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――三田くんは、見ての通り、才色兼備で、誰が見ても素敵な男性ですね。わたしがもし三田くんに生まれていたら、もっと調子に乗っていたかもしれません。
三田くんは、中途採用で、うちの会社に入ってきました。それから約三年で、課長職に上り詰める活躍を見せてくれていました。
みんなからの信頼も厚く、能力も高い。文句のつけようのない男です。
ただ、わたしが心配になっていたのは、ちょっと三田くんが、気負い過ぎているように見えた点です。……例えば、みんなが息抜きをして、笑い合っている場面においても、敢えて周囲と距離を置く節が見られた。
確かに、仕事に真剣に打ち込むことは大切です。けれど、同じ会社に勤めるわたしたちは、仲間です。もし、同じ職場で働く人間に困ったことがあれば親身になり、嬉しいことがあれば分かち合う。職場は職務を全うすべき場所ではありますが、感情を共有する場所でもあると、わたしは考えております。
三田くんは意識して自分に厳しくしている節が見られましたが、新婦の莉子さんと一緒になってからは、笑顔を見せるようになった。いい意味で肩の力が抜けました。
愛情という、最強の宝物を手に入れた三田くんは、より一層職場で活躍してくれると思います。
これからも期待しています。……三田くん。莉子さん。どうか、末永くお幸せに。
三田家桐島家ご親族の皆様、本日は誠におめでとうございます。わたしも、これからも三田くんの仲間として、三田くんと莉子さんが幸せに過ごしていくのを、見守っていきたいと思います。ありがとうございました。
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隣に顔を傾ければ、課長が、ハンカチで目元を押さえていた。……あああ。課長。泣き上戸キャラは外では封印ですって! ……でも、嬉しいなあ……。確かに課長、外だとバリア張ってて……『ぼく』も滅多に顔を出さないし、もうちょっとね。家でも気を許して欲しいなあと……思っていたから……。
うう。もらい泣き。
スピーチを終え、自席に戻る部長にあたたかい拍手が注がれる。続いて祝辞を送るのは、わたしの大学時代の恩師、滝沢教授だ。彼はわたしと目を合わせると頷いた。
やがて、司会者の案内で、滝沢教授はマイクの前に立ち、頭を下げた。
――今日という日を迎えられて、感無量です――と。
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新婦である莉子さんの大学時代、二年に渡って彼女の論文指導を担当してきた滝沢です。
莉子さんから、結婚の話を聞いたときは嬉しかったですね。指導してきた学生は、いわば、自分の子どものようなものですから。
さきほど石北さんから莉子さんの職場での話が出ましたが、……ええ。莉子さんも、学生時代から非常に真面目で。言われたことをきちんとこなす。いや、求められる以上の結果を出すことの出来る、優秀な学生でした。
そんな莉子さんですから、きっと会社に入っても、ご活躍されているだろうことを確信しておりました。
聞けば、おふたりはともに仕事をするうちに恋に落ちたとのこと。……羨ましいですね。恋に仕事に……まっすぐ、ひたむきに突き進む莉子さんの姿が目に見えるようです。
おふたりの仲睦まじい姿は、見ているこちらの気持ちをも幸せにします。莉子さん。三田さん。どうか、末永くお幸せに。
ご両家の皆様、本日は誠におめでとうございます。
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滝沢教授は、嘘を言わないひとだ。本当のことしか言わない。
わたしが初めて添削して貰ったゼミ論は、ボロボロで、真っ赤っ赤だった。評価はなんと、F。それから、いくら勉強しても、頑張っても、わたしの論文は、C以上の評価を貰えなかった。講義はお情けでか、B。
いったいどんな錬金術を用いれば、A評価を貰えるのか。不甲斐ない自分が、悔しかった。情けなかった。恥ずかしかった。
けれど、あの教授が……滝沢教授が、認めてくれている。
五年越しに貰える、A評価だと思った。知らず、目から涙があふれていた。
(滝沢先生……ありがとうございます)
滝沢教授は微笑んで、席に戻っていった。
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