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「泥竜……
冬眠してやがったのか?
にしても、何でこんなところに」
その巨大なオオサンショウウオのような
死骸を前に、ジャンさんは考え込む。
「『惑い』……ですかね?」
「惑い?」
夫婦で観察していたパックさんが、
ぽつりとつぶやく。
「時々、冬眠したまま起きてこない個体が
いるんですよ。
それにこの泥竜は生命力も強く、再生能力まで
備えている。
このサイズだと、恐らく数年は眠り続けて
いたんじゃないですかね」
そこへ、夫に負けず劣らずの銀髪をした
シャンタルさんも来て、
「しかし、見れば見るほど見た目が……」
「泥竜とはよく言ったものじゃ。
しかし、どうしたものか」
同じドラゴンである私の妻も、その西洋モデルの
ような顔を歪めて巨体を見つめる。
するともう一方の妻が、アジアンチックな細目を
さらに細くして、
「でもアルちゃん。
泥竜ってその見た目に反して、結構美味しいって
話だけど。
ですよね? ギルド長」
呼ばれたアラフィフの男は、その白髪を
かきながら、
「あ~……
確かに、そんな話は聞いちゃいるが。
そういや、シン。
お前コイツを見た時、おおさんしょ?
とか何とか言っていたけどよ。
見た事が?」
不意に話を向けられ―――
それを見ていたレイド夫妻が、
「え……まさかシンさん。
これ食べた事あるッスか?」
「でもコレですよ?
こんなのですよ?」
褐色肌の黒髪の夫と、丸眼鏡の妻が、
揃って震えながら泥竜を指差す。
そしていつの間にか、私に周囲の視線が
集まり―――
期待と怖いもの見たさが入り混じったような
目を向けられる。
確かまだ地球にいた時は、ウーパールーパーの
唐揚げというものがあったけど……
同じ両生類だし、オオサンショウウオも有名な
食通の人が、スッポンとフグの中間のような
味だと書いていたような。
だとすると、相当美味なのだろう。
私は意を決して口を開くと、
「……えーと……
これよりは小さい種類で、私は食べた事は
ありませんが―――
美味しいそうですよ、一応?」
「ええ!?
食えるのかい、こんなの!?」
ラウラさんが即反応し、目を丸くする。
蜘蛛はそれこそ捕まえられるのなら、小動物でも
食べるというけど―――
彼女的にもこれは無いらしい。
そして場がざわめくが、ジャンさんがパンパン!
と手を叩いて、
「まあ後は解体する職人に任せようぜ。
シンにパックさんは……
奥さん連れてギルド支部まで来てくれ。
討伐報告書を作らなきゃならん。
レイドとミリア、お前たちもだ」
それでまずは、アルテリーゼとシャンタルさんに
解体現場まで泥竜を持っていってもらい……
残りの私たちは冒険者ギルド支部へと足を運ぶ
事になった。
「さて、と……」
夕方―――
私はメル、アルテリーゼ、ラッチと一緒に
宿屋『クラン』にいた。
事務処理が終わった後、あの泥竜の出現について
話し合われたが……
その調査は学者であるパック夫妻に一任する
事になり、
こっちはその泥竜の解体された一部を前に、
調理方法に悩んでいた。
「うわぁ、べとべとしてる……」
「本当にこんな物が食べられるのか、シン?」
「ピャウウゥ」
妻たちは元より、ラッチもどこか怯えたような
声を上げ、
「ねえ、本当に大丈夫かい?
