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「友達?」
「友達?」
「そう、友達」
「……なんか怪しい」
「怪しいって、裏あるって」
「……」
「そもそも、フィーバス辺境伯に娘がいたなんて話、聞いたことないし」
「でも、なんか前に騒がれていなかった?」
と、双子はこそこそと、私の前で話し始めた。堂々と前で話し始めてるところが双子らしいと思ったが、そんな堂々と前で喋らなくても……とも思ってしまう。だって、聞かれているのわかっていて、そんなことするってものすごくリスクが高いと思うから。
(まあ、そんなのこの二人には関係ないんだろうな……)
ルクスの方が物知りかと思っていたけれど、フィーバス卿に娘がいた、という話は知らなかったようで……いや、それ自体はあっているのだが、養子の話はそこまで広まっていないのだろう。もう、フィーバス卿が辺境伯領から出てこなくなって数十年はたっているだろうし、二人はまだ若いから、知らないことも多いのだろう。けれど、フィーバス卿が怖いということだけは何故か知っているようだった。
(皇帝陛下が嫌いで、よくない噂を広めているのかもしれないけれど)
まあ、その線は濃厚だろう。そんなことをする理由というか、意味もよく分からないのだけど。だって、出てこれない人に向かって、そんな悪口を広めるなんて、普通では考えられないからだ。
「全部聞こえているんですけど?」
「ああ、聞こえてた?」
「聞こえてたんだ」
「……」
「おい、子供には暴力振るうなよ?」
「アンタじゃないし、暴力は振るわないわよ」
私が双子を殴ると思ったのか、アルベドは少し慌てた様子で私を引き留めた。さすがの私でも双子相手に暴力を振るおうとは思わない。というか、そんな風に思われていた方が心外だった。私は、アルベドに「するわけないじゃん」といったら、彼はほっと胸をなでおろしたので、なんだかムカついてこっちには手が出そうだった。
ヒカリもおどおどとしており、何かフォローを入れた方がいいのではないかと、その場で慌てふためいていた。
「てか、闇魔法の貴族と婚約?確か、フィーバス辺境伯って光魔法の魔導士だよね」
「お、お坊ちゃま!」
ルクスがそういうと、場の空気が騒然とする。そこまで、まったく気にしていなかったアルベドが一瞬反応したことで、ルフレも、馬鹿なことをいったと、ルクスの方を見る。けれど、ルクスの言ったことが間違っているわけではない。前例がないから、受け入れられないというのも分かる。ただ、初対面でそれをいうということは、私にも、アルベドにも喧嘩を売るということなのだ。
わかっていて言ったため、何かあるのだろう。
(違う、関わりたくないからきっと、壁を作ってるんだろうな……そうじゃなきゃ、ここまでしないでしょ)
ルクスの性格は大体把握している。だから、これはこれ以上関わりたくないという意思の表れだろう。その証拠に、ルクスの好感度は少し下がっている。
(けど、悪いけど……これくらいの煽りじゃどうってことないのよ。アルベドだってそれは理解している)
アルベドがここでおこるとでも思ったのだろうか。それでも、その度胸というか、食って掛かってきた姿勢は、ルクスらしいと思った。まだこの時は、兄としての尊厳に縛られ、弟がいなければと思っていた時期だったから。双子を演じることで、自分を縛っていたから。
「アルベド」
「何だよ」
「怒ってないよね。これくらいじゃ」
「いつものこったろ」
ふんと鼻を鳴らし、アルベドは、頭をかいた。
ルクスはこれに驚いたようで、何で? といった驚愕の表情を浮かべる。アルベドのことを知らない彼らにとっては、彼を怒らせることが出来るのは、それだけだと思っているのだ。
