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井川奎
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完全に日が暮れ、真っ暗な空から強い雨が降り注ぐ中。大通りから十分歩いたぐらいで着いたのは、線路付近に多数建てられている、二階建てアパートの一棟。 部屋は二階らしく、階段は野晒しのせいかところどころ錆びていて、麗華は滑らないように気を付けてと声をかけてくれた。
部屋に通してもらうと玄関の先にいきなりリビングがあり、「えっ?」と思わず見回してしまったけど、すぐやめた。
「ごめん。寒いと思うけど、お風呂入って」
麗華はわざわざお風呂のお湯まで張ってくれて、着替えも用意してくれた。
「ありがとう」
リビングとお風呂場の仕切りが、のれん一枚だったことに戸惑ったけど、今日はお母さんと妹さんは病院らしく、お父さんはいないから大丈夫らしい。
そんな言いにくいことをサラッと説明に入れて安心させてくれ、だから私もお風呂に入ることが出来た。
浴室は寒かったけど、シャワーからはすぐに温かなお湯が出てくれた。顔に直接浴びて情けない涙の跡を流して、お湯の中にチャポンと浸かると、見えてくる色々なこと。
私はやっぱり、あのグループに歓迎されていなかった現実。
それなのに高校入学時に話しかけてきた、真希の真意。
私たちの中にあったのは、友情ではなく……。
「はぁ」
膝を抱えて顔をお湯に浸け、これ以上ムダなものが流れないようにする。
時折、ガタンゴトンっと音が響き、地面が小さく揺れる。どうやら電車の通過音のようで、そういえば駅前だったと、ザワザワとなる心臓を落ち着かせる。
……って、何ゆっくりしてるの! 麗華だって濡れてるのにっ!
私って、何でいつもこうなんだろう。
気が回せない自分に、とことん嫌気がさしてくる。
お湯からパッと出て、貸してもらった服に袖を通していくと、上のTシャツはダボダボで、ジーパンは折らないといけないぐらいに長く、極めつけにはウエストはキツイという、全てに対して劣化した女子が洗面所のカガミに映っていた。
……麗華は長身でスタイルが良いけど、それに相反して私は低身長で今だに中学生と間違われることもある。
そっか、そうだよね。
夏休み中、二人並んで歩いている時に目に入ったショーウィンドウに映った私と麗華。
友達として全然釣り合ってないと目を逸らしてしまったけど、同じ服を着てみると、その体格差は嫌でもハッキリしてしまった。
あー、私って性格こんなんで、見た目もこんなんか。気も効かないし、何なんだろう?
「ごめんね、遅くなって」
和室にいた麗華は、部屋干ししてある洗濯物をハンガーから取っては、手早く畳んでいる。既にTシャツにジーパンに着替えていて、ファーストファッションだというのに絵になっていた。
同じ服着てるのに、この違い。ホント、神様って不公平だよね?
「お風呂入らなくて、大丈夫?」
「うん、もう乾いたから。それよりドライヤー、使って」
既に用意してくれていたけどスルーしてしまった洗面所に戻り、バサバサの髪に手グシを通して乾かしていく。
すると心が落ち着くような甘い香りがして、リビングに戻るとテーブルに置いてあったのはマグカップから湯気がホワホワと出たココアだった。
「えっ?」
私は思わず、差し出してくれた顔を見つめてしまう。
「あ、余計なお世話だったよね? でもこれだけ飲んで帰って。体冷え切ってしまっただろうから」
そう言って苦笑いを浮かべた麗華は、あの夏休みを共に過ごしたまま、何一つ変わっていなかった。
あの頃みたいに、テーブルを挟んで向かい合って座る。一口飲むと甘くやわらかな味が広がって、麗華と喫茶店で飲んだココアの味を思い出した。
「……っ、ごめん」
私はやっとその言葉を口に出来た。
ずっとずっと、伝えたかった本心を。
「ううん。私こそ、ごめんね。文が学校のことで悩んでいるってなんとなく分かっていたのに、クラス内で話しかけたのは軽率だった。あれから大丈夫だった?」
あまりにも優しい言葉に、喉の奥が突っかかる感覚がした私は声が出せず、小さく頷くことしか出来なかった。
麗華は、その先のことを心配してくれていたんだ。
その様子から、連絡をして来なかったのも私の為だったのだろうと分かる。
こんな、私なんかのために。
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