シンさんが言うから用意したけど」
そこへ宿屋の女将さん、クレアージュさんも
手に頼んだ荷物を持ってのぞき込む。
「あ、ありがとうございます。
塩はこちらに置いておいてください」
彼女に持って来てもらったのは『塩』。
まずはこのぬめりを何とかしなければならない。
たいてい、こういう場合は―――
塩を使うのが基本だ。
大量の塩を投入し、揉むようにしてぬめりを
取っていく。
その後、メルの水魔法で洗ってもらうと、
「あら、普通のお肉みたいになったわねぇ」
洗い終わったそれを見て、女将さんが感心
したようにつぶやく。
「おぉ、確かに」
「こう見ると、ただの肉の切り身じゃのう」
「ピュー!」
家族も言うように、こうなると皮付きの
鶏肉みたいな感じだ。
「……照り焼きにしてみるか」
醤油はある。みりんもどきも。
メープルシュガーも日本酒もあるので、
理論上は出来るはず。
「テリヤキ??」
「新しい料理?」
「ふむ。我らも覚えるから作ってみてくれ」
と、女性陣が興味津々の目を向け―――
トライしてみる事になった。
「ふむふむ。
両側に焦げ目を付けた後、調味料で浸す
ようにして、焼いていくのかい」
クレアージュさんがメモを取りながら、過程を
記録していき、
「焼くというより、煮るって感じだね」
「後半はそうだのう。
しかしこの匂い……たまらぬ」
「ピュッピュッ!」
一人暮らしが長いのと、ソロアウトドアが
趣味だったせいか―――
ある程度料理経験があったのは、今となっては
有難い。
そして出来上がったそれを人数分に切り分け、
三人とラッチに味見してもらう事にし、
彼女たちの前に差し出すと、
「ほぉお、肉がこんな色になるのかい!」
まず見た目について、クレアージュさんが
驚きの声を上げる。
「か、輝いている……!」
「本当にこれが、あの泥竜の肉かや!?」
「ピュー! ピュウゥー!」
家族も口々に感想を述べ、誰からともなく
それを口に運ぶ。
調理途中で一口味見したから、大丈夫だとは
思うけど……と見ていると、
「これは……!」
「何コレ!?
めっちゃ美味しい!!」
「こ、米……炊き立ての米が欲しいぞ、シン!」
「ピュウウウー!!」
と、女将さんと家族は絶賛し、
その後、泥竜は唐揚げ・天ぷら・フライなどに
姿を変え―――
公都の住人もその味に舌鼓を打った。
「え? 糸が?」
「正確には、糸を通した魔力によって、
でしょうか」
二日ほどして―――
泥竜についての調査結果が出たという事で、
冒険者ギルド支部に呼ばれたのだが、
そこの支部長室で待っていたパック夫妻により、
説明があった。
「公都の中央地区から、西・東・南に、
通信用のラウラさんの糸を埋めたわけですが」
「地中に埋められた糸に魔力を通したところ、
冬眠していた泥竜が目覚めたのでは……
というのがわたくしたちの見解です」
二人の話によると、どうも泥竜が冬眠していた
場所の近くに、ラウラさんの糸を埋めたらしく、
通話する際に流れた魔力が、地中を通して
泥竜を刺激し―――
それで目覚めてしまったのでは、という事だった。
「う~ん……
じゃあ、私にも責任がありそうですね」
『ラウラさんの糸を通信に使えないか』、
そう提案したのは私だし、
そもそも地球と同じ有線通信を実現させようとして
起きた出来事でもある。
すると、それを聞いていたジャンさんが
両腕を組んで、
「そこまで責任感じる事はねぇだろ。
あんなところにあんなものが冬眠している
なんて、誰も知らなかったわけだしよ」
「そうッスよ。
考えようによっちゃ、シンさんがいる時に
目覚めてくれて運が良かったッス!」
「まあ、泥竜に取ってはこの上なく不運
でしたけど」
ギルド長に続いて、次期ギルド長とその妻も
フォローに回ってくれる。
「気にしないでいいですよ。
それに、また興味深い素材が手に入り
ましたし……!」
「そうですよ。
それに泥竜って、文献によると様々な
薬になるらしいんです。
医療関係者としては感謝しかありません!」
パックさんとシャンタルさんが、目を輝かせて
熱く語る。
そういや、元の世界でもサンショウウオって、
漢方薬の材料になると聞いた事がある。
こちらでも貴重な素材という事か。
「まぁなんだ。
それに旨かったしな」
「そうッスね。
それにめっちゃうまかったッス」
「ええ。
それにとても美味しかったですから」
ジャンさん・レイド君・ミリアさんが、
父と息子・娘のように息の合った感想を語り―――
そして私は支部長室を後にした。
「お久しぶりです。
レルク君、ルーナさん」
「やっほー」
「元気だったかのう」
数日後、私はとある屋敷へと呼ばれ、
メルとアルテリーゼを連れて訪問していた。
(ラッチは児童預かり所)
とはいえ、今私たちがいる場所は……
家屋というよりも工場に近く、
「シンさん!」
「お久しぶりです、シンさん。
それに奥様方も」
やや気弱そうな少年……
レルク君は、ここに来た当時の痩せた面影は
すっかりなくなっており、
また、ボーイッシュなショートカットの
ブロンドの少女・ルーナさんも、相変わらず
元気いっぱいのようだ。
二人は、新生『アノーミア』連邦の一国、
マシリア国のとある町にいた、孤児院の
職員である。
ハイ・ローキュストの大群の襲撃の
最前線にあった町で―――
その後、孤児たちと共に公都『ヤマト』へ
留学という形で移住して来ていた。
そして当初、児童預り所の職員として働いて
いたのだが……
魔法適性を改めて調べたところ、レルク君は
オルディラさんと同じ『腐敗』の素質、
つまり食品の発酵を促す事に向いている事が
わかり、
ルーナさんはある程度周囲の気温を上げ下げ
出来る、『気温調整』の使い手である事が判明。
そこで二人とも、魔族が担当する発酵食品の
職場で働く事になったのである。
そう、ここは―――
公都『ヤマト』の西地区の北エリア。
ここに魔王・マギア様を始めとして
魔族の方々の滞在施設があり、
その屋敷は発酵食品を作る工場と
兼用になっていた。
ここに作られたのは、果樹や各種野菜等の
発酵食品を作るためでもあるが、
かつて魔界王フィリシュタさんが、地上と
魔界を繋ぐゲートを出現させた事があり、
そこを通じて、公都―――魔界―――魔族領と
繋がっているので、立地条件としては最適だと
いう事で選ばれた。
「2人とも、ここでの生活には慣れたかな?
