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私には常識しか通用しません

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私には常識しか通用しません

157 - 第157話・はじめての つうしん

♥

25

2025年12月27日

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「しかし、本当にいいのか?

あの『丸飲み』―――

お前らが倒したようなモンなんだし」


「肉の買い付けはして頂いたので、こちらは

一部で構いませんよ。

50kgも持って行けば十分でしょう。


それに、元はと言えばワイバーン騎士隊の訓練で

発見したようなものですから……

彼らが一番食べる権利があると思います」


ウィンベル王国、王都・フォルロワ。

そこの冒険者ギルド本部・応接室。


あのペリカンのような化け物を『無効化』で

倒し―――

ワイバーン四体で獲物を王都まで運んでもらった。


そこでライさんは私たちに所有権があり、

公都まで持ち帰ったらどうかと提案して

くれたのだが、


さすがに全部持ち帰るのは多過ぎるのと、

ひき肉にすれば大勢に配る事が出来るのは

エンペラー・ゲイターで実証済み。


なので肉の一部と、パック夫妻に少量の

研究用素材を持ち帰り……

残りは王都で消費して欲しいと頼んだのである。


そしてその優先権はワイバーン騎士隊であり―――


「あ、シンさん!」


「今回はご迷惑をおかけしました~」


そこへ、白に近いシルバーヘアーをした

12・3才くらいの少年と、


肩上まで伸ばしたブラウンの髪を揺らしながら、

20代半ばの女性が入って来た。


ニコル・グレイス伯爵様と……

アリス・ドーン伯爵令嬢。

お互いに婚約者のカップルだ。


「それとすっごく美味しかったです!

あのタツタアゲ? カラアゲ? を乗せた

丼料理―――」


「マヨネーズとタルタルソースをかけると

もうたまらなくて……

相変わらずシン殿の料理は絶品です!」


あの巨大ペリカンを解体してもらった後、

ワイバーン騎士隊のため、私自ら腕を振るう

事にし、


唐揚げ丼・竜田揚げ丼を調理。

それを騎士隊まで持っていってもらう事に

したのである。


「そう言って頂けると、作った甲斐かいがあります。


そういえばライさん、鳥の養殖は上手く

いっているようですけど……

魚の方はどうなってます?」


魔物鳥『プルラン』の肉を融通してもらったが、

魚の話は無かったなあ、と思い……

彼に話を振ると、


「そっちも順調だと聞いている。

魚類の保存用施設を増設したってよ。


今、この王都じゃ平民でも―――

肉や魚、卵が3日に一回は口に入ると

言われているんだ。


く、くく……」


と、そこまで話したところでライさんが

苦しそうに頭を下げる。


体の具合でも悪くなったのかと、心配して

彼に近寄るが、


「くく……匂いがこっちまで来やがる!

くそお、もう限界だ!

