テラーノベル
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藍林檎学園の食堂は、中等部棟と高等部棟の間に位置する、天井が高く開放感あふれる空間です。
お昼休みのチャイムとともに、お腹を空かせた生徒たちが続々と集まってきます。
「わあ……! ひろと、見て! メニューがいっぱいある……!」
券売機の前に立った元貴は、色とりどりの写真が並ぶメニューボードを見上げて、瞳をキラキラと輝かせていました。小学校の時の給食とは違う、自分で選べる「自由」に、胸を高鳴らせています。
「どれにしよう……。オムライスも美味しそうだし、この『藍林檎特製カレー』も気になるなぁ。あ、あっちの週替わりパスタも……!」
小首を傾げながら、指をあごに当てて真剣に悩む元貴。その姿は、まるで宝箱を前にした子供のように無垢で、光り輝いて見えました。
そんな元貴を隣で見つめていた滉斗は、あまりの眩しさに心臓の鼓動が早まるのを感じていました。
(……やばい。何この生き物、かわいすぎる。さっきまで授業で疲れてたのに、食べ物見た瞬間これかよ。……はぁ、かわいい。一生見てられる。かわいい。無理、かわいい……)
「……かわいい」
「えっ?」
元貴が不思議そうに振り返りました。
「ひろと、今なんて言ったの?」
「あ……」
滉斗はハッと我に返りましたが、時すでに遅し。耳まで真っ赤にしながら、視線を泳がせます。
「い、いや……その、メニューの……写真が、綺麗だなって」
「そうなの? びっくりした、僕のこと言ったのかと思った」
元貴がいたずらっぽく笑うと、滉斗はさらに顔を赤くして黙り込んでしまいました。
「二人とも、決まった? 全然決まらないなら、僕がプレゼンしちゃおうかな!」
後ろからひょっこりと顔を出したのは、食券をすでに手に持っている涼架でした。彼は自分のことのようにワクワクしながら、メニューボードを指差します。
「いい? 二人ともよく聞いて。この学園に来たなら、まずは『ふわとろ厚焼き玉子サンド』を食べるべきだよ! これはね、高等部の先輩たちの間でも争奪戦になる伝説のメニューなんだから」
涼架の熱弁が止まりません。
「中の玉子がね、もう信じられないくらいプルプルで、一口食べると幸せが口いっぱいに広がるの。元貴みたいに優しい味がするんだよ。それから、滉斗にはガッツリ系の『スタミナ鉄板焼き』! これはね、特製のタレが絶品で、放課後の部活までエネルギーが切れない魔法のゴハンなんだ!」
「魔法……?」
目を丸くする元貴に、涼架は「そう、魔法!」と力強く頷きました。
「僕が4年間、この学園で生き抜いてこれたのは、この食堂のメニューのおかげなんだから。信じて損はさせないよぉ」
結局、涼架の熱烈な推しに負けて、元貴は玉子サンド、滉斗は鉄板焼き、そして涼架は自分のお気に入り(今日は山菜うどん)を選びました。
「……うん、おいしい! 涼ちゃん、教えてくれてありがとう」
「でしょ? 滉斗、お肉一口ちょうだい」
「……いいですよ。その代わり、涼架さんのうどんもください」
ざわめく食堂の中でも、三人の周りだけは、いつもの穏やかで賑やかな空気が流れていました。
元貴が美味しそうに頬張る姿を、滉斗は今度は(心の中だけで)「かわいい」と連呼しながら、幸せそうに眺めるのでした。
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