連れて来た子たちは元気?」
「はい、それはもう!」
「レルクと一緒の職場で、それも賃金も待遇も
すごく良くて……
シンさんには感謝してもし切れませんよ」
若い男女は笑顔で語る。
「シンさんたちはどうしてここへ?」
「ああ、魔王・マギア様に呼ばれたんだよ。
それでここで君たちが働いているのを
思い出して……
ついでと言っちゃなんだけど、顔見せにね」
そこで妻二人が手土産を渡す。
発酵食品を作る場所なので、クッキーや
アメなどの乾物だ。
「じゃあ、頑張ってね」
「はいっ!」
「ありがとうございます」
そうして私たちはその場を離れ―――
改めて魔王・マギア様の元へと向かった。
「こんにちは、マギア様」
「急に呼び出してすまぬ。
よく来てくれた」
場所を応接室のような部屋に移すと……
薄黄色の巻き毛が特徴的な、見たところ
五・六才の少年が一礼して出迎える。
そしてマギア様の座るソファの後ろに、
女性二名が軍人のように後ろ手で立ち、
「最初、発酵食品の作業場へと行っていた
ようですが……」
褐色肌にシルバーヘアーの、ダークエルフのような
外見の女性―――
オルディラさんが質問して来て、
「ええ、ここでレルク君とルーナさんが
働いていると聞いたもので」
「ああ、あの2人ですか。
特にレルク君は貴重な『腐敗』の使い手
ですからね。
ルーナ君と共に重宝しておりますよ」
次いで、外ハネしたミディアムボブの髪型の、
イスティールさんと言葉を交わす。
「それでマギア様、ご用件とは」
「ああ、それについてはまず余からお詫び
しなければならん」
その言葉に、両隣りに座るメルとアルテリーゼが
反応し、
「?? それはまたどうして?」
「何かやらかしたのか?」
二人のラフな返しに思わず困惑するが、
魔王はそれに構わず、
「うむ、実は……
魔族領・魔界と最恵国待遇を結んだのが、
ユラン国というのは知っているだろうが―――
そこである相談を持ち掛けられ、余と
グラキノスが向かったのだ」
ユラン国……
確か位置的には魔族領の南、チエゴ国との間に
あるとは聞いているけど。
「グラキノスさんという事は、氷関係でしょうか」
「お察しの通りだ。
ユラン国王家の宝物庫があるのだが―――
その中に、代々永久氷で封印された部屋が
あると言われてな」
それを聞いて、ウィンベル王国の首都・
フォルロワであった王家の封印を思い出す。
(■155話 はじめての そつぎょうしき参照)
「今までその封印は誰も解けず……
魔族の力を借りればあるいは、という事で
出向いたのだが……」
魔王軍幹部の一人。
『永氷』のグラキノス……
氷魔法においては恐らく彼の右に出る者はいない。
その彼をして無理だったのか?
そこで魔王・マギア様はその時の事を説明
し始めた。
―――マギア回想中―――
「これは……」
「どうした、グラキノス。
お前が制御出来ぬ氷など無いであろう」
まるで氷漬けになったかのような、透明な
コーティングを施された扉を前に―――
青い短髪の魔族は、眼鏡の中心を指で押さえて
考え込む。
「氷をどうにかするだけなら、自分でも何とか
なりましょうが……
恐らく、数々の魔導具と扉が連動しております。
それにここは北方の国。
氷を維持するための冷気、それを取り込む
魔導具も動作していて―――
一時的に氷を排除しても、他の魔導具も
同時に解除しなければ無意味かと」
それを聞いた王族関係者たちがざわめく。
「ううむ……
我が王家の代々の秘密が、ようやく
解き明かされると思ったのだが」
「すまぬ、アドベク王。
役に立たずに―――」
魔王・マギアの謝罪にユラン国王は慌てて、
「い、いやいや!