俺も食うぞ!」


あー……

さっきまで私も調理してたもんな。

そこへ料理を食べたばかりの二人が来て―――


匂いの暴力に抗えず、本部長が部屋を出て行き、


「えーと、じゃあニコル様、アリス様。

騎士隊への運搬、お願いしますね」


「はい!」


「お任せくださいっ!」


私は二人に一礼すると、ライさんの後を追い……

食堂へと直行した。




「おー、シン!」


「話は終わったかの?」


「ピュ~ウ~」


食堂へ着くと、メル・アルテリーゼ・ラッチの

三人が、料理を頬張りながら待ち構えていた。


「うまっ! めちゃくちゃうまっ!!」


「『万能冒険者』の料理が食えるとは―――

いい時に本部にいたぜぇ♪」


あのペリカン丼は好評なようで何より。

気になるのは女性冒険者が心無しか多い

ようだが。


「ラッチ~♪」


「はい、あ~ん♪」


そこへ女性職員であるサシャさんと

ジェレミエルさんが、子供のドラゴンへと

直行して来て、


「ピュピュ~♪」


ラッチは二人から差し出された唐揚げ・

竜田揚げを、喜んで頬張った。


「しかし、今度は『丸飲み』を退治されるとは」


「まあ、シンさんに会ったのが運の尽き

でしょうねえ」


二人はラッチの口に食べ物を運びながら、

今回の感想を述べ、


「ワイバーン騎士隊でも対応出来たと思いますが、

火球攻撃が許可されて無かったらしいんですよ。


火事の恐れがあったからでしょうが……

倒すだけなら、彼らで問題は無かったでしょう」


いくら高い機動力と遠距離攻撃を持つとはいえ、

それを好き勝手に使えるかどうかは別だ。


特にヒミコ様率いるワイバーンたちは、

なるべく地上では火球を使わなかったと

聞いているし。


「そういえば、公都にアレは届きました?」


金髪ロングの幼顔の女性が不意に質問してきて、


「?? アレとは?」


「もしかしたら行き違いになったのかも

知れませんね。


シンさんが王家直属の開発部門に、

注文していたもので―――」


私の聞き返しに、今度は眼鏡をかけた秘書ふうの

黒髪の女性が答える。


「ああ、完成したんですか」


それを、同じ黒髪の―――

和風・洋風の顔立ちの妻二人が顔を見合わせ、


「何? 何なの?」


「以前、王都に『炊飯魔導具』を発注して

おったが……

また何か作らせていたのか?」


「ピュ~?」


家族の質問に、私はやや視線を上げて、


「いや、魔導具には違いないけど―――

『炊飯魔導具』ほどのものじゃないよ。


公都の子供たちに相談されていたから、

それでちょっとね」


「オモチャ?」


メルの言葉に私はうなり、


「う~ん。

まあオモチャみたいなもの、かな?


どっちにしろ公都に行けば見られるだろうから、

その時に説明するよ」


こうしてペリカン丼を調理した後―――

私たちは公都『ヤマト』へ帰還する事となった。




「『丸飲み』を撃破、っと……


おう、この書類はあっちにしまってくれ」


「わかりましたー」


公都に戻ると、まず私は冒険者ギルド支部を

訪れ―――

あの巨大ペリカン討伐を報告。


ジャンさんが書類に何か記入していき、

それをミリアさんが慣れた手付きで受け取る。


「しかし、王都に相談に乗りに出掛けたら、

ついでに過去の王家の封印解除、そして

魔物の討伐か。


相変わらずお前は忙しいなあ」


「わざとやっているわけじゃありませんからね!?


ていうか、あの魔物の名称ってそれで

いいんですか?」


私の質問に、アラフィフの筋肉質の男は

片眉を上げて、


「目撃情報は多いが、正式な記録は少ねぇからな。

ましてや討伐報告なんて今回が初めてだ。


シンの世界じゃ、あんなのがウヨウヨ

いたってのか?」


「あれほど巨大なものはいませんでしたけど、

珍しいというほどでは。


大きさもだいたいこれくらいで……」


私は手の平を下にして胸くらいまでで固定し、

その大きさを表現する。


「それくらいですか。

魔物鳥『プルラン』よりちょっと大きい程度?」


ミリアさんが丸眼鏡をかけ直して、その

ライトグリーンのショートヘアーをかきあげ、


「そういや、奥さんたちは?

一緒に帰って来たんスよね?」


妻の後に、褐色肌の黒髪の青年、次期ギルド長の

レイド君が続く。


「メルは『丸飲み』の研究素材を渡しに、

パック夫妻の家に―――


アルテリーゼは、お肉の運搬を手伝って

います」


「いつもすまねえな。


しかし、王都でも魔物鳥『プルラン』の

養殖が始まっていたとは聞いていたが、

もう食えるまでになってんのか」


ギルド長が感慨かんがい深そうに息を吐く。


ライさんを通して、王族に直で話が通っている

ものなあ。

予算も計画の速度も桁違いで進むのだろう。


「王都で出回って、買い付けが出来るって

事は……

かなりの量になっているって事ッスよね?」


「ええ。

上空から養殖施設を見ましたけど―――


下手をすると東の村くらいの規模で

やっています。

そんな施設が複数あるわけですから」


高い石壁で円形に囲んだ施設は、かなりの

広さがあった。

恐らく一ヶ所あたり、数万羽はいるだろう。


「あ、そうだ!

シンさん、王都から魔導具が届いて

いるんですけど―――」


そう言ってミリアさんは、部屋の片隅に

置いてあった木箱を開ける。


中から取り出したのは、短い棒のような物で、


「おう、それ俺も見たが何なんだ?

