⚠️旧国 ここでの日本くんはご長寿設定です。
木目の間に、ホコリが積もっている。
横着して足で退けようとしたゴミ袋にバランスを崩されたけれど、踏ん張るのも億劫なので、重力のままソファへ倒れ込んだ。
空腹を主張するお腹と不調を訴える頭を天秤にかけ、薬の抜け殻の隣に並んだ、鈍く光る冷たさを胸に抱いて布団をかぶる。
そのまま暗闇に浸っていると、不意に耳が小さな音を捉えた。
ざく、ざく。
そういえば今日は雪が降っていた。
手元の鉄を引き寄せて、早く体温が伝わるように抱きしめる。
ざく、ざく、ざく、ざく。
やわらかな白を踏み締める音が明瞭になっている。
そう気付いた直後、控えめに戸が叩かれた。
「いるか、日本。」
耳朶に降り積もるように深い、静かな声音。
あぁ、やっと彼が温まってきた。
そんなことを考えていたせいで、誰かが訪ねてきたのだと認識するのが随分遅れてしまった。
「どちらさま……。」
彼とは暫しのお別れ。
ソファに体温が移った黒を残して、戸を開ける。
道灯りに目が慣れた頃に視線を上げると、そこには背の高い男が立っていた。
マフラーに顔を埋め、肩には雪を侍らせている。
「……ソ連さん。」
こんばんは、と添えたが返事はない。
相手の金の瞳は、どうやら自分の奥…室内に向けられているようだった。
床のホコリ、置きっ放しの湯呑み、散乱した本、ベッドのように改造されたソファ。
全てを一瞥すると、ソ連さんはため息を吐いた。
「お前、よく生きてんな。」
何も返せないでいると、大きな手が伸びてきた。
軽く横に押しのけられ、ズカズカと家に入り込まれる。
不法侵入者でも靴を脱ぐ程度のマナーは知っているようだ。
「戦後復興だとか言って死に物狂いで会社詰めてるくせに、家はこれか。」
これ消費期限切れてるぞ、と呆れ顔でゴミ箱に冷蔵庫の中身が落とされる。
寒い、と電気のついでに暖房までつけられた。
「……私、もう寝るので。玄関はあちらです。」
アメリカさんにバレたら怒られる、なんてことはぼんやりした頭でもわかる。
しかし何が気に入らないのか、目の前の大国様は首を振った。
「お前どうせ寝て……違うか。寝れねぇんだろ。」
「薬とお酒ならあります。」
それだけ伝えて布団に手をかける。
あぁ、彼はきっとすっかり冷たくなっているだろう。
また抱きしめないと。
「……おい。」
次の瞬間にはソ連さんの顔が目の前にあった。
足の分だけ一歩が大きい。
「……返して。」
寝かせてあった彼を取り上げられた。
検分されるそれに伸ばした腕を掴まれ、潜められた凛々しい眉が目に入る。
「お前、何で銃なんか持ってんだ。」
「返して!」
振り払おうとしたが、ろくに食事もとっていない身体で力勝負に勝てるはずもなく。
返せと繰り返す僕をよそに、照明に照り返った『Walther』の文字がソ連さんの瞳に映り込んでしまった。
「こんな物抱いて寝てんのか。」
弾は、と低く唸るように詰められる。
首を振ると安堵の色がソ連さんの顔に広がった。
宙をかく手に、ようやく彼の重みが戻ってきた。
胸元に埋め込むようにぎゅっと抱きしめる。
「……この人がいないと、眠れなくて。」
そんな言葉と同時に床にへたり込むと、小さくホコリが舞った。
ソ連さんは奇妙なものを見る目でこちらをみつめている。
そのまま沈黙に身を委ねていると、彼にぬくもりが戻ってきた。
徐々に瞼が降りてくる。
今日は会えるかな。
そんなことを考えて閉じた瞳を、頬に何かが触れる感触で再び開く。
「……あいつとは、昔馴染みだった。」
不意に溢された言葉。
遥か遠くをみつめる視線が、自分の手元に注がれている。
「……俺なら、あいつそっくりに抱いてやれる。」
あいつ、が誰を示すのかを解してピクリと指が反応した。
ソ連さんは何かを迷うように目を閉じながらそう言った。
「日本。」
冬の空気のように冷たく、けれども確かに熱を帯びた声。
こちらを見遣る瞳はやはり金色で、頬を撫でる手はすっぽりと顔を隠されてしまいそうなほど大きい。
それでも。
それでもこの手つきは、目つきは、声音は。
「……ナチス、さん?」
次の瞬間、ソファに引き寄せられた。
「どうせあいつ、強引だったんだろ?あぁ、でも丁寧に扱われてたか?気に入ったものは徹底的に支配したがるもんな、あいつ。」
そのまま組み敷かれ、解いたマフラーで手を縛られる。
「久々に遊ぼうじゃないか。なぁ、日本?」
違う。でも、彼だ。
落とされた一言に、網膜がガーネットの虚像を結んだ。
(続?)
コメント
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やばい好きすぎる❤️❤️❤️❤️もうなんか設定と雰囲気がどストライクっすわ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 続きを全裸待機!!!!!!!!