どうかお気になさらず。
恐らくはまだ、封印が解ける時ではないと
いう事でしょう」
フォローするアドベク王を前に、グラキノスは
扉から視線を離さず、
「シン殿であれば、あるいは―――」
恐らく無意識につぶやいたその言葉に、
魔王・マギアも同調し、
「そうだな。シン殿なら……」
その言葉を、ユラン国王族に聞かれてしまい、
「シン殿?
も、もしや『万能冒険者』ですか!?」
「え? あ、いや―――」
―――マギア回想終了―――
「……というわけでな。
ついシン殿の名を出してしまったのだ。
一応、話は通してみると約束しただけなので、
断ってもらっても何の問題もない」
そう魔王・マギア様が話してくれるものの……
国家のトップオブトップ同士の話を断る度胸は
私には無く―――
「いえ、今は時間もありますし。
真冬ならともかく暖かくなってきています
からね。
それに『乗客箱』を使えれば、
ひとっ飛びですし」
すると少年の外見の魔王は一礼した後、
「こちらの都合で行ってもらうのだ。
あのゲートを使って頂きたい。
魔界を経由する必要があるが、
魔族領まで一瞬で往来出来るはずだ」
そこで彼の後ろで待機していた二人が、
「では、魔界にはこちらから話を通して
おきます」
「わたくしは、ノイクリフ・グラキノス
両名に通達を」
そこで急遽、私たちはユラン国へ向かう事に
なった。
「いや、さすがは『万能冒険者』殿!
あれほどあっさりと封印が解けるとは……」
「まあ、旦那様ですし」
「我が夫じゃしのう」
「ピュッ!」
数日後―――
私と家族、そしてグラキノスさんは
ユラン国の王宮で歓待を受けていた。
マギア様の手配で魔族領に行った私は、事前に
連絡を受けていたグラキノスさんと合流し、
そのままユラン国へと直行。
封印されていた扉は、ウィンベル王国の時と
同様、あらゆる危険性を考えて、
爆発・毒・呪い等を無効化……
その上で氷部分はグラキノスさんに任せ、
共同作業で何とか、封印を解除する事に
成功したのである。
「いえ、グラキノスさんの力あっての事です。
それが無ければ、ただ内部の魔導具を解除
しただけになっていたでしょう」
「すみません、シン殿。
これで自分も、いえ魔族の面目が立ちます」
それを見た、対面に座る王が口を開き、
「2人とも、謙遜が過ぎるぞ。
ユラン王家代々の、誰にも解けない封印を
解いてくれたのだから。
今はまだ扉の向こうは調査中だが―――
何かわかればお知らせしよう」
手放して王は褒め称える。
いささか気恥ずかしくなった私は、その広い
室内を見渡す。
さすがに一国の王宮。
客を接待する部屋も広大で、護衛であろう
扉の前の騎士たちまで二十メートルは離れて
いるだろうか。
「ああ、兵士たちは気にせずともよい。
ここでの話は他言無用にと命じておる。
もっとも、あそこまで距離があれば、
ほとんど聞こえぬであろうが」
その六十代くらいの、真っ白なヒゲをした
老人は事も無く語る。
ちなみに同盟を組んだ各国の上層部には、
私の秘密、すなわち異世界からの人間で
ある事と―――
魔力や魔法の『無効化』については
共有されている。
だから発言もある程度は、それに触れない
程度のものに落とさなければならない。
ただ今回はグラキノスさんとの共同だったし、
私の『抵抗魔法』も今や有名なので、
そこまで気を使う必要はない、という判断
なのだろう。
私は気を取り直して、
「そういえば、ユラン国は魔族領と最恵国待遇を
結んでおりますが……
ここは何が盛んなのでしょうか」
すると国王は両目を閉じ、
「お恥ずかしい話、これといって力を
入れている産業や特産品は無いのだ。
魚や貝、それに魔物鳥『プルラン』の
養殖を取り入れてから、かなり豊かになって
きておるが。
魔族領への輸出も、食料品が中心だと
聞いておる」
「いえ、我が魔族領はこの国のさらに北方に
位置するので、食料が安定して供給されるのは
とてもありがたい事です」
グラキノスさんがすかさずアドベク王へ
助け船を出す。
基本的にこの世界、食事は必須ではないが……
子供たちには必要である。
それに食生活がいろいろと改善されている今、
需要は間違いなく高いはず。
