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「そこからが本番なのかニャ、クリスタ」
俺は戻るべきだと思う。
しかしミーニャさんにとっては、そうではないようだ。
そして今の時点までのこの廃坑探索、考えてみれば順調過ぎた。
ミーニャさんが散々警告したような事態と比べて。
「ええ、そのようです。ただ、先はそう長くはないでしょう。その見えない部分の、そう遠くない場所に、この事態を引き起こした元になる何かがある。つまり、あと一息で、ここの問題は解決するか、少なくとも原因の手がかりがつかめるだろう。そう私は予想しています」
何となく前世に、こういうパターンがあった気がする。
甘い見通しで突っ込んだあげく、死屍累々という状況が。
もちろん前世の場合は、実際に死者が出た訳ではない。
廃人と退職者は出たけれど。
「まだ先が見えないので、撤退すべきという判断はしません。もう少し先、第12採掘坑分岐まで行ってみましょう。スケルトン数匹程度なら問題ありませんね」
「大丈夫ニャ。あとジョン、弓でスケルトンを狙う場合は、背骨の下にある広がっている骨を狙うのニャ。そこを砕けばスケルトンは立てなくなるニャ。背骨を砕いても動けなくなるけど、細くて狙いにくいニャ。頭蓋骨を割っても動きは止まるニャが、弓では多分無理ニャ。それ以外の部分は、大体折れても割っても、スケルトンは気にせず動くのニャ」
そう言えば、そんな事が教本に書いてあった気がする。
だからスケルトンが出た時は、基本的に光か聖属性魔法で倒せとも。
念のため、ミーニャさんに聞いてみる。
「ここまでと同じように、雷魔法で倒していきましょうか」
「エイダンの魔法は温存しておいた方がいい気がするニャ。それにスケルトンなら、十数体程度出ても問題ないのニャ」
ミーニャさんにとっては、問題ないようだ。
「ここからは隊列を変えましょう。先頭はミーニャさんのままで、二番目はジョンさんでお願いします。次がエイダンさんで、私が最後に行きます。この隊列で、第12採掘坑分岐まで進みましょう」
とりあえず、第12採掘坑との分岐までなら大丈夫なはずだ。
そこまでなら、俺の魔力探知と透視魔法で見えている。
万が一、奥の見えない部分から何か出てきても、クリスタさんの魔法で脱出はできるだろう。
だから多分、問題ない。
「わかったニャ。念のため、スケルトン以外が見えた時はエイダン、教えて欲しいのニャ。そしてジョンは、必要とあらば弓を射って欲しいのニャ。こっちに判断を求める必要はないのニャ」
「わかりました」
「では行くニャ」
ミーニャさんは、先程よりゆっくりと歩き始める。
ジョンも弓を左手に持ち、いつでも射る事が可能な状態だ。
俺は先が見えない地点を、魔力探知と遠視魔法で監視しながら歩いている。
何かが出てきたら、すぐわかるように。
更に並列思考を使って、前方の見える範囲に対して魔力探知をかけている。
何か不明な魔物その他が出ても、すぐわかるように。
このくらいなら、魔力の消費と回復がほぼ同程度。
だから問題はない。
一歩ずつ歩いて行く。
そして、前方からカツカツという足音が聞こえ始めた。
こちらの照明魔法に気づいて、スケルトンが近づいてきている足音だ。
まだ視界には入らないが、魔力反応でわかる。
「ここで止まるニャ。私は10mを切ってから動くニャ。それまではジョンに任せたニャ」
「わかりました」
ジョンが一歩左に出た。
右手は、既に背負った矢筒から矢を抜いている。
50m程度の距離で、スケルトンが視界に入った。
骨だけの身体に片手剣を装備した、教本に載っているのと同じ標準タイプのスケルトンだ。
それが2体、人間なら早歩き程度の速さで接近してくる。
