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「兄ちゃん…どうするの?」
サーフィーが言う。
俺が先生の方を向くと先生は冷や汗をかいていた。
「…すまん。考えさせてくれ。」
先生が顔に手を当て椅子に座ってしまった。
するとサーフィーが俺に近づく。
「クルルは、どうすべきだと思う?」
緑色の瞳で俺を真っ直ぐに見て言った。
瞳には混乱する俺の顔が映っている。
「お、俺は生かしてやりたいけど…。」
「けど?」
「…魔物だから生かしたら俺等が危険にさらされる。」
俺が言うとサーフィーは頷いた。
「そこが原因だよ。魔物の胎児なんぞ何するか分からない。」
「けど俺も危険だけど生かしてあげたい。」
サーフィーも俺と意見が同じだった。
ただ、危険だということが今後の判断に関わる。
「……育てよう。」
先生が立ち上がって言った。
「?!」
「先生、本当にやるのですか?」
「やる。」
「危険じゃないですか?」
「危険だが、愛情を注げば懐くはずだ。」
「…まぁ、これは賭けなのだがな。」
「賭け…ですか。」
「兄ちゃんも踏み切るね。」
サーフィーが『やれやれ』と親の魔物に近づく。
それに俺も急いで手術道具を準備した。
「親の魔物の緊急手術を行う。クルル、骨メス。」
「はい。」
先生は骨部分から手術を始めた。
「ペアン」
「はい」
「メッツェン」
「はい」
先生のスピードは、いつもより早く正確だった。
魔物の体は生物の中でも強いが
体の中は弱いのだ。
薬で倒せたとしても、一週間ほどすれば毒素が消え始める。
とどめを刺せば勿論倒れてしまうのだがな。
「メーヨ剪刀」
「はい」
「クーパー剪刀」
「はい」
ギッギッ…
嫌な音を立てながら
クッパー剪刀で壊死した魔物の皮膚を切る。
俺はそれにフラつきながら手術道具を漁った。
「…大丈夫か?」
先生が言う。俺は慌てて返した。
「いや、大丈夫ですよ!全然!」
笑って言うと先生が複雑な顔をして言った。
「そうか?辛かったら言えよ。」
「は、はい。」
先生の優しさに恐怖心も薄れた。
「ボトックス注射液」
「あ、はい」
「…」
「よし。これでリハビリをさせたら後に治る。」
「縫合」
サッサッサッと魔物の腹部を縫いながら
先生が服についた血を払う。
横目でサーフィーを見るとサーフィーは
様子を細かく絵に残していた。
「色鉛筆はないからデッサンだけどね。」
サーフィーが鉛筆を持って笑う。
「細かくて上手いじゃないか。デッサンで充分。」
そう返事し、ペストマスクを外してもう一度絵を見ると
やはり丁寧で絵巻物のように流れがわかりやすく
使用した道具から臓器の形まで精細に描き込まれていた。