俺はサーフィーにペアン鉗子を手渡し、手で汗を拭った。
残り三十八人。俺とサーフィーを取り残し
刻々と時間は過ぎていく。
やがて魔界独特の青色の太陽が西へ沈んでしまった。
「サーフィー。一人で手術出来るか?」
赤い月が目立つ夜空の下で、俺はそう言った。
「うん。出来るよ。」
サーフィーが笑って言う。
「…先生、いいですか?」
俺が後ろを振り向き
先生の顔を見る。
「別に良いが、これは時間との勝負だ。分かってるな?」
先生の言葉に俺は頷く。
「はい。なら(手術道具)三号を。」
「よし。これだな?」
先生が手術鞄を取り出し、俺に手渡す。
(執刀するのは約5年以来か…)
なにやら先生の視線を感じながらも
俺は手術道具を出し、消毒した。
「メッツェンにペアン。メスから鉗子まである
それと薬もあるし、人工心肺もあるから大丈夫だな。」
久しぶりにゴム手袋をつけて
ペストマスクを着け直す。
開腹しようとメスを持ったときも
いつも異常に冷や汗が出た。
プチッとメスが入り、スーーっと切れていく。
ここまでの作業は時間も手間も掛からない。
数秒で終わる作業だ。
だが、久しぶりの俺にとっては一秒が一分。
切れば切るほど怖くなる。失敗しそうで逃げたい。
けど、先生は一人ひとりに何時間も使わないから
俺も数分で終わらせる。早く、正確に。
サーフィーでも出来たことだ。
「損傷が酷い。」
やっと開けた体内にはグチャグチャになった
臓器が並んでいる。まるで串刺しにされたようだ。
メッツェンで細かいところを切る。
電気メスで切断し、周りの皮膚で代用。
人工心肺を見ながら正確にする。
(これで大丈夫だろうか?生きてくれるだろうか?)
切り口を縫合をしながらそんなことを考える。
けど、こうしなければ間に合わない。
一人でも多く早く救わなければいけない。
当たり前のことだ。
「クルル。」
後ろから先生が語りかけてきた。
俺は曖昧に返事をする。
「効率が悪い。」
「え?」
突然、そう言われた。
「一人ずつするより一気にしたほうが効率がいい。」
「残り三十四人。お前は十七人やれ。
サーフィーも十七人やる。」
「わっ、分かりました。」
俺が返事をすると、先生は俺の肩を叩き
何処かへ飛んでいってしまった。
「ふ〜ん?」
サーフィーが俺を見る。
「クルルって執刀したことあるんだよね?」
「そりゃあるよ。
弟に邪魔されて執刀したくなかったけど。」
渋々俺が答えた。
「弟、居るんだね。じゃあ兄ちゃんと同じ長男か。」
サーフィーが悲しそうな顔で言う。
「うん。姉貴居るけどね。」
俺は下を向く。
「いいなぁ〜姉ちゃんか。俺は姉ちゃん居ないからな〜」
サーフィーが羨ましそうな顔で俺に言う。
「冗談じゃねぇ。俺の兄弟やらは暴力的なんだ。」
「前に一度、先生殴ったんだから。
許さないし縁も切った。」
俺は手を顔に当て、低い声で呟いた。
サーフィーが『ごめん。』と言い、患者の元へ戻る。
(気を取り直して手術するか。効率的に。)
こんなこと考えてる暇があったら手術しよう。
俺はそう思い、自分の頬を叩いた。
「十七人に執刀!小走りで作業しなければ!」
そう叫び、すぐさま開腹をする。
先生の薬も投与しながら時間と戦った。
「やっと…終わった…」
俺は近くの岩場に倒れる。
上を見てみると東から太陽が昇っていた。
「俺も終わったよ。ここまで長かったね。」
血で汚れたサーフィーの手が頬を撫でる。
「兄ちゃんさぁ、あの短時間で四十人したよね?」
「そうだな。あの人は凄いよ。」
俺が頭をブンブン上下に動かし、そう言う。
「それ、あり得ないと思うんだよ。たった四時間で。」
「だって一時間で十人だよ?」
サーフィーが疑いの目を向ける。
俺は速攻否定した。
「四十人なんて先生の手にかかれば簡単だろ。
薬も使ってたし。」
俺が言うと
サーフィーがこっちを見る。
「今、なんて言った?」
「え?薬も使ってたって…」
「…兄ちゃんは安楽死させるときに薬を使う。」
「生かすときは自分の手で生かす。
殺めるときは薬の手で殺めるんだ。」
サーフィーが真剣な目で俺を見る。
「え…まさか…。そんなこと…あるはず…」
「あるよ。俺たちに任せたのは情報入手のため。」
「情報を聞いたら、また薬で…」
言いかけて、止まった。
呆然とするサーフィーの目を追うと
目の前には先生がいた。