武器じゃねえよな?」


「魔導具ッスよね?

意図がわからなくて」


現ギルド長と次期ギルド長が疑問を口にし、

私はそれを受け取る。


「これは、このスイッチを押すと……」


カチ、という音と共に―――

ゴムで覆われた先端がブーン、と振動し始める。


「じゃあミリアさん、ちょっといいですか?」


「はい?」


彼女に座ってもらうよう促し……

それを作動させたまま肩にあてがうと、


「うひゃうっ!?」


当てられた瞬間奇妙な声を上げたが、やがて……


「う……っはぁ~……

こ、これ効きますぅ~……


肩と首が溶けるぅう~」


ミリアさんがトロンとした表情になり、

私は魔導具を夫であるレイド君に渡して、

交代する。


「何だ、そりゃあ?」


「私の世界の物です。

ハンドマッサージャーって言うんですけど。


細かく振動させて、体のいろいろな部分の

コリを取るものです」


と、今度はジャンさんを座るように促し、

ミリアさんと同じように魔導具を肩に当てる。


「うっはあぁ……!

き、効くぜこいつぁ……!」


「でしょでしょ!?

あ、何か視界が揺れて面白い~」


父と娘のように、二人はマッサージ機を

堪能し―――


十分後、会話が再開された。




「あー……

『足踏み踊り』のチビどもに頼まれたのか」


「確かにコレなら、アレに勝るとも劣らず

効きそうッスねえ」


ギルド長が両腕を組み、レイド君はその魔導具を

肩に当てながら話す。


「あの足踏み踊りはお客さんの上に乗っかるんで、

大きくなってくると出来なくなるんですよ。


それで悩んでいる子たちがいまして―――

その代わりになる物を、と思って作ったんです」


そう、『足踏み踊り』には体重制限がある。


今はこの公都もうるおい、貧困層も激減したが……

未だに子供たちが重要な収入源の家庭もある。


また、この仕事はいわば子供たちに人気が高く、

いわゆる『花形』であり―――


その需要も上がる事はあっても下がる事はない。


そのため、『足踏み踊り』以外にもマッサージ系の

仕事は無いかと考え……

この魔導具を思いついたのである。


特に初老と言ってもいい年齢のジャンさんと、

事務仕事がメインのミリアさんには効果てきめん

だったようで、


「いやー、でもコイツぁいい!

大浴場で『足踏み踊り』と組み合わせりゃ、

人気が出るだろう!」


「この先端の素材って、あのゴムですよね?