これだと、ミーニャさんと戦闘になるまで、あと10秒もないな。
そう思った瞬間だった。
ジョンの腕が動いた。
1秒もかからずに2射し、さらに矢を1本つがえた姿勢で、そのまま手を止める。
まず、右のスケルトンが崩れ落ちるように倒れた。
一歩先で、左のスケルトンも同様に崩れる。
「とどめを刺してくるニャ」
ミーニャさんがダッシュした。
高速移動魔法を使ったかのような加速で、崩れたスケルトンに接近し、低く飛びながら蹴りを放つ。
バリッ、バリバリッ。
そんな音が響いた後、
ミーニャさんは、こっちを振り向いた。
「終わりニャ。魔石の回収は頼むニャ」
「わかりました」
クリスタさんが魔法を起動した。
多分、転送魔法だろう。
それにしてもだ。
「あの速さで動いている敵の、あんな狭い部位を狙えるんだな」
「飛んでいる鳥を狙うよりは楽だ」
いや、ちょっと待って欲しい。
「飛んでいる鳥って、弓で狙って落とせるものなのか?」
「ヒヨドリ程度なら難しくない。それに、鴨が集団で飛んでいたりする場合は、速射が出来ないと獲物を取り逃がしてしまう」
そう言えば昨日、ミーニャさんが言っていたな、と思い出す。
『普通の弓使いは、飛んでいるバットを速射で討伐、なんて事は出来ないのニャ』
やっぱり、何かおかしい気がする。
冒険者で弓使いならそれくらい当然、という事ではなさそうだ。
この場合、誰に聞けば一番正しい答えが返ってくるのだろうか。
ミーニャさんのさっきのダッシュも、常識とは少し違った気がするし。
ここは、クリスタさんに聞いてみるのが正しいだろう。
「冒険者の弓使いって、こんな事が普通に出来るものなんですか?」
クリスタさんは首を横に振る。
「ジョンさんの弓の腕は、現時点で既に、現役冒険者の中でもかなり上位の方です。そもそも普通の弓使いは鳥を狙う場合、どこかに止まっている状態を狙います。飛んでいる状態を速射で仕留めるというのは、少なくとも私の知識では一般的ではありません」
どうやら、俺の常識は間違っていなかったようだ。
そう思ったところで、ジョンの呟きが聞こえた。
「そうだったのか……。俺は、鳥は飛んでいるところを狙うものだと信じていたんだが……」
「ヘンリーが英才教育を施したのでしょう。速射と狙撃が高いレベルで両立できれば、討伐任務の際に圧倒的に有利になりますから」
村には他に狩人はいないし、冒険者も滅多に来ない。
田舎とは言え平野部の中心で、魔獣や大型獣が出るような環境ではないから。
だから『その狩りは普通じゃない』と指摘するような同業者もいない訳だ。
結果、ジョンは普通ではないやり方を常識と受け止め、実際には英才教育状態で弓をマスターしたのだろう。
でもそれなら、槍の腕も……。
「ジョン、参考までに聞くけれどさ。槍の腕も同じくらいじゃないよな」
「いや、槍は普通だと思う。少なくとも、ミーニャさんのように、槍が届かないところにいる敵まで落とすなんて事は出来ない」
いや、届かないところにいる敵を落とす事自体、そもそもおかしい。
困った時は、という事で、クリスタさんを見る。
「あの技が使えるのは、B級以上の冒険者でも、ごく限られた者だけです。そもそも近接戦闘について、ミーニャを基準にしてはいけません」
「大したことはないのニャ。そこそこ程度の奥義が使えるだけなのニャ」
「槍でも剣でも無手格闘でも奥義が使える、なんてのはミーニャくらいです。ですから参考にしないで下さい。なお、ジョンさんの槍の腕については、後でミーニャ相手に訓練してもらうつもりです。そうすれば、どれくらいのレベルか、今後どう鍛えればいいかがわかるでしょう」
ミーニャさん、やっぱり相当な実力者のようだ。
そしてクリスタさん、そこまで考慮済みという事か。