさないみたいに肩越しへ回る手。
その指先が、銃を握るチャンスの手へ重なる。
ひやり、とした感触。
氷の王冠の棘が頬の近くをかすめ、冷気が肌を痺れさせた。
「フリントロック式か」
iTrappedの声は耳元で甘く響く。
「一発ごとに隙ができる。無謀な君にはぴったりだ」
愛を囁くみたいな声色。
なのに、手だけは容赦なく力を込めていた。
チャンスの指を掴み、強制的に引き金へ添わせる。
ゆっくり。
じわじわ。
圧力がかかっていく。
「ねぇ、チャンス」
囁きが落ちる。
「もし僕が“撃て”って言ったら、君は従う?」
冷たい吐息。
「自分の頭を撃ち抜く?」
少し間を置く。
「それとも、ドン・ソネリーノの胸にこの一発を叩き込む?」
空気が止まる。
残酷な問いだった。
けれどiTrappedにとっては、ただの確認作業に過ぎない。
どこまで従うのか。
どこまで壊せるのか。
Banlandsへ辿り着くためには、チャンスを“使える駒”にしなければならない。
Ellernate。
Caleb244。
そのためなら、この男の命だって道具だ。
iTrappedの心臓は驚くほど静かだった。
熱なんてない。
これは脅しでも愛でもない。
ただの性能テスト。
けれど――
チャンスは震えていた。
恐怖じゃない。
歓喜で。
背中から伝わる氷みたいな体温。
引き金へかかる圧力。
すぐ隣にある死の気配。
全部がたまらなかった。
この男は、自分を守る気なんてない。
優しさのフリすら捨てて、暴力で支配しようとしている。
その冷酷さが、チャンスには最高のスリルだった。
「ッ……ハハ」
笑いが漏れる。
「いいぜ」
サングラスを指で跳ね上げる。
覗いた瞳は、完全にイカれていた。
「あんたが撃てって言うなら、どっちにでも撃ってやるよ」
自分からさらに指へ力を込める。
引き金が軋む。
「でもな、ペテン師」
首だけで振り返る。
至近距離でiTrappedを睨み返した。
「最後にこの銃口が誰へ向くか――」
笑う。
危険すぎる笑みだった。
「あんた、その氷の王冠賭ける覚悟あるか?」
二人の距離はゼロだった。
支配しようとする手。
支配されながら笑う男。
どちらも正常じゃない。
けれど、その狂い方だけは綺麗に噛み合っていた。
暗い部屋の中で重なる影は、まるで死の縁で踊るワルツみたいだった。
友情も信頼もない。
あるのは、互いの首へゆっくり刃を当てながら笑い合うような――危険すぎるゲームだけだった。
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(ゝω・) ねこウサギ
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