やっぱり体に使うから柔らかいものを?」


ジャンさんの後にミリアさんの問いが来て、


「それもありますが、大浴場で使う事が前提

だったので……

防水効果もあるゴムで作ってもらったんですよ」


「へー、やっぱシンさんが作る物は、

いろいろ考えられているッスねえ」


私の答えに、レイド君がうなずく。


「これ、腰にやっても効くのか?」


ギルド長の質問に、私は魔導具を持ち、


「体のどこやっても効くと思いますけど……

えーと例えば―――

あ、ちょっといいですか?」


「え?」


ミリアさんに、素足になってもらうよう頼み―――

足裏に魔導具を当てると、


聞いた事の無い大声が支部長室内に響き渡った。




「いや本当にすいませんでした。

誠に申し訳ありません」


その日の夕方……

公都・中央区にある大浴場で、私はレイド君と

一緒に湯にかりながら、謝り倒していた。


「い、いやもういいッスよ。

おかげで効果は確認出来ましたし」


「防音魔法がほどこされている部屋で良かったぜ……

じゃなかったら」


湯舟の中からジャンさんが、脱衣所の方向を見る。


『うっがぁああっ!!』

『はひぃいいいいっ!!』

『死ぬ死ぬしぐうぅううううっ!!』


と、脱衣所のさらに向こうから―――

男女の様々な悲鳴が聞こえ、


あの魔導具と、足裏マッサージの被害もとい

効果を伝えていた。


「うわあ……

自分、アレ後でやってもらおうと

思っていますけど―――」


焦げ茶の髪で長身の、レイド君の弟分、

ギル君が緊張した声で語る。


「覚悟はしておけッス。


ただ、耐えた後の気持ち良さは格別だぜ?」


「おお、そうだな……


それにアレやった後、足以外にも体のあちこちが

回復したような感じになったぞ」


ジャンさんもまた、その効能は身をもって理解

したようだ。


足裏マッサージの主目的は―――

コリをほぐす事ではなく、そのツボにある。


内臓や各種器官をツボを刺激する事で

活性化させ、健康促進につなげるのだ。


こうして私は少しの恐怖を抱きながら……

お湯から上がる時間を待った。




「あー、そりゃ災難だったねミリっち。

シンってそーゆーとこあるから……」


「我らの夫がすまぬのう。

後で我とメルっちも怒っておこう」


「ピュ!」


その頃、女湯の方では―――

ミリアが女性陣の中で、受けた被害を報告し……

シンの家族が謝罪していた。


「いえまあ……

突然だったのでビックリしたと言いますか。


あ、痛かったですけど終わった後はすごく

気持ち良かったですので」


彼女は気遣って、気にしないようにと話すが、


『ぎぃええええっ!?』

『いぎぎ!! ぐうー!! ああぁ!!』

『待って待って助けてお願いします!!』


その最中にも、湯舟に惨劇さんげきのような悲鳴が

聞こえ続け―――


「……そんなに痛かったですか? ミリねえ


ルーチェが顔半分まで湯舟に沈め、

ミリアにたずねる。


「一瞬、シンさんを蹴って脱出しようと

思うくらいには……」


「おぅわ」


「シンを相手に、か。

それは相当じゃのう」


それを聞いて周囲も目を丸くする。


いくら温厚な人物で知られているとはいえ、

相手はジャイアント・ボーア殺し他、

いろいろと名の通っている『万能冒険者』である。


メルやアルテリーゼ、ミリアはシンの本当の

正体を知っているのでさほどでは無いが、

他の入浴者は『それほど痛かった』と認識し、


だがそれでも怖いもの見たさゆえか―――

足裏マッサージを頼む者は後を絶たなかった。




「もー、シン!

ミリっちから聞いたよー」


「ちょっとシンは女性に対し、無神経というか

気のかぬ事があるのう」


「ピュウゥ~」


入浴から我が家に帰ると―――

ミリアさんの事を聞いたのか、家族から怒られる。


「うぅ、面目ない」


素直に謝る私に妻たちは、


「まー人助けっていう理由もあったから、

ミリっちも気にしていないって言ってたけど」


「あの魔導具であれば、体重関係無く

使えるからのう」


それでも効果は認めてくれたようで、

ホッと胸をなでおろす。


でも今後はちゃんと注意しないとな……

まだ知り合い・身内みたいなものだったから

良かったけど―――

完全な第三者だったらどうなっていた事か。


「メルとアルテリーゼにも迷惑かけたね。

すまなかった」


「まあ妻として?

陰ながら旦那様を支えるのは当然ですけどね」


「お礼をしてくれるのであれば……

今夜は可愛がってくれると嬉しいのう♪」


妖しげな笑みを浮かべ、胸を押し付けるように

密着してくる妻たち。


そこで私はふと、持ってきて例の魔導具を

取り出し、


「うーん……

じゃあコレ、使ってみようかな」


それを見て、メルとアルテリーゼは首を傾げ、


「?? 体でもほぐすの?」


「まあ確かに気持ち良いものではあったが」


疑問の表情で見つめる彼女たちに、


「使い道というか―――

使い方があるから」


私が答えても、その表情を崩す事は無かったが……


その後、この魔導具が『夜の魔導具』として―――

カップルや夫婦に人気の商品となっていくのだが、

それはまた別のお話。




「ラウラさん」


「おお、シンさんか。

何の用だい?」


ちょうど公都の中央区で彼女を見かけたので、

声をかける。


太い眉が特徴的なその女性は、下半身は蜘蛛の

姿の―――

アラクネという亜人だ。


「ラウラさんの糸、通信用にも使えたんですよ。

ワイバーン騎士隊にも導入されましたので、

そのお礼を、と」


「そうかい?