闇魔法だから、という差別。それは、私が偽物聖女だと言われていたのと同じくらい、彼が何度も浴びせられてきた言葉だった。もちろん、それに慣れてしまうのはいけないし、慣れるなんてしなくていいと思う。辛いものは辛いし、偽物聖女でも、闇魔法の人間でも、良い人はいっぱいいる。それをわかっているからこそ、大勢の罵倒や、差別の声から少しだけ自分を守ることが出来た。
ヒカリは、申し訳ございません、と深々と頭を下げ、ルクスは弾かれたように、私の方を見る。事の重大さは、さすがのルクスでもわかるだろう。
ルフレにその裾を引っ張られ、クッとなぜか悔しそうな表情を浮かべていた。
「怒ってないからね。大丈夫」
「お、怒ってないって……怒るのは、おま……じゃなくて、レイ公爵子息様で」
「アルベドもおこってないでしょ?」
「ああ、これくらいのあおりで俺を怒らせられると思ってんなら、そりゃ見当違いだな。もっと煽りスキルでも高めてから俺に挑め」
「……な、なにそれ」
「ねえ、ルクス」
「ルフレ?」
ルフレは、少し私たちの会話の意味が分かっていないようで、困惑の表情を浮かべながら、ルクスの手を握った。ルクスは、なんでもないというように首を横に振って再度私の方を見る。
「そ、それで、本当に友達になりたいだけなの?」
「え?ええ、うん。そうだけど」
「信用ならないんだけど」
「あーまあ、信用ないのは、分からないでもない、けど……うん」
視線が泳いでしまう。
信用ない、というのはまあ、出会ったばかりだし、フィーバス卿の娘である証拠というのも、今日は家紋のが入ったものがないわけで。
ルクスは、ルフレを守るように立って、ヒカリもおどおどとこちらを見ている。まるで、私たちが悪者のようで、なんだかちょっと嫌な気分になってしまった。やっぱり上手くいかなくて、唸りたい気分だった。
「でも、何か下心あって近づいたわけじゃないし。いろいろお話したいと思ったのはほんとだよ。だって、アンタたち面白いって話聞いたから」
「面白いって話誰から聞いたの」
「意味わかんないんだけど!?」
「そういうところかなあ。ねえ、今度招待してくれない?」
「どこに」
「どこに?」
流れでどうにか押し切る作戦に変更し、私は、ルクスたちに家に招いてくれないかと持ち掛けた。二人は顔を合わせ、私の方を見ると、嫌そうに顔を歪める。しかし、断る理由もなかったのか、小さな声で、本当に小さな声で、うん、別に、いいけど、みたいな言葉をつぶやいた。
「よし、決まりね。なんか、引き留めてごめん。またこのお礼はいつか。アルベドいこう」
「おい、もういいのかよ」
「いいの。二人だって、星流祭楽しみに来てるんだろうし、邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「邪魔したのは、お前だけどな」
と、アルベドの小言を聞きつつ、私は彼の手を引いて、人ごみへ戻ろうと誘導する。本当は、人ごみなんて行きたくなかったけれど、双子から離れるにはこれしかないと思ったのだ。
ルクスもルフレも、ヒカリもぽかんとした顔で私を見ていた。全く突拍子もないことをする私のことを、不思議ちゃんだと思っているのだろう。彼らとの出会いは、聖女という物に興味がわいて招待状を送ってきた、というところから始まったけれど、今度はこっちからアプローチして、興味の対象になろうと。これはいい作戦だったと思う。
またねーと手を振って去り際、振り返れば、彼らの好感度はピコンと上がり7%と9%を示していた。これは、かなりの進歩だし、印象を残せたということでいいだろう。ただし、その印象がよかったかといわれれば、きっと滑稽で風変わりと思われたに違いない。それでも、彼らとの縁もできたわけだし、彼らが気になれさえすれば、私にきっと招待状を送りつけてくるはず。
(エトワール・ヴィアラッテアより先に、彼らとの縁が出来た。これは、皆を取り返せるチャンスかもしれない)
少し、本の一縷の希望にさえ、私はすがる。そして、喜ぶ。
握った手が少し汗で濡れていたのは、ごめんしてほしかった。