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#溺愛
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絡み合う指先。
ベットに一緒に沈んでいく身体。
愛しくて愛しくて胸が痛かった。
動けない。
カーテンもない窓からは朝の日差しが目も開けられないぐらい入ってくる。
動けないのは腰が痛いからではなく、いやそれもあるんだけれど、
足を動かしただけで、シーツにスルスルと肌が当たってなんだが現実に戻されてしまう。
服だってぽいぽい脱ぎ散らかしちゃったし。
それに。
「…………」
腕枕なんて初めてされた。
うわー!
きゃーきゃー!!
内心ではこの状況にじたばたしたいのに、
恥ずかしすぎて動けない。
硬い部長の腕、暖かくて離れたくないな。
チラッと部長の方を向くと、意外と長い睫毛が微かに揺れている。
垂れ目がちな目が閉じると、なんだか可愛い。
恐る恐る手を伸ばして目尻を触ろうとして、
パクっ
目もとに到着する前に、部長の口に食べられてしまった。
「部長!」
「起きてたんですけど、ずっと」
ばーか、と笑うと軽く頬に口づけされた。
「飲み物買ってきたから飲む?」
「え!?」
「お前を起こさないように、腕を一回引き抜いてシャワー浴びた」
そう言えば部長の前髪は濡れて全部降りてるのにやっと今気づいた。
「ほら」
ベットサイドからお茶を取ると、渡された。
まだ冷たいペットボトルからぽたぽたと水滴が落ちてくる。
「ほらシーツを頭まで被っとけよ。朝から俺がまたオオカミになるぞー」
「なっ何言ってるんですか!!」
やっぱ上機嫌な部長は優しく私の髪を撫でる。
……どうしよう。空気が甘くて息苦しい。
「それにしても昨日の終電事件はみなみの平手打ちで済んで良かった。弟くんが怒ってきてたら、俺も前歯ぐらいやられてたよ」
クルクルと人の髪を指先で巻きながら、何を言うんだと思いつつも直視できない。
「最初に別府駅でみなみが迎えに来た日も、すっげ殺気で睨んでたからなぁ」
「あ、部長が侑哉を追い返した日ですよね」
すんなりと侑哉が帰って行ったから不思議だったんだ。確か。
「『お前の姉さんは自分で喋る口があるぞ』って威嚇してやっただけだけど、な」
わ。
部長には侑哉が私の代弁者なのはお見通しだったんだね。
さすがというか、部長には敵わないというか。
「弟はもうあんな過保護じゃないですよ」
「ああ。偉い偉い」
頭をポンポンしてくる部長の機嫌の良さがなんか甘ったるい。
というかポンポンされるの好きです。
「あーあ……。福岡と大分って近いようで遠いですよね」
この手が、この唇が、すぐに駆け付けてくれるわけではなくなるんだ。
私も真くんと一緒に大分で部長を待つ身なんだ。
「あー……。あのさ、嘘なんだよな」
「嘘?」
ブルブルと濡れた頭を降りながら部長が言う。
「こんな1週間以上もうちの会社が有給使わせてくれるわけねーだろ?」
煙草を手に取った部長は何を思ったのかそのまま、ゴミ箱に投げ捨てた。
「仕事、辞めた」
「ええ!?」
今なんと!?
只でさえ部長は営業部でもモテモテだったから企画部でもモテて私は不安にちょっぴりはなるかなって思ってたし。
「ホテルの経営の方に回ろうかなって。まぁ要するに家を継ぐ予定」
煙草を捨てたせいで口が寂しい部長は、私の手をとると指を口に含み始めた。
いや、煙草吸ってもいいから食べるの止めてー……。
って。
「つまり大分に帰ってくるんですか!?」
「そ。そのつもり。真には金曜に伝える予定だったんだが色々順番が狂ってさ」
真くんに大事な話って言ってたのはこの事だったんだ。
ずるい。部長。
色々とさらりとやってのけて。
そうだよね。2週間以上もあの会社が有給使わせてくれるわけないよね……。
「だから、ちゃんと傍にいてやるからな、みなみ」
手の甲に口づけするとニヤリと笑う。
し、仕事中の怖い部長しか知らなかったから、なんかこんな情熱的な部長、ペースが狂っちゃう。
「あと、俺はお前を支えたいとは思うが検査結果が出て、治療が辛そうなら無理させたくないとも思ってるから」
「……はい」
その言葉だけで嬉しい。
「俺も煙草辞めるし」
「え!?」
「副流煙も悪いって聞いたんだよ。辞める。……結果次第だけど」
だからって人の指を舐めるのはどうかと。
しかも部長ってヘビースモーカーだから辞めるの難しそう。
「みなみも俺選んでいいのか? 一応子持ちみたいなもんだけど、俺」
そう飄々と言う部長をついぽかんと見つめてしまう。
こんな仲になっておいて今更何を確認してるんだろう。
「くっ。お前は気持ちを飲み込むから言わせたいんだよ、馬鹿」
「…………」
なるほど。
もう私には代弁者も居ないんだし、そうだよね。
「私は、部長でいいか、じゃなく水樹さんが良いです」
そうどんな顔をして言っていいか分からず、 ぎゅっと目を瞑る。
「……やっべ」
ガバッと布団の中を潜り込むと、腕枕していた腕を抜く。
「可愛い」
「あの、部長、なんか目がギラギラしてます」
今にも飛びかかって来そうで怖い。
「可愛いことを言う、みなみが悪い」
そう言って、なんで服を脱ぎ始めるんですか!?
ボタンを留めていなかったシャツを器用にぬぐと、窓から差し込む光が部長をはっきり映し出す。
慌てて枕でガードしたけど無理!
真っ暗な夜ならなんとか見れてたけど、こんな明るい下で部長を直視なんてできないよ。
「ちょっとヤバイから来いってば」
「私の方がヤバイですって!」
部長の何がヤバイのか分かりたくもないけど、
こんな明るい部屋でいちゃいちゃは無理!
枕でガードして、シーツを体に巻き付けながらベットの上を逃げ回る。
でも壁際に追い詰められた時、部長が優しく私の顎を持ち上げて、ゆっくり唇をなぞった。
観念してぎゅっと閉じた瞼にも、部長は唇を這わせる。
ベットが軋み、部長の体重をゆっくり感じながら、ずるずると壁を背にベットへ落ちていく。
ピンボーン
そんな甘い時間を引き裂いてくれたのは呼び出し音。
「ああ。来た」
気分を削がれた部長が明らかにテンションを落としながら、インターホンの受話器を取りに立ち上がる。
「今開けますねー。よろしくお願いします」
フッといつもの甘い営業スマイルを浮かべて、オートロックの解除ボタンを押した。
押した……?
「部長! 私まだ服着てません!」
「ああ。急げ急げっ」
ガチャカチャと部長はベルトを締め出す。
自分は上を脱いだだけだから簡単なんだからずるい!
そう思いつつ急いで脱ぎ散らかした服を着ていく。
部長もボタンを留め終えてシーツを剥がし始める。
バタバタ慌ただしくて、最後までロマンチックにはさせてくれなかったけれど。
それでも私の心は満たされていた。
明るくて爽やかな風が窓から射し込み、私の心に吹き抜けた。
返事はもう要りません。
神様なんて居ないけれど、ありがとうしか思い浮かばないぐらい幸せに包まれている。
なんとか着替え終わった私の頭を撫でて、唇に軽くキスすると、タイミングよく玄関のインターホンが鳴った。
fIN