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「……なんだ?」「自然気胸だって薬、夜に渡していただろ。あれって、眠剤なんじゃね?」


( ギクッ!)


「普段、寝つきが悪いのにあれを飲むと、異常にぐっすり寝られたから。まぁ二日目からは飲んだフリして、うまいこと飲まなかったけどさ」

「あれは、その……正当防衛みたいな」


しまった――医者と患者の信頼関係が、見事に崩れていくじゃないか。


「なので治療を拒否するから、あしからず!」


俺を放り出すように太郎は身を翻し、ひとりきりでさっさと高台から降りていく。どんどん遠ざかっていく背中を、黙って見つめることしかできなかった。


「まいったな、どうすりゃいいんだ……」


自分がしてしまった過ちを、今さら後悔しても、どうにもならない。家に帰る道中、太郎の背中を追いながら、今後の対策を考えてみた。


「患者である太郎の希望を、最優先に考えて恋人になってやる」


これが一番、手っ取り早いんだけど――太郎と恋人同士になった絵面を思い浮かべただけで、ぞわぞわっと悪寒が走る。報われない恋に嫌気がさし、無謀にもうんと年下の大学生に、手を出しちゃいました。


なぁんて、もうひとりの自分が耳元で囁くような気がする。


「違うっ、違うんだ。そうじゃない!」


頭を抱えながら歩く俺は、傍から見たらおかしな人にしか見えないだろうな。でも、頭を抱えずにはいられない難題だった。


(医者として、純粋に患者を助けたいだけ。人恋しくなったからって、身近にいる太郎なんか、絶対に好きになれないし)


正直、羨ましいと思った。桃瀬と涼一くんが相手を思い遣って、視線を合わせる姿――傍にいなくても、お互いに心を通わせていて、想い合っているのを垣間見て、すっごく悔しいと感じた。


そしてさっき、高台の崖で太郎が寄り添ってくれたとき、不覚にもそれほど不快に思えなくて。こんな自分に想いを寄せてくれることが、奇跡というかなんというか。


「桃瀬から太郎に、簡単にシフトチェンジできれば、問題は解決するんだけどね……」


深いため息をついて目の前を見てみると、病院前の塀に寄りかかり、ぼんやりと夜空を見上げる太郎がいた。そんなアイツを無視し、さっさと傍を通り過ぎて、玄関の鍵を手早く開け、中に入ろうとした刹那。


「んんっ!?」


一瞬なにが起こったのか、理解が追いつかなかった。ぐだぐだな思考と一緒に、無理やりな感じで、太郎に呼吸を奪われている自分。


背後から音もなく、太郎が俺の体をぎゅっと掴んで、掠めとるようにキスをした。時間にしたら、ほんの数秒だったと思う。呆気にとられた俺を上から見やり、へらっと意地悪く笑いかける。


「俺を騙したバツ。ご馳走様でした、タケシ先生」


言いながら脇をすり抜け、さっさと先に家の中に入って行く。


「おい……」

「やっぱ好きなヤツとキスするのって、すっげぇドキドキするんだな。しかもタケシ先生の唇、思ってたよりも柔らかくて、俺ってば溺れちゃうかと思った」


太郎は照れた表情を浮かべ、頬を染めながら言い放つと、さっさと二階に上がってしまった。俺はドキドキよりも――。


「イライラという感情が、沸々と湧きあがったぞ。手を出さないって、言った傍からおまえはっ!」


――すべては隙を見せた、自分が悪いのだが……。


またしても太郎にしてやられ、怒りながら頭を抱えるしかなかった。

恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

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