テラーノベル
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「……帰るわけない」
その言葉のあと。
沈黙が、ゆっくりと部屋に落ちる。
チャンスは、何も言わない。
ただ――
離れない。
「……なあ」
エリオットが、低く言う。
「中途半端なの、やめろよ」
視線を外さないまま。
まっすぐに。
「……」
チャンスの喉が、わずかに動く。
でも。
言葉は出ない。
「離すなら、ちゃんと離せ」
近づく。
座ったままの距離が、さらに縮まる。
「でもさ」
少しだけ、息を吐く。
「離さないなら――」
そのまま。
チャンスの胸元を掴む。
ぐっと引き寄せる。
「壊すつもりで来いよ」
その一言。
空気が、止まる。
「……っ」
チャンスの目が、揺れる。
迷い。
理性。
全部、最後のラインで踏みとどまってる顔。
「……やめとけ」
低く言う。
「今なら、まだ」
「無理」
即答。
かぶせるように。
「もう戻らないって言った」
その声は、静か。
でも、逃げてない。
「……」
数秒。
ほんの数秒。
それだけで。
十分だった。
「……くそ」
チャンスが、吐き捨てる。
その瞬間――
腕を引かれる。
強く。
今度は逆に。
エリオットの身体が、引き寄せられる。
距離が、消える。
「……言ったな」
低い声。
すぐ近くで。
「壊すって」
「……言った」
逃げない。
そのまま、見上げる。
「後悔すんなよ」
「しない」
迷いなく。
その答えに。
チャンスの中の最後の理性が、崩れる。
「……ほんと」
小さく呟く。
「最悪だ」
でも。
もう、止めない。
***
触れる。
今度は、迷いなく。
押し殺してたものを、全部出すみたいに。
でも――
乱暴なだけじゃない。
確かめるみたいに。
失わないように。
何度も、何度も。
「……っ」
エリオットの指が、背中に回る。
離さない。
逃がさない。
「……ここだろ」
かすれた声。
「お前が戻れなくなる場所」
「……もうなってる」
心臓の音が、やけにうるさい。
呼吸が混ざる。
距離が、曖昧になる。
どこからが自分で、どこまでが相手なのか。
分からなくなるくらい。
「……」
言葉が減っていく。
その代わりに。
触れてる感覚だけが、残る。
確かに“ここにいる”って実感。
触れているだけなのに。
「……」
エリオットは、目を閉じる。
あの空虚な夜とは、違う。
何も感じなかったはずの感覚が。
今は、全部ある。
熱も。
重さも。
近さも。
「……は」
小さく息が漏れる。
満たされていくのが、分かる。
少しずつ。
確実に。
空いてた場所に、何かが落ちてくるみたいに。
「……」
チャンスの呼吸が、すぐ近くにある。
それだけで。
さっきまでのざわつきが、消えていく。
「……なあ」
エリオットが、低く言う。
「もう逃げるなよ」
その一言。
チャンスの動きが、わずかに止まる。
でも。
今度は、離れない。
「……逃げねぇよ」
静かに、答える。
嘘じゃない。
もう、分かってる。
ここまで来て、逃げられるわけがない。
***
夜が、深くなる。
時間の感覚が曖昧になる。
ただ。
そこにあるのは――
互いの体温と。
重なった呼吸と。
離れない距離。
***
やがて。
静けさが戻る。
外の音も、遠い。
「……」
エリオットがぼんやりと天井を仰ぐ。
ゆっくり息を吐く。
「……やば」
小さく笑う。
今度は、空っぽじゃない。
ちゃんと。
満たされている。
胸の奥が、静かに落ち着いてる。
「……」
隣にいる気配。
チャンス。
さっきまでと同じ距離なのに。
意味が、全然違う。
「……なあ」
エリオットが、目を向ける。
「これで終わりとか言ったら」
少しだけ笑う。
でも、目は本気で。
「殴るから」
チャンスが、ほんの少しだけ笑う。
「……言わねぇよ」
短く答える。
それだけで、十分だった。
エリオットは、目を閉じる。
今度は――
ちゃんと、満たされたまま。
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ゆゆゆゆ