「食料はどんな物が採れるんですか?」
「我が国は何と言っても芋だな。
それと、土中で育つ野菜も豊富だ。
詳しい事が聞きたければ担当の大臣を呼ぶが」
私は思わず首をブンブンと横に振るが、
「あっさり封印とやらも解いちゃったから、
何か探してみるのも良くない?」
「そうじゃのう。
シン、他国へ行ったらよく料理の素材を
見つけているではないか」
「ピュウ」
そう家族にツッコミをもらい、それもそうかと
考え直す。
確かに変わった調味料とかあるかも知れないし、
ただそれをトップオブトップの上級国民に
たずねるのもなーと思っていただけで……
「シン殿。
自分からもお願い出来ないでしょうか。
魔族領と最恵国待遇関係であるユラン国が
発展するのは、こちらに取っても喜ばしい
事ですので」
片や国王、片や幹部クラスの人にも言われたら
逃げる事も出来ず……
結局私はそれを引き受ける事になり、
ユラン国王との謁見を終えた。
「へえ、これがユラン国で採れる農作物ですか」
「はい。これらは魔族領・魔界へと輸出されている
ものでもあります」
さすがに大臣を呼んでもらうのは辞退し―――
国王の指示で現場の担当者として、
三十代くらいの青年に来てもらった。
そして私たちの前に並べられたのは……
地球でいうところのダイコンやネギ、ニンジン、
ハクサイ、ジャガイモなど……
ユラン国王が『土中で育つ野菜』と言って
いたのは、いわゆる根野菜の事なのだろう。
「ネギがあるのはいいですね」
「ああ、煮ると美味しいですよね」
グラキノスさんも同行し、各種野菜に目を
通していく。
「これ、生でも食べられるんですが」
私の言葉に家族は目を丸くし、
「ええっ?」
「こ、これがかや?」
「ピュウ?」
と、口々に驚き―――
同時に担当者の人も口をポカンとあける。
「こ、これがですか?」
「ああ、もちろん丸かじりってわけじゃ
ありませんよ。
薬味と言って、刻んで麺類とか他の
料理にかけるんです」
「ほお、さすがシン殿。
後で見せて頂けますか?」
魔王軍幹部の言葉に私はうなずいて、
「もちろんです。
……おや、これは?」
「んん?」
私が手にしたカブのような物を担当者の
男性が見ると、
「し、失礼しました。
これは輸出品ではありません。
間違って入ってしまったのでしょう」
「これ、何ですか?」
すると彼は困惑し焦りながら、
「はあ、少なくとも食用ではありません。
煮ても焼いても土臭さが取れず―――
主に魚や魔物鳥の養殖用のエサとして
使われているものです。
生かじりしたら少し甘いと聞いておりますが、
緊急事態でも無い限り、食べるものでは」
食べられない事はない、というものか。
しかしカブのような形、生で食べると甘い、
かと言って調理には向かない……
どこかで聞いたような。
「……ちょっとこれ、もう少し用意して
もらえますか?
試したい事があるので」
「は、はあ」
そして私たちは、厨房へと移動する事になった。
「え!?
こ、これがあのエサ……!?」
「とても甘いです、シン殿。
これはいったい」
担当者さんとグラキノスさんが、出来上がった
それを味見して、驚愕の表情を向ける。
「メープルシュガーとは違った甘さだねー」
「こっちの方がやや上品な味わいだのう」
「ピュ~♪」
家族もそれを舐めて感想を口にする。
おそらくこの野菜は、甜菜。
ビートと呼ばれるものだ。
某農業系漫画を見て知識として覚えていた
私は、さっそく抽出を試み、
・まず皮をむく。
・沸騰させない程度の温度の湯で茹でる。
・茹で汁を小一時間ほど保温。
・布などでそれを濾す。
・その後、アクを取りながら煮詰めていく。
おぼろげだが、その手順で進めていくと……
ドロドロに溶けたものが出来上がり、
それを試食してもらったところ―――
甘味として認められたのであった。
「これ、冷えたら粉状になると思います。
あと残った実の部分は、エサとしてなら
そのまま問題なく使えるかと」
そう担当者に話すと、彼は私の両手を
ガッチリつかんで、
「こ、これは革命です!!
さっそく王にご報告に参りましょうぞ!!」
と、彼は私の手を引っ張り―――
そのままユラン国王の前まで連行された。