まあ売った後はどう使われても構わないし、

役に立っているのなら何よりだよ」


そう言ってまたどこかへ行こうとしたのを、

私は呼び止めて、


「えーと、あの。

今日は実験があるから同行してくださいって、

言われていたはずですが……」


そう、私は彼女を探して呼んでくるよう

頼まれていたのだ。


ラウラさんの糸を使った通信―――

それは当然こちら側でも検討され、

とある検証実験が進んでいた。


そして『当事者』である彼女も当然、

現場に呼ばれていたのだが、


「いや勝手に使ってよ。

さっきも言ったけどアタイ、使われ方に

あんまりキョーミ無くてさ」


どうも糸だけ卸せば後はどうでも、という

考えらしい。


ある意味一番面倒の無い相手だが、

亜人や人外との協調路線を進めている今、

そういうわけにもいかず、


「ちょっと顔を見せるだけで結構ですから。

ラウラさんの糸が主役でもありますので……」


「ん~、しょーがないなぁ。

じゃあシンさんの顔を立てて―――

ちょっとだけだよ?」


何とか説得に成功し、来てもらえる事になった。




「あ、シンさん」


「すいません、お手数をおかけして」


私はそのまま、中央地区のあるギルド支部へと

急いで向かい……

そこで技術者らしき担当者の方々と合流する。


その冒険者ギルドの一角―――

やや狭い実験室のようなところで、コップの

形をした機器が並べられ、実験開始の合図を

待っていた。


「おう、シン。

準備は出来ているぜ。


ラウラもまあ―――

時間は取らせないから、ガマンしてくれ」


そこにはこの施設の最高責任者もおり……

不満顔の半人半蜘蛛の亜人を見て、フォローして

くれる。


「何だい、こりゃあ」


赤茶色のストレートな長髪を垂らすように、

その器具をラウラさんがのぞき込む。


すると、外で火魔法が上がったのだろう。

打ち上げ花火のような音が聞こえると、

ギルド長がその機器に向かい、


「あーあー。


こちら公都『ヤマト』中央地区。

西地区聞こえるか、どうぞ」


ジャンさんの言葉の後、少しの沈黙が続き、


『……こちら西地区、パックです。

聞こえます、どうぞ』


『あ、本当にギルド長の声が聞こえますね』


『ロ、ロンです!

本当に中央地区から声を届けられるのか』


それを聞いた技術者たちの表情が変わり、

色めき立つ。


「な、何だいこりゃあ!?」


ラウラさんも驚きの声を上げる。


これはラウラさんの糸を使った通信機で、

単純に公都『ヤマト』の各地区を繋いだもの。




画像




中央から、西側地区・東側地区・また最近

新設された、亜人・人外専用居住区とも

繋げていた。


「あーあー。

こちら中央地区。聞こえますか?

どうぞ」


『はーい! こちら東側地区!』


『おお、本当にシンの声が聞こえるぞ!

どうぞ』


『ピュー!?』


東側からは家族の声が聞こえ、そして、


『マイルです!

声、確認出来ています!』


と、顔なじみのドーン伯爵家の私兵の声も

聞こえてきた。


ちなみに、亜人・人外専用居住区には

レイド夫妻にスタンバイしてもらっている。


遠距離通信の実験なので、飛行能力のある

種族の身内か、レイド君のようなワイバーン

ライダーに協力を求めたのである。

これなら失敗してもすぐに戻って来られるし。


また見届け人として、公都の門番兵長の

ロンさん・マイルさんにも待機してもらっていた。


「で、でも―――

アタイの糸、どこにも張ってなかったと

思うけど?」


ラウラさんの疑問に、技術者たちが振り向き、


「地中に埋めてあるんです」


「ラウラさんの糸は本当に魔力を通しやすい

ですからね。

それに丈夫ですから」


そう。通信網となる糸は電線のように

空中ではなく……

地下三十センチほどのところに、

専用の管に入れて埋めてある。


空中に通しても良かったのだが―――

何せミスリル銀でも切れないシロモノなのだ。


またドラゴン・ワイバーン・ハーピー、魔族、

また各精霊といった飛行能力を有する種族が

多いので、地下に埋めた方が安全だろう、

という結論になったのである。


そして繋がっている最後の地区、

亜人・人外専用居住区にギルド長が語りかける。


「おう、レイド。

どうだ、聞こえるか?」


昔の電話のように、彼が片手の機器を耳に、

もう片手の機器を口に近付けて話すと、


『こちら南側地区!

バッチリ聞こえるッス!』


『ほ、本当にギルド長の声が……!

これってすごい事ですよ!

いずれ王都や他の国と繋がったら……』


向こうからレイド夫妻の返事が返って来たが、


『……え? え? じ、地震!?』


『お、落ち着くッス! ミリア!』


段々と不穏なものとなり、私とラウラさんは

顔を見合わせる。


「どうした!?

レイド、ミリア!


こっちは地震なんか起きてねぇぞ!

おい……おい!?」


『…………』


やがて応答が無くなり―――

ジャンさんは東西の機器に向かって

怒鳴るように大声を上げる。


「緊急事態発生!

南側、亜人・人外専用居住区に何か

異常が発生した模様!!


パック・シャンタル!

それにメル・アルテリーゼは直接

現場へ向かえ!!

俺とシンもすぐに行く!!」


『わかりました!』


『りょー!!』


急に緊迫した状況となり、治安も担当する

ギルド長は即座に指示を出す。


機器を乱暴に置くと、彼は私に向かって、


「よしシン、行くぞ!!


……ってマズいな。

くそ、一度アルテリーゼにこっちに来て

もらった方が良かったか」


ジャンさんが苦虫を噛み潰したような表情になる。


身体強化ブーストを使えない私がいる事を

失念していたようだ。

だが、私に魔力が全く無い事を知っているのは、

ほんの一握りの人間。


例えば彼が私をおんぶでもしていけば、現場には

私が走るより早く着くだろうが……

技術者たちもいる中でそれは厳しい。


かと言って私が『普通』に走れば、

緊急事態なのに何で身体強化を使わないのか、

という事にもなりかねない。


思案を巡らせていると、


「二人ともアタイに乗って。

ただの人間が走るよりは早いはずだよ」


「ラウラさん!?」


「……感謝するぜ。

おし、まずは外に出よう!」


三人で外に飛び出すと―――

私とジャンさんがラウラさんの背につかまり、


それを確認すると、彼女はすごい速度で

走り始めた。




「シンさん、ジャンさん!

見えてきたよ!」


私たちを乗せながら、ラウラさんは声を上げる。


中央地区から三分もしない内に―――

亜人・人外専用居住区が視界に入ってきて、


「……!

すでにドラゴン組は到着しているか。


って何だありゃ?」


遠目に、ドラゴンやワイバーンが急降下して、

何かに直接攻撃を仕掛けているのが見える。


遠距離の火球攻撃を行わないのは、

火事を懸念しての事だろうが、


「オオサンショウウオ……?」


そこには、私の知識の範囲内でいうところの

巨大な両生類がいた。


もっとも、そのサイズは攻撃を仕掛けている

ドラゴンやワイバーンに勝るとも劣らず―――


泥竜ダート・サラマンダーか!

どうしてここに!?」


「危険なヤツですか?


……って、あの巨体で暴れられたら

普通にヤバいですよね」


我ながら間抜けな事を言ったと思っていると、

二人を乗せているラウラさんから、


「じゃあアレの近くを突っ切るから。

シンさん、適当にお願い」


「おう、そうだな」


「もうちょっと具体的な指示でもいいと

思うんですけど」


状況の割にはのどかな言葉が交わされる。

とはいえ、さっさと『無効化』させなければ

ならないだろう。


見たところ―――

ざっとその体長は七・八メートル前後。


地球でも生き物として実在してもおかしくない

サイズだが、両生類としては大き過ぎる。


そして動きが敏捷びんしょう過ぎる。


この前のエンペラーゲイターもそうだったけど、

何しろ重力と四肢のサイズ比を無視した動きを

するからなあ、異世界ここの生き物は。


まあ何にしろ……


「その手足のサイズ比で、そんなに素早く動き……

自重を支える事の出来る両生類など、

・・・・・

あり得ない」


私がそうつぶやくように話すと、


「……!?

ブシュウゥウウッ!?」


泥竜とやらは―――

地面にうつ伏せになって、動かなくなった。


私には常識しか通用しません

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